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魔導師の落し者【休止中】  作者:
落ちる黎明の黒
13/37

11:その仕事

「紋は他人の物を代用は出来ないのですか?」

「個人を表す物ですし、それに紋はこの国に居る限り身につけた者に若干の加護を与えるのです。代用するなんて考えもつきません。」

「加護?」

「はい、魔導師ほどの恩恵はありませんが、疫病や不運を軽減する作用があります」


(―――お守りみたいな物かな。樹が神様で、紋がお守り、神主さんが魔導師さんって所かな)

しかし、紋は代用が効かないのか。残念だ。



―――3日後、結局必要な物としてわたしが陛下に依頼したのは次の二つ。


・わたし用の紋

・今までの経歴


紋についてはやっぱり諦め切れなかった!

あれからリリアーレさんと相談したが、経歴について自分で考えたら穴が出来そうなので、いっその事丸ごと陛下に用意して貰う事にしよう、と言う事になった。

国の重要な書類を扱っている横で、わたしのしょうも無い経歴作成……何だか違う様な気がする。

紋についても諦めがつかなくて(2度目)書いてしまった。


「こんなの依頼して迷惑ではないですか?」

「こんな時の陛下ですわ。陛下は誉れ高きお方ですが広い政治手腕もお持ちです、きっと良い御知恵を下さいますわ」


陛下に信頼を寄せているのだろう、彼女は自分の事の様に自信満々に言う。

それにしたって、一応この国の統治者じゃないのだろうか、陛下。そんな人が真面目に作成わたしの経歴―――……何も言うまい。

紋についても、そもそも異世界人のわたしに対して用意できるの?である。便利なので是非とも欲しいが、無ければ無いで……諦めるしかない。うう欲しいなー。

―――物凄く、咽から手が出るほど欲しいけどね!

あれがあったらわたしの仕事(やりたい事)が非常にやり易いのだ。



「ふうん…面白い物を要望したね。もう少し夢のある事が書かれていると思ったけど現実的だ」

陛下はわたしが提出した要望書(リリアーレ代筆)を見て、笑っている。

(夢――!?あなたどんな物要求されると思ってたんですか!?)


「ああ、気を悪くしない様に。ミオが紋の事を知っていたのが意外でね、リリアーレ?」

「(だから心を読むなと…ああ~ッ)……はい実際に見せて貰いました」

「そう。まあ、経歴については任せなさい。立派な「普通ので!!!!!」

「……なかなか言うじゃないか」

「恐れ入ります」


―――余計な事は言わなくて良いんですよ陛下!


「それから紋については…少し時間が掛かるかも知れない」

「!?出来るんですか?」


ここには両親も居ませんし、この国の人間でもありませんが!


「何もミオだけが紋を持っていない訳じゃない。…この国にも孤児は居るからね。彼等も大事な国民だ、親から継げなかった者にも、後から紋を与えているんだ」

「そう…なのですか」


孤児か。そう言えば誰もが皆両親健在って訳にも行かないんだろう。

わたしも同じ様にして紋が貰えると言うなら、非常にありがたい。大歓迎だ。


「ところで、ミオは王城を出て何をするつもりなんだい?住む場所は一応王城にも近い城下に探してる所だけれど」

「それはですね…」


良くぞ聞いてくれたと思った!

この国の食事の残念具合を知った時からずっと、ずーーーーーーっと口出ししたくて仕様が無かった。

もっと工夫すればもっと美味しく!もっと楽しく食事が出来るのにとじれったかったのだ。

そう―――わたしが仕事(やりたい事)と言うのは


「フードコーディーネートです」

「フードコーディネト?」


ふっふっふ、陛下意味分からないって顔してますね。

その反応が懐かしい。日本でも職業フードコーディネーター聞いてすぐ理解してくれた人はあまり居ない。


「簡単に言えば食事をより美味しく!美味しそうに!演出する仕事です」

「…それが仕事になるのかい?」


―――言ったな、言ったなあっ!

