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第五章 討伐(2)

 幸いにも、と言うべきか、その日の晩に俺は夢の世界へ来ることが出来た。

 いや、真に幸運なのは、救出作戦の第一段階に必要な能力を、ちゃんと死神が獲得してくれていたことだ。

「鼻、ですか?」

 小首を傾げて問う小夜子ちゃんに、死神姿となった俺が答える。

「ああ、赤犬から能力吸収(スキルドレイン)で得たのが、鋭い嗅覚を持つ犬の鼻だ」

 これで悪魔の足跡を、あるいは亜理紗ちゃん達の捕らえられている場所を探るのだ。

 都合良く能力が現れてくれたように思えるが、もしかしたら、モンスターから獲得する能力はランダムでは無く、俺か死神が望む効果に近いものが選択されているのかもしれない。

 スライムの触手は死神が‘食べ物’に手を届かせるため、ゴブリンの小ステップは悪魔の攻撃を回避するため、そして、今回は相手の居場所を探るために。

 もし俺が赤犬の能力を戦闘で使うことを望めば、あの鋭い牙か爪が出てきたかもしれない。

 それを確かめるためには、さらなる能力を得るためにまた多くの赤犬肉を死神に食べさせなければならないだろう。得られる能力は一つずつであるというのは感覚的に理解できるので、この法則は間違い無い。

 俺の能力吸収(スキルドレイン)についての考察はさておいて、実際にこの嗅覚強化によって臭いを辿れるかどうかが問題だ。果たして現実の犬でも可能かどうか分からない手段ではあるものの、

「感度は良好だ、何となく方向が分かるぞ」

 どうやら上手くいったようだ。俺の鼻、実際に嗅いでいるのは死神かもしれないが、ともかく、悪魔が放つ強烈な獣臭と、亜理紗ちゃん達だと思われる人間の匂いが仄かに感じられる。

 ここがモンスター以外は限られた人間しか存在できないゴーストタウン同然のお陰か、匂いも紛れにくいのだろう。

 もし現実と同じ人口密度があれば、亜理紗ちゃんの匂いは辿れなかったかもしれない。

 そして何より、その匂いを感じられるということは、やはり夢の世界に彼ら五人が囚われている証明に他ならない。血の匂いも感じられないことから外傷も無く、恐らく気絶しているだけだと思われる。いや、そうじゃないと困る。

「それじゃあ、着いてきて」

「はい、黒乃さん」

 凡その向かう方角はすでに判明している、早速移動開始。だが、すでにして悪魔と五人が何処にいるのか、予想はついてしまった。

「たぶん、皆が捕まっている場所は春風神社だ」

 匂いはそこから漂ってくる。俺達が今歩いているのも、ついこの間、夢で春風神社に向かった時に通った三車線の表通りだ。

「もしかしたら、前に俺達が羽山を探しに春風神社を出て行ったあの時点で、もう坂本達があそこに囚われていたのかもしれないな」

「気にしなくても大丈夫ですよ、今から助け出せれば、それで全部解決です」

「ああ、そうだな」

 必ず全員救い出してみせるさ、俺達がやらなきゃ、誰も救えないんだからな。

 そう覚悟が決まる頃には、目的地である春風神社の前まで到着する。春風山の斜面にそって伸びるこの長い石段を上がれば、そこにいる。悪魔も、亜理紗ちゃんも。

 死ぬかもしれない。そう思えば、夢でも現実でも足を運んだこのただの石段も、死刑台へ続く十三階段のように見えてくる。

 恐怖も不安もある、だが、それを口に出すことはしない。覚悟は決めた、それに小夜子ちゃんの前だ、格好はつけなければ。

 さして悩んだ素振りは見せず、何て事の無いように石段へ一歩を踏み出す。小夜子ちゃんも不安そうな表情は見せずに、黙って俺に着いてきてくれた。

 赤犬の嗅覚スキルを継続して発揮し続けている為に死神を出しっぱなしにしているお陰か、石段を登っていても全く疲労を感じない。体力的なことよりも、一歩上る度に濃密に香る悪魔の体臭に心理的なプレッシャーがかかる。臭いだけじゃない、あの恐ろしい存在感とか威圧感とか、そういう気配が目に見えるんじゃないかというほどに、俺の直感的な部分を刺激して止まない。

