ヒーロー戦隊の憂鬱
ヒーロー戦隊…大好きです。
ドカ〜〜ン!!と爆発音が鳴り響き、「キャー!助けて~」と逃げ惑う人々。
「ガハハッハハ!この町を全て壊してしまえ」と怪人が手下に告げる。
最早この町の命運は風前の灯かと思われたその時・・・
「そこまでだ、怪人ども」と力強い声が響き、「貴様らの好きにはさせん」と叫びながら5人のヒーローが駆け付ける。
「だ、誰だ貴様らは・・・」と怪人がお約束のように問う。
「俺は正義の戦士『アカインジャー』だ」とセンターでポーズを決める。
「私は友情の戦士『アオインジャー』と申します」と何故か被っていないシルクハットを恭しく取るしぐさをしながら一礼した。
「うちは癒しの戦士『シロインジャー』よ。よろしゅうね」と女性らしいしぐさで片足を上げながら投げキッスをする。
「オラは力の戦士『キイロインジャー』だす」と地味に四股を踏んだ。
「わ・私は技の戦士『チャイロインジャー』です」と大きな胸元を恥ずかしそうに隠しながら告げた。
5人の自己紹介が終わるとアカインジャーが前に出て
「貴様らの悪事、天に代わって我らヒーロー戦隊が成敗する」とポーズを決め
「「「「「我ら5人揃って『ゴ二ンジャー爆誕!!』」」」」」と声をそろえて決めポーズを取ると、何故か背後で爆風が巻き上がった。
約3分間、隙だらけで自己紹介をするヒーロー戦隊を黙って見ていた怪人たちが思い出したように「しゃらくさい、やってしまえ」とゴニンジャーに攻撃を加える。
それを見て、「みんな行くぞ」とアカインジャーが声を掛ける。
「任せろ」とアオインジャーが続く。
「怪我をした人はうちが癒すよ」とシロインジャーも駆け出す。
「これでも喰らえ」と、どこから見つけてきたのか両手で抱えるほどの大岩を投げるキイロインジャー。
「エイ、ヤー」とチャイロインジャーが可愛く声を上げてザコ怪人の手をつかむと、何故かザコ怪人は自分から転がって倒れた。
やがて怪人は最後のボス怪人だけとなった。
「残るはアイツだけだ」とアカインジャーが他の4人に「今だ。奴の動きを止めろ」と声を掛けた。
他の4人が「「「「ラジャー」」」」と声を揃え
「右腕は私が押さえましょう」とアオインジャーが右手を取る。
「じゃあ左手はうちね」とシロインジャーが左手をつかむ。
「おいどんが右足じゃ」とキイロインジャーが抱きつくと
「残った左足は、わ・私が・・・」とチャイロインジャーが抱えこんだ。
4人がかりで両手両足を拘束されて身動きが取れない怪人に
「これが正義の力だ。怪人め思い知れ」とガラ空きとなった胴体にアカインジャーの必殺技が炸裂する。
「5人がかりで卑怯だぞ~」という怪人の言葉は、何故か巻き起こった爆炎にかき消され町に平和が戻った。
当然だが、倒された他のザコ怪人たちがどうなったかを詮索してはいけない。
戦闘を終え、基地に帰る5人。
「そう言えば、5人が集まってからもう一年が経つな」とアカインジャーが思い出すように言った。
「ああ、いきなり集められてヒーロー戦隊になれと言われた時は驚いたが」とアオインジャーもしみじみと呟く。
「うちはモデル希望で上京したのに」とシロインジャー。
「田舎から出てきたばかりで仕事が見つかって助かり申した」とキイロインジャーが続くと、「わ・私は今でも保母さんになる夢はあきらめていません」とチャイロインジャーが言った。
「集まったのがこのメンバーで良かったよ。俺たちの友情は永遠だ。これからも愛と友情で世界の平和を守る『ヒーロー戦隊ゴニンジャー』として頑張ろうな」とアカインジャーが明るく笑いかけた。
そのころ、怪人から守られた町では・・・
「ゴニンジャーが来てくれて助かったわね」とヒーロー達の話をしていた。
「やっぱりアカインジャー様は素敵だったわ」
「そうそう。頼れるリーダーって感じ」
「何言っているの。アオインジャー様のクールな佇まいを見ていないの?」
「出来る男オーラが滲み出てるわよね〜」
と若い娘達と奥様方によるアカインジャーとアオインジャーの推し対決が繰り広げられていた。