仕事に情熱を持っているわたしに対して、陛下は失言(こぼ)しやがった。


「そこが甘いのですよ!そもそもこの国は食事が残念過ぎるんです!食材は確かに素晴らしくて美味しいですが、アレじゃあ料理って言うより食材を煮たか焼いたか蒸したかしただけの(ブツ)です!盛り付けにしたってただお皿に盛ってるだけですよね!もっと彩りとか配置とか食器にしたって大きさや形にこだわりましょうよ!陛下とか王妃様があのワイルドな食事食べてるの見るととても切ない気持ちになるこっちの気持ちを分かって貰いたいですね!食事は欲求の一つで人間に取って非常に重要な部分を司っているんです!一日三食の食事が美味しく満足な物だと、気持ちのゆとりも出来てストレスも少なくなり仕事の作業効率だって上がるんです!疲れた時にお茶を飲んで一息付くでしょう?そうそう、それです!その様に食事が身体的にも感情面にも非常に影響力が強いのです!それに食事は栄養素をバランス良く取る事で健康や体質改善など、身体的にもいい影響を与えてくれる物なんです!因みにわたしはそれで冷え性が治りましたからね!実践実証済みなので文句は言わせません。それに食事と言ってもただ食べるだけじゃなく、家庭、仕事、パーティ、冠婚葬祭、飲食屋、病院食、ダイエットなど必要とされる場所や時によって効果や印象を考えなくてはいけないのです!例えば飲食屋ですがその飲食屋を売れる様にするにはただ美味しいメニューを作るだけでなく、目玉となる商品を作ったり、年齢層や時間帯に合わせて出すメニューを変えたり、見せ先に置くサンプルを置くなどの工夫が必要なんです!サンプル一つにしても美味しそうに見える置き方やメニューなどがあるんですよ!ああ陛下には少し分かりにくいかもしれませんね!ではもっと分かり易くお話しましょう。ここの王城に勤めている人が食事をする食堂ですがそこのメニューが非常に不評だというのは陛下も知っていますね?週替りでメニューが変わるそうですが、それにしたって趣向品の一つも置かないのは間違っています!甘味は心の安らぎです!仕事に疲れて食堂にやって来たら何と!甘いケーキが食後についてて嬉しい誤算!何だか疲れも取れた気がする!何て素敵この後の仕事も頑張ろう!って気にもなるんですよ!何?そんな口調の奴居ない?たーとーえーです!例え!とにかく砂糖や甘味などを人の舌が感じると脳がエンドルフィンを分泌させて快感中枢が刺激されてリラックス出来るんですよ!そうする事で気持ちも落ち着きゆったりした気分にしてくれるんです!ストレスが多い人間と少ない人間が多い仕事場では職場の雰囲気は勿論の事、全体的な仕事の結果にも大きな差が出てくるんですよ!たかが食事と甘く見てると痛い目見ますよ!とにかく、わたしの仕事はそういったあらゆる"食"に関する総合的な演出や相談を受けるのが仕事です!」

「……」


(あ、しまった。あまりに熱が入りすぎて物凄く失礼な口聞いてしまった)

気が付かない内に執務机を乗り越える勢いで陛下に迫ってしまっていた。

陛下は物凄い驚いていると言うか呆気に取られているというか固まっている。あ、動いた。


「…ミオが食に対する情熱が良く分かったよ」

「すみません。…ただお分かり頂けて何よりです」

「いや、ミオは大人しい子なのかと思ったけれど、それだけでは無いと言う事か」

「…余計な口を開かないだけです」

「成程上手い言い回しだね」

「……」


なんだろう、この若干の敗北感。さっきのは勢いで驚いただけなんだろうけど、今後は陛下に余計な事言ったら自滅しそうだ。控えよう、なむなむ。

陛下への用事が終わったので部屋を後にする事にした。

部屋の外にはリリアーレさんが待っていてくれた。


「お帰りなさいませ、如何でしたか?」

「はい、両方共何とかなるかもしれません」

「それは良うございました」


ここ数日、何度か陛下の執務室に足を運ぶ事になった時は、何時も彼女が一緒に付いて来てくれた。

初めて訪れた時はたまたま何も無かったそうだが、わたしは存在が秘せられてるので、何か勘違いした人間が現れるかもしれないしれないそうだ。

「王城の陰謀とかって本当にあるんだ」と、のほほんとしてたらリリアーレさんが真剣な顔で気をつける様に念を押してきたので真剣に聞いた。

まさか陛下の執務室に堂々と行く事に目を付けられて、権力闘争に巻き込まれたり?とかあるんだろうか。そんなのこれっぽっちも興味無いから勘弁して欲しい物である。

とりあえず王城を出るまでは、一人では出歩かない様に、もし出歩いても人目の少ない所には立ち入らない事になった。




そういえば、出歩くといえば先日の「落し物」見学ツアーはどうなったんだろう。

わたしから話題にしない所為なのか、陛下からは何も言ってこない。

あの時は中途半端に他の人と別れてそのままなので、陛下以外とはその後何の音沙汰も無い状態だ。

王妃様も楽しみにしていたのに、あれから何の挨拶もせず悪い事をしてしまった。


それにルキさんも―――


体の一部がぎこちなく揺れた。

あの朝(・・・)の事を思い出す、それにその後の朝も―――




―――実はあの日以降―――夜寝る時はあの部屋に行き、あの椅子の上で寝て朝目覚めると言う事を続けていた。

翌朝起きた時、また包まって(・・・・・・)寝ていた事に赤面し、次の夜には椅子の上に既に外套が置かれていた。

何も言われてないけれど、拒まれてはいない、それが伝わってホッとした。

広間でのあの日以降、ルキさんとは一度も会っていないし会話もしていない。

けれどそれでも、伝わって来る―――相変わらず部屋に鍵は掛かっていない。

自分の不可解な行動には何もない、何もないと考える。この変な行動理由(動機)はわたしの意志とは関係無く動いてしまうのだ。

―――これは愛だとか恋とかそんな物ではない。



もやもやと思考が何だか怪しい雲行きになってきたので慌てた。

こんなのは昼間から悶々考える事ではない。


そうだ、王妃様!

彼女にお詫びの挨拶に行かなくては―――そう気持ちを切り替えた。

王妃様はあの時心配してくれていた様子だ、あの日のお詫びをしよう。

それに陛下から話は伝わっているかもしれないが、キチンと自分の口から王城を出る話をしておこう。

彼女はどんな風な反応をするだろうか。

陛下は寂しがるとは言ってくれたけど―――笑ってくれると嬉しい。


きっと彼女の笑顔を見たら、自分のやる事に恐れや不安なんて抱かないに違いない。

あの自信に満ちた笑顔を見ると、こちらにも自信が伝染する様で心強い。


こんなモヤモヤした気分も吹き飛ぶだろう。


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