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魔導師の落し者【休止中】  作者:
落ちる黎明の黒
21/37

19:その落し者

「気付いたのかい?」


「はい、昨夜…ですけれど」


当然の事ながら、わたしに"突然髪が染まる"と言う体質は無い。

ならばこの世界に来てからという事になる。

恐らくわたしが分かっているだけで、先日ルキさんに簀巻きにされて執務室(ここ)連れてこられた時、そして昨夜の2回だ。

その証拠にわたしが先日の事を聞いた時、陛下もミシュも否定しなかった。

やはりあの時の戸惑った二人の態度は、わたしの髪と瞳の色にあったのだろう。


そして二つの共通項というが、"ルキさん"。

両方ともわたしは事前にルキさんに会っている、それはルキさんにされた事が原因なのではないか。

しかし時間も場所も、"された事"も何一つ一致していない。

一体何が"わたし"を変える原因となっているのか。

陛下はその事について、"知っている"とわたしは考えている。


「確かに先日ここに来た時既に、ミオは髪と瞳が変わっていた。恐らく…昨夜変わったと言うのも"白銀の髪に灰眼"になってたので無いかな?」

「はい…」


「カナン!私もその事は疑問に思っていたぞ。…それに何故あの色が出たのだ?」


それまで聞き役に回っていたミシュが初めて声をあげた。

彼女にしてもわたしの色彩が変わった事は疑問の種だった様だ。

しかし彼女の言い分だと、色が変わった事もそうだが、その"色"も重要らしい。

―――白銀の髪に灰色の瞳

この色を思い浮かべて出てくるのはルキさんだ。

前に彼の持つ色はとても珍しいと言われていた、それが関係しているのか。


「一つ言っておきたいのは、ミオ自身がどうこう…と言う訳ではないよ」


その一言にとりあえず、ホッと息を吐いた。「人体に害は無い筈だよ…十中八九ね」と陛下は続けている。

どうやらわたし自身の体が突然変異を起こしたわけではない様だ。

それは、やはり外部的要素が関係しているという事で。


「…まだ調べてる最中でね、不用意に話して混乱させるのはどうかと思ったんだよ」


陛下が前かがみになり肘を膝に乗せて、組んだ手に顎を乗せる。

確かに支配者階級の人間が、考えなしに発言して困るのは、力の無い下の人間だ。

けれどわたしは自分の事だから、隠さず教えて貰いたい。

わたしの言いたい事が分かったのか、陛下が物言いたげな瞳でわたしを見返してきた。

そしてため息を付き立ち上がると無言で窓辺の方に歩いていく。

わたし達はそれを目で追った。


「それでも聞きたいかい?」


振り返った陛下はいつもの"統治者"としての顔とは違っていた。

その表情は見た事がある、目の前の人は魔導師(別の顔)としてわたしに問いかけてきた。

わたしはすぐに頷いて答えた。


「分かった。ミオ立って壁際に立ってくれるかい?―――そう、こちらを向いてね」


言われるままに私は立ち上がり、陛下とは向かい合う様に壁側に立った。

指定された場所はミシュ達が居る場所とはかなり離され、陛下とも数メートルの距離が開いている。

突然の事に疑問を抱きながら、これから何が起きるのかを注視していた。


陛下は先程わたしの"紋"を浮き上がられた時の様に―――腕をわたし向けた


「……!止せ!!」


突然成り行きを見守っていたミシュが叫んだ。

視線を向けると驚愕の表情で立ち上がったミシュが、こちらの方に手を延ばしている光景。

声を向けられたであろう陛下を見ようとした時、陛下の翳した手の前の空気が歪んでいるのが見えた。

蜃気楼の様にゆらゆらと空気が歪む。

歪みと一緒に熱量が部屋の中に生まれ部屋全体を重たくする。

それ(・・)を核として雷鳴の様な光が走り、部屋の中を紫色に染めた。

(…プラズマ?)