その一方では「シロインジャー様はマジ女神」や「シロインジャーたん」と若い男性や子供を抱えたパパ達がシロインジャーを褒めたたえ、その声にかき消されるように「チャイロインジャーのスタイルが・・・」と言う一部のマニアの声があった。
残念ながら、人々の話題に上らなかったキイロインジャーは食堂にいた。
「またカレーなの?」とチャイロインジャーが話しかける。
「あぁ、黄色のヒーローはカレーを食べる力持ちでなくては…」と俯きながら応える。
「そんなの50歳を越えたオジサン達の勝手な決めつけよ」とチャイロインジャーが反論するが、「地味な田舎者のおいどんは、所詮赤や青みたいな派手なことは出来んから」と寂しそうに笑った。
「そんな事言ったら、私なんて茶色よ」と自虐的に笑い、「何よチャイロインジャーって!全然可愛くないじゃない。まだ黒の方がマシだったわ」と憤る。
「いや、黒はお助けキャラかボスキャラ用にストックしておくとアカインジャーが言ってたから…」とキイロインジャーが宥める様に告げ、「それに•••名前なんて関係無くチャイロインジャーは可愛いから…」と照れながら言うと慌ててカレーを口に入れた。
それを聞いて「バカ、いきなり何言ってんのよ」と小さく呟き…「チャイ! いい、私の事はこれからチャイと呼んで」と人差し指を立てた手を振りながらキイロインジャーに告げ、「その代わりに貴方の事はこれからキイちゃんと呼ぶから」と茶色のマスクごしにもわかるほど頬を赤らめ「私は裏方でも頑張る貴方が好きよ」とそっと囁いた。
その日もいつものように怪人を倒したゴニンジャーだったが、何となくキイロインジャーとチャイロインジャーの距離感が違っていた。
それを敏感に感じたシロインジャーが、アオインジャーを誘い出して話し込んでいた。
「ねえ、アオインジャー」とシロインジャーが話を切り出す。
「最近、キイロインジャーとチャイロインジャーの様子が変だと思わない?」
「あぁ、この前も2人でケーキを食べていたし、『キイちゃん』とか『チャイ』とか呼び合っていたからな」
「これは確定かしら?」
「これは確定だな!」
と2人で頷き合う。
地団駄を踏みながらシロインジャーが「ズルい〜。うちは目立つから男友達も出来んのに。チャイロインジャーは地味だから彼氏が出来ても、世間から叩かれたりしないやろうし…」と悔しそうに呟く。
「私もクールキャラを崩せないし、町の女性たちから恨まれそうだからな…」とアオインジャーもキイロインジャーを羨ましく感じていた。
それを聞いたシロインジャーが「ねぇ、お互いに秘密にしないといけないなら…」と艶かしく見つめる。
「そうだな。私もシロインジャーが相手なら嬉しい」と2人の手が重なり…そのまま2人の影が重なった。
同じ頃、アカインジャーも悩みを抱えていた。
「おかしい。最近は以前の様に町の人達からの熱い声援が減っている気がする」と自分達の人気に翳りがさしている事を感じていた。
「それに、アオインジャーの人気が俺より高くないか?リーダーは俺なのに、何でアオインジャーに人気が負けているんだ…」と頭を抱える。
「やはり登場シーンが地味なのか?ギターを背負ってサイドカーで登場するか。それとも合体ロボを発進させるべきか?」と世界平和とは全く関係無い所で悩んでいた。
「やっぱり5人でゴニンジャーと言うのも安直すぎたかな〜。メンバーからは大反対されたのを押し切ったのも不味かったかな?」と更に思考は乱れ…ついに考える事を放棄した。
次の日の朝•••
「みんなちょっと聞いて欲しい」とアカインジャーが話し出した。
その提案が、このヒーロー戦隊ゴニンジャーに止めを指す事になるとも知らずに…
ドカ〜〜ン!!と爆発音が鳴り響き、「キャー!助けて~」と逃げ惑う人々。
「ガハハッハハ!この町を全て壊してしまえ」と怪人が手下に告げる。
最早この町の命運は風前の灯かと思われたその時・・・
『パーパパ〜 パパーパパ〜〜』と少し音程の怪しいトランペットの音が鳴り響く。
逃げ惑う町の人々は、この緊急時に鳴り響く緊張感のないトランペットの音に怒りを覚えながらも安全な地帯に逃げ込んだ。