 それでも、速度を落とさず淡々と登り続ければ、ほどなくして石段も途切れる。年季を感じさせるくすんだ朱色の鳥居を潜り抜け、ついに春風神社の境内へと足を踏み入れた。

「よう、俺たちのこと、待っててくれたのか?」

 そして、待ち合わせたかのように、山羊頭の悪魔(バフォメット)はそこに立っていた。石畳の地面を踏みしめる蹄、獣の下半身、人の上半身、黄金の双眸、右手に握る大鎌。

 悪の体現である禍々しい姿は、ただそこに居るだけでこの神社という神聖な場所を魔界にでも変えてしまったかのような雰囲気を放つ。

 悪魔は押し黙ったまま、ただ堂々と仁王立ちしているだけで、俺の言葉に返事をする事は無かった。まぁ、軽口を返されたらそれはそれで驚きだが。

「お前の捕らえた子供たちを今すぐ解放しろ」

 真面目に呼びかけてみても、やはり悪魔は何の反応も示すことは無い。もしかしたらと思い、一応は戦う前に声をかけてみようと思ったのだが、

「大人しく解放すれば、お前の命だけは助けてやる、どうだ?」

 無反応。やっぱり悪魔に人間の言葉なんて通じないか。まぁ、元からこのプランに期待なんてしてなかったけど。

「オーケー、交渉は決裂だ、今からお前をブッ飛ばす、覚悟しやがれ」

 俺の格好いい決め台詞にも、無言の対応を貫く悪魔。等身大の人形なんじゃないのかと思えるほどの不動ぶりだな。

「それじゃあ小夜子ちゃん、行ってくる」

「あ、あの、黒乃さん……」

 ここで初めて不安の表情を見せる彼女。思わず頭を撫でようとしたが、死神の手では傷つけてしまうかもしれないので、何とか思いとどまった。

「大丈夫だ、必ず上手くいく」

 だから、そう言うだけにしておく。単なる慰めじゃない、これは信頼の言葉だ。この夢の世界において、これまで一緒に戦ってきてくれた相棒と見込んで。

「はい、黒乃さん、頑張ってください!」

 俺の思いが伝わってくれたのだろうか。小夜子ちゃんも覚悟を決めた勇ましい表情で、俺を見送ってくれた。

 彼女の視線を背中に感じながら、悪魔に向けてゆっくりと歩みを進めていく。

 前に軽くブッ飛ばした俺のことなどまるで警戒していないのか、悪魔は相変わらず肩に鎌を担いだポーズのまま。

 そうして、ついに腕を伸ばせば届くほどの間合いにまで踏み込む。至近距離で睨み合う、悪魔と死神(オレ)

「亜理紗ちゃんに手を出したこと、死んで後悔させてやる。行くぜ――」




 死神と悪魔が互いに拳を交わすシーンが、鳥居の下で傍観者と化している小夜子の青い瞳に映る。

 拳で殴ったとは思えない轟音を立てて、二メートル越の死神が吹き飛ぶ。所々に苔の生した狛犬の片方を巻き込むように死神は倒れ、さらなる破壊音を響かせる。

「――っ!」

 小夜子の口から思わず悲鳴が漏れかけるが、何とか堪える。

 自分の役割は心得ている、そして、それはただ黒乃を心配するだけの感情的な役回りではない。

「うぉお、痛って……」

 一緒になって倒れた狛犬をどかしながら、黒乃がのっそりと立ち上がる。その様子を悪魔は黙って見続けていた。

 追撃しないのはあまりに余裕だからか、それとも警戒しているのか、もしかすれば、ただ何も考えていないだけかもしれない。

 悪魔の真意など気にするだけ無駄、と言わんばかりにダウンから復活した黒乃は次なる行動を躊躇せずに実行する。先は殴れる距離まで真っ直ぐ歩いていったが、今回はタックルを仕掛けるように腰を落とした構えをとる。

「はあああっ!」

 予想に違わず、雄叫びをあげて悪魔へ突撃していく黒乃。低姿勢のタックルを仕掛ける黒乃へ、直立不動で相対する悪魔からすれば少しばかり殴りづらいだろう。そして、その不利を覆して華麗に拳を当てる格闘技を悪魔が身につけているとも思えない。

 だが、ある程度は対処を変更するほどの知能を悪魔は持っているようだった。

 頭を腰ほどの位置にまで落として迫り来る死神に対し、悪魔が選んだ迎撃方法は蹴り。前回、貫手を繰り出す黒乃をブッ飛ばしたヤクザキックである。

「だあっ!」

 そして、黒乃はきちんと同じ轍を踏まないよう注意をしていた。ゴブリンを喰らって得たという素早いステップを駆使して、ハンマーのように突き出された蹄を回避した。

 一旦横に飛んだ死神は、着地と同時に再びステップを踏み、慣性を無視するような勢いでまた悪魔へと踊りかかる。空を切っただけの蹴り足が戻るより、黒乃が掴みかかるほうが早かった。

 悪魔も一応は人の形をしてはいる、片足の状態で押せばあっさり転倒するはず。だがその予測はあっさり覆る。

「ぐっ……くそっ」

 蹄の下から根でも張っているかのように、悪魔は片足のまま死神のタックルを受け止めていた。インパクトの衝撃を完全に受けきった後に、ようやく蹴り足は地面に戻り、再び獣の両脚で立つ悪魔。