その歪みが渦を巻くように集まり、


―――弾けた


全てがスローモーションになったかの様に感じ、歪んだ空間がわたし向かってくる。

歪みが通った床は瞬間蒸発し、押された空気が圧力となってわたしの髪を左右に弄ぶ。

リリアーレさんの悲鳴とミシュの罵声が聞えた気がする。


次の瞬間、何かがぶつかる様な衝撃音が聞え、部屋の中を光と煙が覆った。


「ゲホッゴホッ…煙い…!」


「ミオ!?お前無事か!?」


埃の中をミシュがわたしの方に駆け寄って来て、わたしの体をべたべた触った。

一頻り全身を確認されて「大丈夫だな」とミシュはホッとしていた。

(え…何?)

陛下がわたしに向かって手を翳した後―――後、何が起こった?

周りを見ると酸化して蒸発した様な床に、後ろの壁は真っ黒に焼け焦げていた。

ミシュに初めて会った時ほどではないが、酷い有様だ。誰かが部屋の中でダイナマイトでも暴発させたか?

わたしが周りの光景に唖然としていると、ミシュがわたしを後ろに庇う様にして、陛下に鋭い視線を浴びせていた。


「カナン!貴様どういうつもりだ!!ミオを殺すつもりか!?」


殺す!?一体全体どういう事だ。

ミシュは本気で陛下に怒りを向けている様で、殺気?だろうか、近くに居るわたしにもピリピリした空気が伝わってきた。

その気配は自分に向けられた物ではないとしても、十分怖くて、わたしはミシュの腕に無意識にしがみ付いてしまった。

騒音に部屋の外にいた騎士さん方が、扉を開けて入って来ていたが、陛下の「下がれ」と言う声に、すぐ扉を閉めて出て行ってしまった。


「…加減はしたよ」

「…っ貴様っ!!」


本気で怖い。

それを真正面から受けているだろう陛下は、及び腰にもならず平然とミシュを見返している。

何だか分からないが、国王夫妻の異様な雰囲気に、わたしはどうすればいいのか分からなくなってしまう。

ちらりと見たリリアーレさんは、突然の事に涙目で口を手で覆って言葉も出ない様だ。

ミシュは今にも自分の夫に殴り掛かりそうな勢い。


「それにミオは怪我一つ負っていない」

「論点を変えるな!!」


話しの流れから、わたしは陛下に何やら殺されそうな何かをされかけた様だ。

陛下が手をかざした後の事が、あまりにも早すぎて、いまいち状況が理解出来ない。

それに殺され掛けたのを怒ろうにも、先にミシュが怒ってしまい、すっかりタイミングを逃してしまった。

実際はこうして無事な訳だから、寸前で陛下が辞めたのか。


「…ミオ様!」


そこに夫婦の口論を打ち消すように、リリアーレさんの悲鳴の様な呼び声が上がった。

彼女を見ると、口を押さえた手はそのままに、わたしを見て狼狽している。

いきなり王が殺人未遂を起こした事が、やはりショックなのだろう。

うんうん、よく分かるよ。と思って居たら、何だか様子がおかしい。


その視線は真っ直ぐにわたしの顔部分に注がれている。

(まさか―――!)

先日も受けた反応に、ミシュと陛下の方を見てみると、ミシュは驚愕、陛下はなんとも言えない表情で見返してきた。

(もしかしてまた―――!)


「…かっ鏡っ…!!」


顔を確認しようと、おろおろと周りを見渡す。

いつの間にか陛下が近づいてきて「はい」と部屋の隅にあった姿見をわたしの前に置く。

置かれた鏡に自分を映して、さらに驚いた。


髪は煌く金髪、瞳は碧眼―――わたしの後ろに立つ陛下と、鏡の中で目が合った。


その色は正に後ろの陛下と全く同じで、こうして並んで見ると兄妹の様――――な訳がない!

