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逆巻のオルゴールは狂わない
「そのオルゴールって?」
君は僕が手に持つ音を奏で始めたオルゴールを見て尋ねる。
「僕の大事な人がくれたものなんだ」
「そうなのね。これってもしかして、『亡き王女のためのパヴァーヌ』? 私この曲がとても好きなの」
「その人もこの曲が好きって言って僕にくれたんだよね」
オルゴールの鍵盤は止まることなく弾かれ続けている。曲を奏でるために小さな金属を震わせている。
「くれた人は今どうしてるの?」
「⋯⋯時の中を回り続けている、かな」
「なにそれ。君って意外と面白いこと言うね」
音がだんだんとゆっくりになっていく。そろそろ終わりだ。
「この曲が止まらなければいいのに」
「私もずっと聞いていたい」
何倍にも遅くなった独奏曲は最後に一音奏でて止まる。その瞬間、君の姿が消えた。
これは君がくれたオルゴールだった。その数日後に君は死んでしまった。でも、このオルゴールを鳴らせば一日に一回だけ君と話すことができる。ただ、記憶はこのオルゴールをくれる前の。そして、記憶は毎回、何回話しても次のときには忘れてしまう。
これを手放さなければいけないのはわかってる。この曲のためにも。だけど、何回だってネジを巻いてしまう。今もまた、亡き王女のためのパヴァーヌは流れ始めている。