 黒乃は正面から組み付いたまま、尚も力を篭めて悪魔を押すが、すぐ傍に生えている春風神社の御神木のように堂々と直立し、その体を僅かほども後ろへ傾けることが出来ない。

 そんな一方的な膠着状態が数秒だけ続いた後、悪魔はどこか面倒くさそうに左手で死神の頭部を掴み、自分から引き剥がすように後ろへ押し出した。

 グキリ、と音が聞こえそうなほどに死神の体が海老反りになるが、黒乃は意地でも離れないと言わんばかりに両腕を悪魔の腰に巻きつけたまま。

 しかし、それもやはり無駄な抵抗に終わる。次の瞬間には両腕の拘束は外れ、そのまま力ずくで黒乃は一歩後ろへ突き飛ばされる。

 たたらを踏む死神の姿を見て好機と思ったのか、それとも飛び回る羽虫のような煩わしさを覚えただけなのか。悪魔がどう考えたにせよ、次の一撃で終わりにしようという意思は黒乃にも、傍から見ている小夜子にも瞬時に伝わった。

 なぜなら、悪魔が右手に握る必殺の大鎌がこの時、高らかに振り上げられているからだ。

「黒乃さんっ!」

 思わず声をあげる小夜子、だが、それで悪魔の手が止まることは無いし、黒乃が助かるはずもない。 そんなことは分かっている、しかし、それでも声を出さずにはいられなかった。

 この一撃は黒乃の命を奪うかもしれない――だが、その反面、これこそ待ち望んでいた逆転への初手なのだから。

 振り下ろされた悪魔の大鎌は、吸い込まれるように死神の体へ命中した。

「ぐああっ――」

 ついこの間と同じ場面が小夜子の目の前で展開されていた。深々と死神の体へ無骨な刃が突き刺さり、傷口からは血液の代わりに黒い靄のようなものが吹き出る。

 目を背けたくなる光景だが、小夜子は注意深く死神の、黒乃の姿を見つめ続けた。

 前と同じく心臓の辺りを狙ったのだろうか、刃は左胸を貫いている。それが一体どれほどの激痛であるのかは、苦痛の叫び声から察することしかでない。

 だがここで重要なのは、黒乃がただ痛みに苦しんでいるだけでは無いという事だ。自身の左胸を貫かれた死神は、それでも尚、両腕を動かした。いや、腕だけでは無い、その身からはいつの間にか十本の黒い触手を伸ばしている。

 合わせて十二の手は、自分の体へ突き刺さっている大鎌へと絡みついた。

 その様子に悪魔も異常を感じたのか、すぐに刃を引き抜こうとするが、渾身の力で鎌を抑える死神がそれを許さない。黒乃はさらなる抵抗を続ける。

 死神が数多のモンスターを喰らってきた大口を目一杯に開くと、そこから文字通りの意味で火を噴いた。

 曰く、赤犬のボスを喰らって得た能力らしい。

 轟々と勢い良く口から放たれる火炎の奔流は悪魔の頭を飲み込む。普通の人間相手なら無事で済むはずが無い。だが、相手は悪魔。しかも、炎の魔法を行使する佐藤崇の『ファイアーマージ』を相手に勝利しているはず、ならば、ただ炎を吹き付けるだけで悪魔を打倒するには至らない。

 だが、それでいい。この火炎放射はただの目くらまし。そして、これが事前に決めた合図なのだから。

「黒乃さん――」

 死神が‘我が身を盾’にして悪魔の鎌を抑え、かつ‘合図’を確認した瞬間、ついに小夜子が動き出す。

『聖天使サリエル』のエクストラは瞬時に発動。刹那の間に小夜子の手には白銀の槍が握られ、首元には純白のマフラーが翻る。

「――行きます」

 そうして、大鎌を振るう悪魔と火を噴く死神がもみ合う地獄のような領域に、天使は一直線に突撃していった。




「俺が悪魔の鎌を体で止める」

 我が身を盾に、というフレーズで思いついた作戦がこれである。なんの捻りもオリジナリティも無い、肉を切らせて骨を絶つとも呼べない下策としか思えない発想。

「そんな、危ないですよ黒乃さん――」

 と、小学生の小夜子ちゃんにも本気でダメ出しされたりもした。

「けど、悪魔からあの大鎌を奪うにはこれしかない」

 そう、この作戦の真の目的は、悪魔が振るう自慢の大鎌を奪い、それを使って殺すことである。

 悪魔は俺の全力パンチを受けて平然としていたことから見て、生半可な攻撃ではダメージを与えることが出来ない。恐らく、羽山達のエクストラ能力も通じなかったことだろう。

 その強靭な肉体があるからこそ、悪魔は常に余裕を見せてゆったり行動しているのかもしれない。

 俺達のエクストラでは致命傷を与えられない、だが、悪魔が持参した武器ならばどうだろうか。少なくとも『セイバーナイト』が誇る鋼鉄の装甲も、タフさには自信のあった俺の死神ボディも、あの鎌の刃は実にあっさりぶち抜いてみせた。