どうみても似合わない!自分の顔にこの色彩がこんなにも合わないとは思わなかった。

鏡の中の自分は引き攣った顔をしている。

こんなのは陛下の様なギラギラした人こそが似合うのだと、心底思った。


「何だかおかしな事考えてるね」

「ひきょ」


心を読まれて口から変な音が出た。

やはり陛下は落ち着いた態度で、わたしがこんな姿(・・・・)になっても動じていない。

白になったり黄色になったり、最近のわたしは彩り豊かだな。

ミシュは先程の怒りを抑えて、今はまた大人しく成り行きを見守っている。

(ただ陛下を見る目が…まだマジだ)


「手荒な真似して悪かったね、効率を考えたらこれが手っ取り早いと思ってね」

「…あの…結局さっき何したのですか?」

「周りの空気に熱を加えて圧縮したものを、ミオに向けて放ったんだよ」


―――そういえば高校の物理の授業で聞いた事ある様な気がするぞ。


空気中の分子をイオンと電子に分けるとプラズマが発生します。

この現象を電離といいます。

ただしそうするには瞬間的に空気を高温度に上げて、それを保たなければならず、自然現象以外だと、機械を使わないとプラズマを発生させるのは難しいです。

有名なのは蛍光灯やガスの炎、テレビや空気清浄機が有名ですね。

自然界だと太陽その物や雷、それにプラズマの電磁波で歪められた空気となって現れたオーロラなどがあるよ。

これ次のテストに出るから、しっかり覚えてね。


簡単かつぶっちゃけて言うと、なんか物凄い高エネルギー。


先程の肉眼で確認できる程の"高エネルギー"は、どうみても荷電粒子砲レベルで受けたら死ぬ。

とりあえず死ぬ。

寧ろ生身の人間がそんなの手から出来るわけが無い。

何て非常識!ファンタジーマジ怖い!かめは○波は本当にあったんだ!


「…へっ陛下!何してくれたんですか!!?殺す気ですか!!!」


その時やっと、事の重大さに気付いたわたしは図太いのか鈍いのか。

一歩間違えれば、骨も残さず蒸発していた。

しかもさっき"加減はした"と聞いた、これの一体何処が加減したのか。

わたしは某起動戦士ではないので、間違いなく死ぬぞ。


「まあ普通の人なら死ぬけど、ミオなら死なないよ」

「その根拠も無い自信何処から来るんですか!」


「うん、今まさに目の前で、生きてるミオが居るからね」


「へ…?」


(生きてるわたしって――――?)


「…え?さっきのは陛下が寸前で止めて……」

「止めてないよ」


陛下の服を付かんで、問い詰めていたが、思わぬ一言にフリーズする。

( 今 な ん と ? )

答えを探す為に、恐る恐るミシュとリリアーレさんの方を見る。


(真正面からでした)(死んだと思った)


二人が口パクで訴えてきている。

物凄い勢いで肯定の頷きをしている。

あまりの事に言葉が出ない。わたし"アレ"を真正面から受けたのに死んでない?


「随分混乱している様だから、一つ一つ説明しようか」


「…え、は…い」


訳も分からず頷いていた。


「まだ確定ではない、その事を前提として聞いて欲しいのだけれど、我々の今までの認識で異世界の物である"落し物"には"魔導"が効かないとされていたんだ。それは覚えているかい?」


確か聖域の森(セイファート)には特殊な結界が張られてて、魔導師しか立ち入れられないと聞いている。だから魔導師でも無いわたしが居た事で、わたしは"落し物"認定されたのだ。


「はい、"落し物"が魔導を使った結界を通り抜けるからですよね?」

「そう。しかしその事実は違う可能性が出てきたのだよ」


「違う可能性?」


「考えてもごらん、魔導が効かないなら、ミオに治療は出来ない」

「―――あっ!」


そういえばそうだ。わたしは何度かルキさんから"魔導"の治療を受けている。

破れた服や血の痕を残さず復元させたのも、"魔導"だと聞いている。


「ミオ"だから"なのか、それとも違う理由があるのか、それさえも調べる事は難しい。比べる対象が"君"しか居ないのだからね。けれどルキから聞いた事実や、今目の前で起こっている事から、わたしは一つの"可能性"を、恐らく真実に近い可能性を考えている」


陛下の目は真剣そのもので、冗談を言っている様には見えない。

話しが核心に近づくにつれて、耳や脳が冴えていく様に感じる。

それはまさしく"真実"に近い事なのだろう。


「君は魔導の力を"弾く"でも"消す"で無く"吸収"している。それが魔導を使った相手の"色"として、髪と瞳に現れているのだよ」


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