夜宙舞う光の彼方
昔々、誰かが語る夜のこと。
夜宙に舞う光の彼方に、一人の少年が現れる――その話だ。
語る者は、遠くから少年を見た者の記憶だけ。
主人公は誰でもない。けれど、彼の存在は、夜空の中で確かに輝く。
昔々、ある夜のこと。誰が語るのかは分からない。夜宙に舞う光の彼方に、一人の少年が現れる――そんな話だ。
その少年は、人と会うことがとても少なかった。これまでの人生で、たった三人しか会ったことがない。名前も年齢も分からない。生まれた環境はあまり良くなかったが、ある日、誰かに出会って世界の色が変わった。その人から指輪を貰ったらしい。形も意味も、本人は分からないままだ。でもなんとなくその少年は左中指にはめた─
最初に会ったのは、夏の森で虫取りをしていた少年だ。日が沈み、迷った林の奥で彼を見つけた。普通の少年のように見えたが、その瞳は月明かりに吸い込まれるように輝いていた。「空を見ると、心がフワフワするんだ」と小さな声で言った。安心のような不安のような、得体の知れない感覚に引き込まれる―。それが、彼を見つめる者の心に残った。
次は、春の夜桜の下。夜行性の女性が、人影の少ない花見の場所に向かうと、傘もささずに雨の中を駆け回る彼の姿があった。濡れた髪と衣服に夜雨の光が反射し、幻想的だった。名前を尋ねても答えず、仕方なく彼女はその子に名前をつけたが、今では思い出せない。
三つ目は、秋の裏山で肝試しをしていた少年。ゴール直前に見つけたのは、闇の中にぽつりと立つ彼の姿だった。友達は怖がって近づけなかったが、会話を交わした少年だけが、その短い時間を鮮やかに記憶した。「君、お化け?」と尋ねると、首を横に振るだけだった。時が止まったかのように感じた数分間。それは確かに、日常とは違う時間だった。
どの日も、彼が現れるのは夜。満天の星空の下、月が主役の夜もあれば、雨粒が光る夜もある。出現場所はランダムで、会えるかどうかは運次第。夕日を見たのは人生で一度きり。小麦畑の向こうに沈むその光景は、彼の心に深く刻まれた。
少年は食べ物を食べることもある。会った人たちによると、人と一緒に食べるご飯は格別に美味しそうに見えるのだそうだ。名前も、時の感覚も、未来も――そのすべてが謎のまま。それでも、少年はこのまま自分のままで生きていくことを選ぶだろう。
夜宙に舞う光のかなたで、少年は星を見上げ、またどこかで現れる。誰かが見ても見なくても、その存在は変わらない。語り手も、主人公も、誰も特定されない。だけど、少年のことを覚えている者たちの記憶の隙間で、彼は確かに生きているのだ―
まずは読んでくださり、ありがとうございます☺️
初めての宵影として作品を出させて頂きました✨️
この作品は世界観や、あの子の不思議感を消さないように微調節して作りました。
私自身もこの物語を書きながら、宵影の謎や星空の景色に何度も心を奪われました。
気に入ってくれると幸いです。
もし「夜宙舞う光の彼方」を読んでくださった方がいたら、続編として、この子の過去や、ある人との出会いを描いた作品も書こうと思っています。
どうぞ楽しみにしていただければ嬉しいです✨




