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祖国を離れ半月、大陸の港を出港して更に二週間の旅路。
遠く視線の先には陸地が見え、漸く旅路に終わりが見えてきた事を知る。
目的地、セイファート国。
遠い祖国から遥々出向いたのは、かの国の建国祭に列席する為。
四年に一度に行われていたと言う建国祭に、我が国が参加するのは数代振りだというにも関わらず、かの国へ送った列席の文には、歓迎の返信が届いた。
その事にまず疑問を抱いた。
と言うのも、祖国からこの国までは大陸を越えても足りぬ程離れている。世界の端から端まで移動したかと思えるほどの長い旅路だった。
その為に此度の様な久しぶりの来訪になったのだが、交易の無いとも言える国からの突然の来訪状に、かの国は正面から受け入れを表明した。
我が国が大陸東部にあるのに対し、この国は国境を持たない島国だ。
面積は、我が国の州を三つ合わせた物より狭く、小国といえる規模だ。
しかしこの近海の潮の流れは特殊で、平時には決して辿り着く事は叶わない。
建国祭のある四年に一度の凪の時期にのみ、かの国への路は拓かれる。
今まで他国からの侵略に晒された事が無いのは国自体が天然の要塞に守られていたからだろう。
所有する陸地が全て国土である為、住んでいるのは皆セイファート人が大半を占め、外国人は一割に満たない、それも殆どが婚姻関係などによる移住が大半で、逆にセイファート人が他国に出る事は滅多にないと聞く。
他国の文化を持ち込ませない徹底振りに、かなり閉鎖的国風を想像する。
逆を言えば、他国との貿易が一切無く、何者にも染まら無かったからこそ独自の繁栄もあったのだろう。
それが此度私がこの国に来ることにもなった理由でもある、――"恩寵"と言う彼の国に存在するという力。
生憎とこの国と我が国の交易があったのは大昔で、それが途切れて久しい今、かの国の事は古い書物の中でしか知る事が出来ない程に、遠く幻の様な存在だった。
残っている文献によると、かの国は年中温暖気候で豊な国土を持ち"恩寵"と言う奇跡に守られた神秘の国であり、どんな願いでも叶える樹があるという。
もしもそれが事実ならば、国主に掛け合ってでも、奇跡の樹を持ち帰るつもりである。
その為にならと、国庫も開ける事も厭わず、そして長い旅路を耐えてきた。
今我が国を深刻足らしめる事象は、もはや奇跡の力でも借りねば抑えられぬであろう。
四年に一度開かれる国交。
閉鎖は視野を狭くし、固執した思想を生む。かの国の国主が御しやすい人物であれば苦労もないが、何より情報が少ない。
途中で漏れ聞いた噂では、現在の王は三十路を幾らか過ぎた若い王だと言う。
それだけならば警戒する必要も無いが、王妃が"魔女"と言う噂には肝が冷えた。
世界に七柱の魔女。
【風・土・水・火・光・闇・時】を統べる彼女達の存在は、例え国主といえども個人が干渉できない存在である、まして国が抱えるなどそれこそ愚かと言える。
先を見据える目を持った者ならば、決して手を出さない存在である。
嘗て魔女の一柱を抱えた為に滅亡した、大国の悲劇を知らない国は無い。
だが例えそれが事実だとしても、私は引くつもりは無い。
祖国を出た時に決めた覚悟は、決して魔女であろうと曲げさせはしない。
身分を偽り、一月早くこの国を訪れたのは僥倖であった。
正規の入国まで出来うる限りの有益な情報を集め、もし国主に付け入る"隙"があれば、それを利用しない手は無い。
周りを見渡せば大小複数の他国船が見える。
―――いずれも建国祭が目当てだろう。
近付くにつれ、港の全容が見えてくる。
見渡す限り軍艦も無く、兵士が警備をしている様にも見えない。
まるで無防備に開放さている港は侵略を恐れない余裕なのか、単に浅慮なのか。
「面白い」
どちらであろうと、私はすべき事を間違えたりはしない。
凪いだ海は私を阻む事無く、私はかの地に足を踏み入れたのだった。