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魔導師の落し者【休止中】  作者:
落ちる黎明の黒
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5:その世界

2012-09-04改変


 混乱から落ち着いて最初に行ったのは自己紹介。


 モッサモサもとい麗人のお名前は、ルキウス・ベルさん。ご職業は魔導師って仰ってました。

 そして私の名前は、鈴木(すずき) (みお)、生粋の日本人。


 麗しの素顔を隠していたのは、罰ゲームでもなんでもなく、単純にだらしないだけだった。何でも面倒と言うか忘れていただとか。


(―――どんだけ、不精なんだよ!折角の美貌が泣いてるぞ!責任者出て来い!)

(――もう何を言っても聞かないんだよ by ロゼウィン)


 ルキさんは、何度も確認したけれどやっぱり立派な男性で、こんなに儚げでけぶるような色気を漂わせているのに男性で。非常に勿体無い。女性にしては多少厚みのある体だし、身長も見上げるほど高いけれど、厚手の服を着ているのでパッと見には気にならない。黙っている時はそれこそ薄倖の雰囲気が漂い―――


『ぐへへ姉ちゃん、マブイじゃねえか。今夜一発どうだい』

『いや、お戯れを』

『ぐししし、泣こうが喚こうが誰もこねえよ』

『あーれー』


―――なんて事が、容易に想像できる。非常に勿体無い。

 その事にがっくりしていると、青ざめて微妙な顔をされた。何だか若干引かれている。おかしいな、口には出していない筈だけど。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  



 ここは、わたしが住んでいた地球ではなく、別の世界セイファートと言う国だということを教えて貰った。まるっきりファンタジーだ。

 わたしは「落し物」と言う異世界から落ちて来た存在らしい。この国では珍しくも無いそうだけれど、"私"はとても"珍しい存在"だそうです。寧ろ前代未聞。というのも、「落し物」で"生物"が回収されたのは、私が初なんだとか。そりゃあ、"生物"が空から降ってきたら、不味いだろう。というか回収前に終わってるだろう。―――よく生きてたな私。

 本当に生きている存在(・・・・・・・)が落ちてくると言うのは、初めてだそうで。魔導師は国の全域に結界の様な物を張っていて、結界を通り抜ける物を見過ごす事は無いんだそう。だから今まで落ちて来た物は、全て欠かす事なく回収されていると言っていた。十割確実と言い切れるとまで、言われた。国防総省が知ったら咽から手が出る程欲しがりそうだ。


 今回も私が結界を通り抜けた事で、ルキさんが回収に来られたんだとのこと。そもそも私が落ちた場所と言うのが、この国でも魔導師以外が立ち入れない特別な森らしく、普通わたしの髪の色と瞳では、決して近寄る事も出来ない場所に居た事で、わたしは「落し物」認定を受けたそう。


(落し物って…まるっきり思いっきり物扱いだ。くそう。)


 見つけたルキさんは、傷だらけでボロボロのわたしを治療して連れて来てくれたとの事。それにはきちんと素直にお礼をした。確かに高い所から落ちた時の衝撃を、身体がバラバラになる様な痛み体が覚えている。―――本当に、よく生きていたなと思った。


 彼の話を聞いて、何となくそんな気がしては、いた。けれど信じる信じないはまた―――別の話だ。


 ルキさんが助けてくれた。その事は間違いないし、感謝している。けれど、それ以外の事については、そう簡単に納得出来るものではないからだ。あまりにも、今まで私が生きてきた常識とかけ離れ過ぎている。

 ファンタジーは好きだけど、実際にそう言った物が有るか、無いか聞かれたら、私は無いと即答出来る。あくまでもファンタジーは空想・想像上の事である事前提として楽しんでいるのであって、現実にそんな事は無いと"知っている"。

 現代人として25年生きているのだ、ここが異世界だとか言われて、直ぐに「はいそうですか」とは信じられない。

 寧ろ、信じたくない。と言うのが正しいかも知れない。実はまだ何処かで、これは現実ではないと"望んでいる"自分がいる。森での事も、そもそもあの時は意識が朦朧としていたから、何か薬とかを使って意識を弄繰り回されていたら―――とか、つい裏を探ってしまう。そんな事だったら、今頃無事では済んでいないのだが、それはそれ、これはこれ。実は夢なのではないかと、何度も頬や腕を抓ってみたが痛いだけだった。