 一見すればただ大きいだけの鎌だが、その攻撃力は段違いであることは身を持って経験済み。これならば、圧倒的な防御力を誇る悪魔の肉体も切り裂くことが出来るに違い無い。

 危険は承知、だがこの夢の世界において悪魔を殺せる可能性を持つのは、この大鎌しかありえないのだ。それは小夜子ちゃん自身も理解していたのだろう、最終的には、俺の作戦を承諾してくれた。

 そして、その決死の作戦は今、半ばまで成功している。

「ぐぁあああああああああっ!」

 前々回と全く同じように左胸を貫かれた。変わらぬ激痛が俺を襲い、無様にも絶叫するが、今回は覚悟が違う。

 いや、それだけじゃない、前にこの攻撃を受けても俺の死神は『セイバーナイト』と違って一発で消滅しなかった。ならば、一回刺される分のダメージは耐えられるはずだ。

 つまり後は俺の頑張り次第、ここで何としてでも我が身に刺さる刃を抑えなければならない。

 気合で動かす両腕とスライム触手を全力で鎌の柄に絡ませる。そのまま奪い取るように引き寄せるが、悪魔の右手は頑として動かない。やはり、そうそう簡単に手放してはくれないか。

 けど、この期に及んでも左手を開けたまま、右手一本だけで耐えようとするその余裕が、お前の命取りだ。

 左胸から血液代わりに溢れる黒い靄、それが死神の体から流れ出る毎にエクストラ能力の消滅が近づくのを実感する。

 吸収した能力の一つであるスライムの触手も使用している所為か、前よりもさらに体力、気力、とでも言うべきエネルギーが減っていくのを感じる。

 だが、ここでもう一踏ん張りが必要だ。小夜子ちゃんに、合図を送らなければならない。

 赤犬のボスの心臓を喰らって得た能力は火炎放射だ。神社に到着する前に一度試して実験済み。大した火力じゃないが、小夜子ちゃんの‘奇襲’を成功させるための目くらましになればそれで良い。

 基本的に棒立ちの悪魔だが、自分に向かってくる相手を迎撃する際には凄まじい速さで攻撃を繰り出す、それを少しでも鈍らせることができればと思うが……まぁいい、効果は実際にやってみれば分かることだ。

 俺は大きく息を吸い込み、そのまま悪魔に向かって吹き付ける。気分は大怪獣、だが実際に火を噴くのは死神だ。

 赤犬やゴブリンを丸飲みする時と同じように目一杯開かれた死神の口から、灼熱の吐息を山羊頭に浴びせかける。頭部を火炎に包まれても、悪魔は呻き声の一つも漏らしはしない。

 こいつ本当はサイボーグかなんかじゃないのかと疑うほどの無反応ぶり。

 そんなことを思いながら、軽く意識が遠のきかける。

 鎌を握る力は緩めないが、火炎放射を続ける力は無くなっていた。気づけば、俺の口からは僅かに息が漏れるだけで、死神は口元に小さな火の粉を残して、火炎を吐き出すのが止まった。

「いいタイミングだ……」

 その時、視界の端に煌く白銀が映りこんだ。

 それは宙になびく長い髪と、手にする槍の色合い。悪魔の視覚にも、彼女の姿は突如として差し込んだ一筋の光のように映っただろうか。どうであれ、今この瞬間に気がついても、もう遅い。

「やああっ!」

 可愛らしくも勇ましい掛け声と共に繰り出されるのは、その可憐な容姿からは想像もつかないような鋭い白銀の一閃。

 本物の『サリエル』に勝るとも劣らぬ槍さばきで、数多のモンスターを血の海に沈めてきた一撃は、聖なる天使の敵対者としてこれ以上無いほど相応しい悪魔という存在へ解き放たれた。

 俺が必中を願う間も無く、白銀の刃が容赦なく肉を裂き、骨を絶つ鈍い音が聞こえてきた。

 当たった。彼女の槍は狙い違わず、見事に悪魔の指を切り落として見せた。

 もしかしたら、指一本さえも斬れないほど悪魔が硬い可能性もあった。だがアイツは小夜子ちゃんの槍を一度防御している、ということは、全くノーダメージでは済まないはず。

 そして、その予想が正しかったことは、この瞬間に証明された。

「はっ――」

 ピクリとも動かなかった悪魔の大鎌が、ついにその手を離れる。

当然だ、柄を握る右手には親指を残すのみ。人差し指から小指までの四指は、切り口から吹き出る鮮血と共に土の地面へと落下している。

「――あぁああああああああああ!」

 そして俺は、未だに己の左胸を貫く大鎌を、ようやくここで引き抜く。傷口から刃が抜けたことで、迸る黒い靄の量は倍増する。

 それはエクストラ能力を維持するには致命的な『出血』ではあるが、まだだ、まだ、倒れるわけにはいかない。

 ようやく、この悪魔を殺すに足る‘武器’を手に入れたのだ。コイツで一撃を喰らわせるまで、倒れられるかよっ!

