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魔導師の落し者【休止中】  作者:
落ちる黎明の黒
2/37

0:その日

2012-09-04改変


象徴たる生命樹、樹の恩恵で緑豊かな国。

その国は()には無いものが2つあった。


1つ、国の中心となる生命樹。

2つ、生命樹の生みし魔導師。


そこに数十年前新たに1つ加わり、3つになった。


3つ、この国には色々なものが落ちてくる。





 今では「落し物」と呼ばれるもの。

 落ちてくるものは、大きいものや小さいものなど様々。落ちる場所や時間などもバラバラで、突然空から降ってくる為、生命樹の恩恵はたまた魔導の力かと思われたが、調べてみると力の欠片も感じないものばかり。それが"何なのか"分かる者は誰一人居なかった。

 数多くの魔導師が調査したが、結局は"それら"が何なのか分からなかった。魔導師とは生命樹より直接恩恵を賜った者の事で、特別な能力を身に宿している。能力は様々だが、魔導師は生命樹を通して理を()る・探求する為、殆どの魔導師が只人には無い知識を持ちえていた。

 そんな者達でも知りえなかった、「落し物」。


 即ち分かった事は"この世界には存在しないもの"という事だけ。


 結局、何処から落ちてくるのか、何の為に落ちてきているのか、どうやって使うのか、分からない「落し物」は一箇所に集められ魔導師が管理する事になったが、月日が流れる内に人々の「落とし物」に対する興味は薄れていった。




「落し物」、今ではそれを珍しいと思う者も居なくなった頃―――――







「いやぁッああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


――――今日もまた「落し物」は降ってくる。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  


自分は欠落している。

何もかも足りないものだらけだ。


家族は居らず、気付いた時には一人で生きていた。


物好きに拾われて、5年間一緒に過ごした。

物好きに無理やり魔導師の道に進まされて、今の立場を手にした。

物好きはさっさと自分だけ死んだ。


物好き(養父)が居なくなって、また一人に戻った。


欠陥(・・)しかない自分を最初は持て余したが、諦める事で早々に考える事を放棄した。

幸いにも今の立場なら、昔と変らない暮らしが出来る。

そう…戻った。自分にとっては物好き(養父)と居た5年間の方が異質。

少しの煩わしささえ我慢すれば、何も変らない。


*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  




 魔導師(ルキ)はその日、珍しくも人前に姿を見せた。



回廊を足早に進む彼を見て、すれ違う者は驚愕を隠せずにいる。肝心の彼自身はそんな空気を物ともせず、無言で進む。

外套を目深に被っている為、表情を伺い知る事は難しい。


 普段は人前を嫌い、一人で自身の実験室に引き篭もり好き勝手している彼は、物ぐさな性質なのか、もしくは徹底した人間嫌いなのか、日々の殆どを自室で過ごし部屋の外に出るのが稀であった。

 外に出る時と言ったら、国の要請で魔導師の力が必要になった時か、人に呼ばれた時だけ。そんな数少ない機会でさえ、最初は無視を決め込む徹底した引き篭もり。魔導師とはおおよそ自身の欲求には正直な者が多く、研究を始めると部屋に篭もりがちにはなるが、そんな彼等からも一線を画した引き篭もりっぷりだった。


毎度のことながら、今日の急な呼び出しにも相当な抵抗を見せていた。迎えに来た使者がドアをノックした瞬間に、部屋全体に結界をかけ外からの音を遮断してしまったし、無理やり術を破ろうとした者は転送術で強制的に遠くへ送ってしまった。

 本来そんな事をしようものなら、罰則ものであり、例に漏れず魔導師(ルキ)も処分を受けなくてはいないが、それでも彼は一人きりのひっそりとした空気から離れ難かった。

それでも諦めない先方(・・)の様子に、段々と抵抗する事が面倒になった彼は、漸く呼び出しに応じた。使者からしてみれば、もっと早く出て来い!と怒鳴りつけたくもなったが、ある理由(・・)から口に出す事は無かった。



 使者の後を黙ってついて来た彼は、一際大きな扉の前で使者が立ち止まり、扉の前に立っている騎士に声を掛けているのを見て、目的の場所に着いたことを知る。

 見上げた扉には部屋の持ち主たる者の‐紋‐が彫られている。‐紋‐は深名とも言い、生まれた時に授けられるものだ。家系・血統・家柄・地位を表す為に用いられ、また‐紋‐を彫った物を身につける事は自身に加護をつける事にもなるため、全ての人間が持っている。

 ―――――そう、全ての人間(・・・・・)が。



「………」

 扉に彫られた‐紋‐を見て、魔導師ルキはあからさまに眉を顰める。

 この国で知らぬ者の居ない、この国の名と同じ生命樹セイファートを模った‐紋‐。

 ―――使える人間は現在ただ一人。そして、数少ない魔導師ルキを外に呼び出す人間でもある。顔を合わせた時に見せるであろう、ヤツの自信に満ちた勝ち誇った顔を思い出しただけで、元々寄っていた眉根に更に深い皺が出来る。

 またろくでも無い事だろうと、魔導師ルキは早くも部屋に戻りたくなった。

 そんな心持の彼を置いて、入室許可を受けた使者は口上を述べている。


「魔導師殿をお連れしました」

「入れ」


間をおく事なく、呼び出した本人ヤツからの声が掛かり、更に眉間に皺がよる。ここで逃げ出したとしても、しつこく追いかけて来るだろうと、過去に実際追い掛け回された事を思い出し諦める。

 さっさと用事を済ませて部屋に戻ろうと心に決め、魔導師ルキは自身の名を名乗り扉を開ける。



「―――ルキウス・ベル 入る」




―――数分後、頭を抱えて彼は呟いた。


「出奔したい」

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