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知能移植

掲載日:2025/12/27

野生生物による被害が多発する現状を受けて、科学者の中山大毅は人々を驚かせる提案を行った。それは人間の知能を野生動物に移植し、人間との共存をはかるというものである。


テレビでの彼の声明は全国民の注目を集めた。

「組織であれ国であれ、そこには統べるものがいてそこからあらゆる指示が出されます。それは自然の摂理であり、生態系においてもそうであるべきなのです。科学の進歩は人間にその役割を果たせるだけの力を与えました。動物たちが人間の理性を手に入れれば、我々に従うべきであるということを学び、自然は正しい調和を手に入れることができるはずです」


彼のその言葉は賛否両論を呼んだものの、結局は彼の言うとおりに事を進めることが決定した。


彼は研究所の近くの山で子鹿を捕らえ、その子鹿に特殊な手術を施した。人間の脳機能を移植したのである。その後も小鹿は彼の研究所の中で育てられ、やがて人間のような知性を得るに至った。


やがて中山はこの小鹿を元の山へと放った。

「ここまで育てたのに山へと戻してしまうんですか?」

と驚く部下に中山は、

「この小鹿をあの山に放ち、他の鹿たちに人間に従うように説得させるんだ。小鹿にはそうするように教育してある」

と説明した。


その後中山はその山にいる他の動物たちにも同じような手術を行った。それも一匹だけでなく、できるだけ多くの動物を捕まえては人間の知能を与えた。動物が多く生息するその山が丸ごと人間の支配下に置かれることになる。そしてそうなれば実験は成功で、他のあらゆる場所でも同じことを行っていく算段だった。


ある日、中山の部下3人がいつものように脳を移植させるための動物を捕獲しに山に入っていた。すると四方の茂みからガサガサと音がする。不気味に思った彼らは周りを見渡した。気付くと彼らは鹿や猪、さらには熊の大群に囲まれていた。そこからは異常なまでの殺気が漂っていた。


「お前たち何のつもりだ?そうだ、この中に我々が育ててやった動物がいるはずだ。我々はお前たちを悪いようにはしない。ここを通してくれ」

1人が大声で叫んだ。ここの動物たちは我々に従うはずであり、そうなるためにこそこの実験があると、この状況でも彼らは信じていた。


しかし時すでに遅しである。動物たちは一斉に彼ら3人に襲いかかった。


動物を捕獲に向かった3人が山の中で動物たちに襲われ死を遂げたという知らせが中山のもとへと届いたのは、翌日の朝のことであった。


中山の部下たちは衝撃を受けた。今回の動物の襲撃は明らかに偶発的なものではなく、動物たちが計画的に行ったものだからである。人間並みの知性を得た動物たちは、自分たちを捕獲に来る人間を倒すように考えそれを実行したのである。


動物たちにとって人間は従う対象ではなく、攻撃する対象となっている。この事実は中山の部下たちを戦慄させた。我々のやってきたことはただ自分たちへの憎しみを増強させるだけのものだったのか、彼らはもはや自分たちのやっていることに自信を持てなかった。


「中山教授、こんなことはもう辞めるべきです。我々の身が危ないだけだ」

一人の部下がそう提言した。

「今さら何を言うか?私の計画は狂わない。たまたまそういう動物がいただけだ。実験はこれまで通り続ける。正しい自然の秩序を我々人間が作り出さなければならないのだ」


中山は引き下がらなかった。彼の情熱的ともいうべきこだわりは、すでに彼らにとっての足枷となっていたのである。全国民に計画の全貌を伝えた以上、ここへ来て辞めるということは許されない、それが中山の考えだった。


それからも山では同じようなことが頻発した。山へと動物の捕獲に向かった部下たちは生きて帰れないことがほとんどであった。


やがて恐怖を感じた部下たちは、そのほとんどが研究所から逃走した。やがて中山のもとには忠実な部下が3人しか残っていない状況となった。


その3人のうちの1人が中山に告げた。

「教授、これまで私はあなたを信じてここまでやってきました。だから他の奴らのように黙って逃げるようなことはしたくない。しかしもう限界です。最初からこんな計画は無理だったんです。動物たちが人間に従うはずだというのが驕りだったんだ。彼らにすれば自分たちに改良を加えようという人間に従う義理なんてない。逆らおうとするのは当然のことです。簡単に考えれば分かることだったんだ」

「お前までがそんなことを言うのか?」

そう叫んだ中山は机の上のものを手で払って全て地面へと落とした。苦しい沈黙の中でその音だけが悲しく響いた。


「お前たちも出ていくか?そうすればいい。どいつもこいつも分かってはいない。人間には理性がある。だから人間は未開の地を開拓し、科学を発展させ、便利に過ごせる社会を築いてきたんだ。そこまでできる生き物が他にいるか?人間にしかできないんだ。それをほかの動物たちにも享受させてやるべきだと言っているんだ。人間にしかそれはできない。我々が果たすべき使命なんだ」

まくしたてるように喋った中山の額からは大粒の汗が流れていた。


「教授、果たして今のあなたに理性がありますか?申し訳ないが我々もここから出ていきます。もう嫌だ。あなたのやることにはついていけない」

「そうか、じゃあ出ていけばいい。私1人で十分だ。動物たちを全て従えてみせる」

ついに最後に残っていた3人の部下まで出て行ってしまった。もはや中山だけが1人狂気に取り憑かれたかのようであった。


それからも彼は実験を続けた。ある日彼は外へ出ようと研究所のドアを開けた。すると目の前に山のあらゆる動物たちが待ち構えていた。中山はしばらく声が出なかった。まず状況を理解するまでに時間がかかった。


しかし動物たちはそんな中山を待ってくれない。動物たちによって研究所は破壊されてその機能を失った。それを唖然として眺めている中山も無事ではいられなかった。


翌日研究所が壊されたことと、中山教授の死亡が全国民に報じられた。その真相は闇の中である。


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