「破ぁああああっ!」

 最後の気力を振り絞り、小夜子ちゃんと入れ替わるように、今度は俺が悪魔へと斬りかかる。

 死神にはやはり命を刈り取る鎌こそが相応しいと言わんばかりに、不思議と骨の手に馴染む。

 大上段に振り上げて、そのまま真っ直ぐ振り下ろす単純な一撃。本能が命ずるまま、我武者羅に繰り出す斬撃は果たして、

 ォオアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!

 見事に、悪魔の体を切り裂いた。

 初めて聞く悪魔の声は禍々しい断末魔。轟々と響く絶叫は俺の全身が震えるほどの大声量。

「ど、どうだぁ……」

 追撃を仕掛けたいところだが、俺は長柄の大鎌を杖代わりにして、立っているだけで精一杯な状態。

 対して、悪魔は左肩から右脇腹にかけ大きく斜めに斬られた傷口から、大量の鮮血を吹き出しながら、よろよろと一歩、二歩と後ずさる。

 オオッ……アッ……

 最後は、そんな小さなうめき声を漏らして、悪魔の巨体はうつ伏せに倒れこんだ。

 鈍い音を立てて自らが作り出した血溜りに沈むその様が、やけにゆっくりと見えた。

 そのまま数秒の沈黙が流れる。自分の吐き出す乱れた吐息だけが、聞こえてくる音の全てだった。

 悪魔はピクリとも動かない。

 未だ流れ続ける血が、少しずつ血の池の面積を拡大しているのみで、他には何の反応も見られない。

「や、やったのか」

「やりましたよ、黒乃さんっ!」

 どこか情けない響きの呟きに、小夜子ちゃんが答えてくれた。それでようやく、この恐ろしい悪魔を打倒したのだと実感できた。

「は、ははは……やった、やってやったぜ」

 万歳、と叫ぶほどの元気は、今の俺には残ってはいなかった。

 それと同時に、エクストラの維持も限界を迎える。死神の体はボロボロと風化していくように崩れ、瞬く間に虚空へその身を霧散させていった。

 それと悪魔から奪った大鎌も、何故か死神と一緒に消え去った。

 自分の体だけが残ると、俺は支えを失ったように、へなへなとその場で座り込んだ。正直、もう立っているだけで辛いのだ。

「あっ、黒乃さん、大丈夫ですかっ!」

 腰でも抜かしたような俺の情けない有様だが、それでも心配してくれたのか、小夜子ちゃんはエクストラを消すのも忘れて駆け寄ってくる。

 エクストラ発動状態で刺されると、痛みはあっても肉体そのものに傷跡が残らないのは前の一戦で証明済みだ。

 その代わり、エクストラ能力を限界まで行使すると、今すぐ眠りたくなってしまうほどに気力を消耗する。ようするに、とんでもなく疲れるだけで済む。

「ああ、大丈夫――」

 もう悪魔は倒したのだ、ただの疲労感くらいなんてことは無い。それを伝えようと駆け寄る小夜子ちゃんに向けて言いかけるが、台詞は途中で止まる。

「――なんだ、アレ」

 俺の目に映るのは、天使のように愛らしい彼女の姿では無く、その後ろ立つ春風神社の鳥居だ。

「えっ?」

 すぐ傍までやってきた小夜子ちゃんは、驚愕に目を見開いているだろう俺の異変に気づいたのか、視線を追って背後を振り返る。

 そして、彼女もすぐに理解できただろう、とんでもない異常がそこにあることに。

 何の変哲も無い寂れた神社の小さな鳥居。だが、俺達がついさっき潜り抜けた鳥居の内側は、そこだけ『夜』になっていた。

 背後には水平線に向かって沈む太陽が照らし出す桜木の街並み。悪魔の鮮血を思わせる不気味な夕焼け空が今日も変わらず広がっているが、その鳥居の中だけは一切の光を拒絶した黒一色で彩られている。