 この期に及んで物分りが悪いと言われたとしても、何が現実で幻想か判断が付かない。気付いたらこんあ状況に突然放り出されてしまったのだ。分かっているはいるのに、最後の最後で踏ん切りが付かない。あともう一押し、ほんの一押し何か(・・)があればわたしは諦める(信じる)事が出来ると思う。

 納得していない事が顔に出てしまったのか、ルキさんは深く息を吐く。


「何か見せれば納得するか?」


「見てみないと何とも…」


 試すような言い方をしてしまい、彼は低く唸って考え込んでしまう。今の私は凄く感じが悪いと思う。言葉が足りなくても、今までルキさんは私に対して誠意的だった。それなのに、困っている彼の様子を見て、少し申し訳なく思う。


(何故こんなに真剣になってくれているんだろう?)


 私が同じ状況に立たされたら、さっさと投げ出してしまっているだろうに。本当に、この人の事が良く分からない。人を突き放しているのか、親身になっているのか。

 暫く考え込んでいたルキさんだが、諦めたのか口を開く。


「俺は事実しか話せない、だがそれを他人にも理解させられるかと言われたら難しい」


「そうですか」


すみませんね、面倒な人間で。


「ロゼ…陛下の方が口が達者だ」


「…ヘイカ?」


平価?兵家?陛下???


「元々、会わせる予定だった」


 突然の話についていけない。ヘイカとはあの陛下で良いんだろうか。魔導師と言うのもルキさん自身の立場とかも分からないけど、いきなり陛下とは。まさか、陛下に説明なんぞさせるという事か。

 ファンタジーと言うのはこの際置いておいて、私の知っている陛下と言ったら、天皇陛下だ。雲の上の人である。上流階級の人間だ、いきなりそんなトップに会うなんて心の準備が出来ていないので焦った。


「それから服だが…」


 彼が見ているのは、わたしの服――ではなく、恐らく彼自身の外套。今の今まで羽織りっぱなしだった事に気付かなかった。勝手に拝借して、どれだけ図々しいと思われたか。


「あっ!すみません、勝手に借りてて」


「いや…」


 慌てて脱ぐと彼に返そうとして、自分の酷い格好に驚く。白いブラウスは赤黒く染まって、所々穴が開き、ボタンも取れかかっている。黒のスキニーも同様で、黒のために血の痕は目立たないが、太ももやふくらはぎの部分は大きく破れて肌が見えている。


(―――何処の猟奇殺人!?)


 傷だらけでボロボロだったと言うのも納得の酷い有様だった。ベットでは暗く、その後は外套を羽織っていた為に今の今まで気付けなかった。

 ショックを受けている私の前に、静かにルキさんが近づいてくる。

 変わりの服を貸して貰えないだろうかと、頼もうとして、ルキさんの次の行動にギョッとした。

 あろう事か、いきなり私の鎖骨の下、胸元辺りに平手を添えたのである。


(セッ…セセセクハラ!!?)