 いや、それはただ黒いだけじゃない。グルグルと渦を巻くように、不気味に蠢いているのが分かる。闇というよりも、混沌、とでも呼んだ方が適切かもしれない。

「く、黒乃さん……」

 その明確な異常事態を前に、小夜子ちゃんが俺へと縋りついた。

 俺も恐怖で全身が凍りつくような感覚を味わっているが、それを表立って露わにするわけにはいかない。再び気合を入れて立ち上がり、俺に抱きつく彼女の肩へ手を回す。

しかしながら「大丈夫だ」という慰めの台詞は出てこなかった。出るはずも無い。

「ああ、これはもう、ダメかもしれんな……」

 それは、俺に諦めの台詞を口にさせるには十分すぎる出来事だった。

 混沌渦巻く鳥居から、悪魔が現れたのだ。

 チラリと横を見ると、そこには俺が斬り捨てた悪魔の死体が横たわっている。つまり、鳥居から出てきた悪魔は、全く別の、新しいヤツだという事だ。

 思わずそんな確認をしてしまうほどに、悪魔はそこに転がっているのと同じ姿形をしている。

 そして、次の瞬間にはそんな確認など全く無意味なことだと嘲笑うかのように、さらなる悪魔が姿を現した。

 二体、三体、四体――次々現れる新手の悪魔は、五体目で打ち止めとなった。

「アイツが悪魔のボスか」

 最後に現れた悪魔は、山羊頭であることに変わりは無いが、その体色は白一色に染まっていた。

 焦げ茶色の毛皮は雪原のような純白に染まり、人の皮膚である上半身の肌は病的なまでに青白い。蹄から角の先まで白一色だが、その双眸だけは真紅の光を宿している。

 そんなアルビノカラーに合わせているのか、手にする大鎌まで白く染まっていた。

 この一目で分かるほど特異な色合いの個体を見て、ボスだという感想を抱くのは早計だろうか。実際のところ、白い悪魔は他の悪魔四体を脇にはべらせるように配置し、中央に堂々と仁王立ちしている。

 そして、その不気味に煌く紅い双眸は、真っ直ぐ俺達へ向けられている。

「小夜子ちゃん、もう無理だ、逃げてくれ」

「そんなっ、黒乃さん――」

 俺にはもう、戦う力は残っていない。いや、たとえ万全の状態であったとしてもこの悪魔軍団に勝てるのか? 答えは考えるまでもない、無理だ、不可能と言っても良い。

 これほどまでに圧倒的な戦力差を前にされれば、大人しく諦める気持ちも湧き上がるってものだ。

「い、いやです、私、黒乃さんを見捨てて逃げたくありません!」

「ありがとな、でも、いいんだ」

 そんな無駄なことは、しなくてもいい。

 すでに四体の悪魔は右手で鎌を担ぐお馴染みのポーズで、ゆったりと歩を進めて接近し始めてしまっている。

 俺達のやり取りなど全く意に介さない、介すはずも無い、コイツらは言葉の通じない悪魔なんだから。

「一秒くらいは、今の俺でも時間は稼げるかな」

 陽が沈むまでにはまだ幾許かの時間がある。その間、小夜子ちゃんが無力な俺を担いで五体もの悪魔から逃げおおせられるとは到底思えない。

 だが、彼女一人だけなら、もしかすればなんとかなるかもしれない。

 どちらにせよ、これで俺も夢から醒めない植物人間の仲間入りか。ごめんな亜理紗ちゃん、お兄ちゃんは君の事を助けられなかったよ。

「いやっ、そんなのいやです、黒乃さんっ!」

 自分の無力感をかみ締めながら、俺は小夜子ちゃんを庇うように一歩前へ出る。

 ああ、ちくしょう、やっぱり怖いな。あの悪魔が四体も同時に迫ってくるこの光景は一生悪夢に見そうだ。いや、死んだらそんなもの見ることもないか。

「ごめん、小夜子ちゃん――」

 最後にそれだけ謝って、正面に立つ悪魔どもに向かって拳でも見舞おうかとしたが、

「――あ?」

 四体全員、俺の事など全く見えていないかのように進路を変更し、そのままうつ伏せに倒れこむ悪魔の死体へ向かった。

 俺の闘志が空回りしている一方で、悪魔はそれぞれ倒れた死体の手足を担いで持ち上げ、今度は踵を返して鳥居の元まで戻っていった。

「なんだ、死体を持っていっただけ、なのか?」

 悪魔の口から真意が語られることは無い。

 結局、死体を担いだ四体の悪魔はそのまま鳥居を潜りぬけ、再び混沌の渦へと姿を消していった。

 そして、俺達を睨んでいた白い悪魔も、それに続いて混沌の向こう側へと去っていった。

 全ての悪魔が神社から退散すると、彼らの通り道となった鳥居の混沌も幻だったかのように消滅した。

 再び戻ってくる静寂。まるで今の今まで悪い夢を見ていたかのような錯覚を覚える。

 境内に残る悪魔の血痕だけが、一連の出来事が事実であったことを物語るのみ。

「た、助かった……のか?」

 今度こそ、本当に腰が抜けてその場で倒れこむ。もう全身に力が入らない俺は、何もかも忘れて仰向けに寝転がった。

「黒乃さんっ!」

「うおっ!?」

 その上に、円らな青い瞳に薄っすらと涙を浮かべた小夜子ちゃんが圧し掛かってくる。

「わ、私、黒乃さんが本当に死ぬんじゃないかと思って……もう、あんなこと、言わないで下さい」

「ああ、うん……ごめん」

 この子はどこまでも優しいな。あの土壇場においても、俺の心配だけをしてくれていたのだから。

 サラサラの銀髪を撫でながら、俺は命が助かったことに心の底から安堵感を覚えた。

「それと、もう一つ謝っておく。ごめん小夜子ちゃん、もう俺、意識を保ってるのも限界だから、本堂の中にいるみんなを助けてやってくれ」

「あっ、はい、分かりました黒乃さん。後は私に任せて、休んでいてください」

 天使そのものの微笑みを眺めながら、俺はそこで意識を手放した。




 ぐったりと横たわる黒乃の体を、未だにエクストラを行使し続けている小夜子は、その能力に任せて軽々と抱き上げた。

 流石に槍は消しているが、首元を白く彩るマフラーの装備は、彼女にパワーとスピードの両面において劇的な強化能力を発揮する。一般の成人男性の身長体重を少しばかり上回る程度の黒乃を抱きかかえることなど容易い。

 小夜子はそのまま軽やかな足取りで本堂に近づくと、賽銭箱の脇に黒乃の体を横たえた。どうやら、そのまま地面に寝かせたままでいるのが忍びなかったようだ。

「ふふ、黒乃さん」

 静かな寝息を立てて意識を失っている黒乃には、呟くような小夜子の呼びかけに反応できるはずもない。無論、彼女も分かって言っている。

 そして、分かっているからこそ、だろう。

「とっても、格好良かったですよ」

 天使の微笑みは一変。

 陶然とした、どこか淫靡な雰囲気を纏わせる妖しい笑みへと化した。晴れ渡った青空を思わせるブルーの瞳も、この時ばかりは光の届かない深海の如き暗さを湛える。

「悪魔を倒して、私を守って……そんな姿を見せられたら、私――」

 ふっくらとした桜色の唇を、花びらのような赤い舌がなぞり、艶やかな彩りを添える。

 次に、生唾を飲み込んだように、白く細い小夜子の喉がコクンと蠢く。どちらも無意識の、反射的な行動。

「――我慢、できなくなっちゃいます」

 二人の唇が、重なった。

 そうするのが当たり前と言わんばかりに、小夜子はその行為を実行するに些かの躊躇も無い。

「んっ……黒乃さん、好き……」

 雪村小夜子にとって、正真正銘のファーストキス。だが、そこに小学生の女の子らしい微笑ましさなど無い。

「好き、好き……大好き」

 うわ言のように愛の言葉を呟き、執拗にキスを繰り返す少女の姿は、唸りを上げて極上の獲物を貪り喰らう獣のようにどこまでも浅ましい。

 体力と気力の限界を迎えた所為か薄っすらと血の気が引いている黒乃の唇を、小夜子は思うがままに吸いつき、舐め、弄る。

 行為の最中、小夜子の頭と肩をすり抜けるように長い銀髪のポニーテールが黒乃の厚い胸板にハラリと落ちる。

 捕らえた獲物を逃がすまいと白蛇がその身を絡ませているかのよう、いや、実際に彼女の体は力なく横たわる黒乃へ寄り添い、四肢を絡ませ密着していた。

 それから、どれだけの時間二人の影は重なっていただろうか。少なくとも、夢の終わりを告げる日没は未だ訪れていない。

 最後に、一際強く唇を押し付けた後、名残惜しそうにしつつも小夜子はその身を起こした。

「ん、はぁ……今度は、黒乃さんの方からしてくださいね」

 口元を子供とは思えない色っぽい仕草でペロリと一舐めして、そんな事を言う。

 当然、答えは返ってこないが、今はまだ、それでも良いらしい。白皙の美貌を興奮で朱に染めながら、いやらしく口を歪めて笑みを浮かべる小夜子は、どこまでも幸せそうであった。

 それでも、自ら身を離せるほどには理性を残す彼女は、己に課せられた最低限の役割を果たすべく迅速に行動を開始する。

 黒乃曰く、この本堂の中に捕らえられた五人はいるらしいが、それがやはり正しかったことは即座に証明された。

 悪魔が開錠したのだろうか、施錠されていない本堂の正面扉を開くと、そこには見知った四人のクラスメイトと、見知らぬ幼児が一人、床の上に倒れている。

「これは……エクストラが発動しているの?」

 しかし、思わず疑問の声を漏らしたように、ただ五人は床に寝転がっているだけではなかった。恐らく意識を失っているのだろう、ピクリとも動かない。

 だがその体からは、幻のように半透明に透けた各々のエクストラが姿を現している。

 試しに、友人である坂本麻耶の『ヒョウコ』へ触れてみるが、以前触った時のヒヤリとした独特の感触は無く、ただ手が空を切る結果に終わる。

 どうやらこれは立体映像のように姿だけが見えているだけで、通常のエクストラの発動とは異なった状態にあるのだと即座に理解できた。

「この魔法陣みたいなのが原因かな」

 予想していなかった光景を前にしても、小夜子はうろたえる事無く冷静に思考を巡らせる。

 この本堂の中、御神体が安置されている場所はさらに奥なのだろう、ただ何も無い広間のようになっているこの部屋には、五人のエクストラの他に、もう一つ注目すべき異常がある。