「ちょっ…何す…!!」


「…少し黙っていろ」


 いきなりの奇行に声を上げ様としたが、静かな声に諌められた。ルキさんの顔は真剣で、そこには私が想像した様な色は一切見えなかった。

 その態度に目を伏せてじっと耐える。それでも微妙な位置なだけに、心臓がうるさくなった。

 それを知ってか知らずか、ルキさんは目を閉じてジッと黙っている。

 動かない自分の体にやきもきし、早く手を離して欲しいと一心に思う。目線を手の添えられている胸元に落とすと、次の瞬間、目の錯覚かと思った。


「…何これ」


 血で染まっていた部分が、じわじわと吸い込まれる様に縮まり、範囲が小さくなっていく。解れた糸と糸がくっ付き、裂かれた穴が塞がっていく。

 まるでビデオを逆再生している様に、服が修復されていく。

 ルキさんが顔を上げた時には、取れ掛けたボタンも綺麗に着いて、わたしの服は元に戻っていた。


 絶句―――


 ルキさんは何て事ない様な態度だけれど、私には今目の前で起こった事が信じられなかった。正しく魔法の様な事が、現実に起きて私はそれを目にしてしまった。


 今度と言う今度は信じない訳にはいかなかった。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  



 カツカツと、靴底が擦れる音が廊下に響く。私はその後ろを小走りで追いかける。


 私の受けた衝撃、即ちここが異世界だと私が理解した、と分かった途端、早速陛下の所に行くと言われてしまった。元々私は陛下に会わされる予定だったとの事。

 心の準備がと言ったが、そんな物は必要ない、とぴしゃりと言われてしまった。その後、どうせ無駄になると言われた。どういう事だろう。

 裸足の私にルキさんが渡してくれたのは、ストラップが沢山ついてるサンダルで―――グラティエーターに良く似たタイプのもの。そして返そうとした外套を着せられた。身長も体型も全く違うので、肩の位置が合っていない。

 そのままだと裾を引き摺ってしまうので、裾を持ち上げて歩かないとすっ転びそうだ。少し羽織っている分には快適だが、着て歩くのは毛布被って歩いている様で地味に重かった。しかも今度はフードまで下ろされてしまい、前が見辛い。フードを外す事を聞いたら、決して外すなと言われてしまった。

 ルキさんも同じ外套を着用しているのに、こちらはフードを下ろしていない。


 部屋を出ると、ルキさんは迷いの無い足取りでどんどん歩き出した。私は慌てて後を付いていく。

 ゴシック調の石壁で出来た回廊を只管に進む。あの部屋の外はこうなっていたのかと、興味が引かれるが、ボケッとしてたら、置いていかれそうだ。

 コンパスが違うので、足を動かす速度をあげないと、自然と距離が開いてしまう。ルキさんの歩みは人を連れて歩いているとは思えない、まさに速度。競歩の様だ。


(…速度を緩めるとか)


―――いやいや、余計な期待はしないぞ。


 カツカツカツと大きめの音が回廊に響いて、人の目を集める。

 所々で侍女さんらしき人や、騎士っぽい人、それにルキさんと同じ外套を羽織った人などとすれ違う、皆がみんな彼を見て、ハッと息を呑む。

 やっぱり、彼の美貌は異世界でも見惚れるレベルなのかと関心していた。


 けれど、よく見ると様子がおかしい。

 彼を見る瞳に宿る、隔意、忌避、畏怖――――?


 何故、そんな目で見るのかと思い、足を止めてしまった。

 立ち止まった"私"と目が合うと、相手は眉を顰めて気まずそうに視線を逸らす。回りを見るが、他の人も同じ態度に益々疑問が浮んだ。


(……なんだか、嫌な感じ)


 すると後ろを付いてこない私に気付いたのか、少し先で振り返った、彼が、声をあげる。


「構うな」


 ルキさんは、これ(・・)に慣れているらしい。

 何が何だか本当に分からない。心に引っ掛かりを感じつつも、仕方なく、そんな思いを振り払う。



 王城と言う位だから、偉い人は高い所に居るかと思いきや、このお城はほぼ平屋造りだった。多少の階段はあっても、四、五段の低い物ばかりで、横に広がった造りの様だ。

 私達が向かっているのは、王族が住む後宮で、陛下の執務室に直接向かっている。

 陛下と会うと言われて、謁見とかさせられるのかと思ったが、非公式な会合なので執務室で会う事になっているそうだ。それを聞いてホッとする。今まで皇室・王室関係の人間と関わった事などないから、謁見マナーなんて分かる筈が無い。


 廊下と言う廊下、扉と言う扉を越えて、漸く執務室についた時には、息が上がってしまっていた。確か私は怪我が回復したばかりの筈なのに、この仕打ち。

 競歩で1km近く歩くなんて、会社勤めの人間にはちょっとしたスポーツだ。それに比べて目の前の背中は、息も乱さず涼しいもの。

 ―――余裕ですね。貴方。


 扉に向かってルキさんが声をかけると、中からは入室許可を与える穏やかな声が聞こえて来た。

 私も深呼吸し、静かに気合を入れる。


―――よし、行くぞ。

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