 それが、この部屋の床と壁、一部は天井にまで及んでいる、血のように不気味な赤黒いラインで描かれた文様である。

 一見すると縦横無尽に血液をぶちまけたようにも思えるが、よくよく見ればきちんと直線や曲線、特に床に転がる五人を囲むように円が描かれている。

 さらに細かく観察すれば、ただの血飛沫に見える無数の点々も、意味は分からないが象形文字のように人為的に形作られたデザインになっていると分かる。

 小学生として人並みに娯楽作品を見た経験のある小夜子がこれらを見て、文字や図形を組み合わせて魔法が生み出される『魔法陣』という単語を口にしたのは自然なことだろう。逆に、この明らかに悪魔が描いたであろう謎の文様が、何らかの効果を秘めた魔法陣では無いと言うほうが不自然だろう。

 もっとも、詳しい効果などは実証しようもないのだが、単純な予測として、この血の魔法陣によって五人の意識をこの夢に捕らえ続けているのではないかというのはすぐに思い至った。

「もしかして、このまま放っておくと、エクストラが消えちゃうのかな」

 ポツリと漏らした直感的な予想は、自分で言っていて少し笑ってしまった。もう少し考えれば、失うのはエクストラだけではないだろうと予測できたとしても。

 多くの人がこの光景を見れば、邪教が執り行う生贄の儀式にしか見えないのだから。

「ふふふ、そしたら、この夢の世界で、本当に黒乃さんと二人きりになれるのかな」

 なんて素敵なんだろう、と言わんばかりの表情を浮かべる小夜子。

 だが、それを黒乃が望まない、つまり、五人が犠牲になることを受け入れられないというのは、改めて指摘されるまでもなく理解できている。

 そもそも、何のために命懸けで悪魔に戦いを挑んだというのか。もっとも、雪村小夜子個人の目的は純粋な救出であったとは言い難いだろうが。

「うん、大丈夫、ちゃんとみんな助けてあげるから」

 黒乃が望むなら、絶交した友人だって救ってみせる。

「貴女もね、亜理紗ちゃん」

 小夜子の視線は、見知らぬ幼児に向けられる。

 どこかで見た事のある幼稚園のスモックを身につけた、長い黒髪の女の子。

 自分と同じように完全な変身型エクストラではないのだろう、彼女の背中からは童話の妖精を思わせる二対の羽が生えているのみで、他に変化は見られない。

 小さな寝息を立てて蹲るその子は、まるで本物の妖精と見紛うばかりの愛らしさ。

 だが、そんな彼女を見つめる小夜子の視線はどこまでも冷たい。青い瞳はどんよりと曇り、未だに光を宿していない。

 彼女の脳裏に蘇るのは、決死の覚悟で自分に協力を申し出てきた黒乃の姿。そして、彼をそこまで必死に駆り立てのが、他の誰でも無い、この亜理紗という名の従妹である。

 二人の関係は最低限しか聞かなかったが、それでも黒乃がどれほどこの幼い女の子を大切に思っているのかは想像に難くない。

「そんなにこの子が大事ですか……」

 不意に漏れ出た小夜子の呟きは、恐ろしいほど冷たい響きを伴っていた。もっと言えば、殺気立っていると形容しても大げさでは無い。

 彼女の右手に再び白銀の槍が握られようとした――が、しかし、すんでの所で思いとどまる。

「ねぇ黒乃さん、私とこの子、どっちが大事ですか?」

 答えの返ってこない、無意味な質問を零してから、小夜子は淡々と後始末を始めた。

 荷物を右から左へ移動させるだけの単純作業、とでも言いたげに、エクストラ能力のパワーを駆使して五人を悪魔の魔法陣から外へ運び出す。

 体を本堂から出すと同時に、半透明に浮かび上がるエクストラの姿も消え去った。恐らくこれで、今回の夢が終われば五人の目は醒めるだろうと思われた。

 そうして十分とかからず作業を終えた後、小夜子は再び黒乃の横へ寄り添うように寝転んだ。

 夢の終わりを告げる日没まで、天使の姿をした子悪魔は、思い人へささやかな悪戯をし続けるのだった。

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