「な•何の音だ?」と怪人が見渡すと、少し離れた丘の上で横を向いてトランペットを吹く赤い男がいた。
そして、その横にはバイオリンを構る青い男と、ピアノの前に座る白い女。
黄色い男はドラムではなく何故か大太鼓を抱え、その横の茶色い女は小学生が持つ茶色いリコーダーを持っていた。
「な?何だ貴様らは???そのピアノは何処から持ってきた?」とあまりにも場違いな集団に怪人が呆れたように声を掛ける。
すると赤い男が一際高くトランペットを吹き鳴らし「正義の戦士『アカインジャー』」とポーズを決めた。
それを見ていた青い男が白い女に目配せをすると、モジャモジャ頭の博士な感じを醸し出しながら情熱な大陸のようなバイオリンを奏でる。
そして、それに合わせてピアノ伴奏が入り、その情熱な大陸のメロディにドン•ドンと重厚な太鼓の響きと軽やかなリコーダーの音が重なった。
するとアカインジャーが慌てて「ちょっと、ちょっと…打ち合わせと違うじゃないか」と声を掛ける。
するとアオインジャーとシロインジャーが見つめ合い「だってね〜」と甘い雰囲気を作り出す。
その隣ではキイロインジャーがチャイロインジャーの手を握り「チャイのリコーダー、素敵だね」などとイチャイチャしていた。
「え?何これ?俺だけハブられてる?いつの間にそんな関係になってたの?」とアカインジャーが戸惑う。
しかし、もっと戸惑っているのは怪人達だ。
「え〜と?俺達はいったい何を見せられてるのかな〜?」
すると何処からか「「「「「空の声に導かれ、大地の叫びを胸に受け、みんなの声に応えるため…我ら『ヒーロー戦隊マシンジャーファイブ』ここに参上」」」」」とゴニンジャーよりもかっこいい(かな?)セリフを言って新たなヒーロー戦隊が現れた。
そして、新たなヒーロー戦隊は颯爽と怪人達を倒し、風のように去って行った。
すると町の彼方此方から「あら、あの新しいヒーロー達カッコいいわ」とか「あのヒロインも可愛いぞ」と言った声が聞こえてきた。
そして…チンドン屋(死語?)のようなゴニンジャーに対する不満の声も•••
基地に帰ったゴニンジャーは会議室の椅子に座り込み、各々が机の上に置かれたコーヒーを見つめていた。
始めに口を開いたのはアカインジャーだった。
「ねえ、どうして打ち合わせの通りにやらなかったの?」
それに応えたのはアオインジャーだった。
「打ち合わせも何も、アカインジャーが勝手に言い出しただけで、誰も賛同なんかしてなかったじゃないですか」
シロインジャーも続けて「それに、町が破壊されているのに呑気にピアノを設置しろなんて…」と聞いてはいけない質問をする。
「おいどんの太鼓も、人類が初めて木星に着いたみたいな感じで叩けと言われても意味がわからんですたい」とキイロインジャーも切り込む。
『いや、50歳を越える人達ならわかるはず•••』とモゴモゴと言い訳するアカインジャーに対し、「つまり、アカインジャーは絶望的にセンスが古いのです!!!」とチャイロインジャーが止めを指す。
「え、つまり音楽の方向性が違うと…?」とアカインジャーが問うと、「いや、何でバンドの解散原因みたいな感じになってるんや?」とアオインジャーが関西風に突っ込む。
「お•俺たちは友情で繋がったチームじゃないか〜」とアカインジャーがみんなに縋り付こうとするが、「私達は友情より愛情を取りま〜す」とアオインジャーとシロインジャー、キイロインジャーとチャイロインジャーがそれぞれ腕を組んだ。
するとそこに「ウィッス先輩方」と軽薄な声が響き、新たなヒーロー戦隊マシンジャーファイブのメンバーが現れた。
「先輩方の出番は終わりましたので、後は俺らにお任せいただき、先輩方は退場してもらいます」
「何だと、俺はそんな事認めないぞ」とアカインジャーが激昂し、「俺達5人の友情が世界の平和を守るんだ」と叫ぶが、「友情?何それ美味しいの?」と流され「見た感じ、既に友情なんか破綻してますよね〜」と冷静に突っ込まれる。
「貴様らも男女の5人チームなら同じ目にあうぞ」と恨みがましくアカインジャーが告げると、「俺達にとってはヒーロー戦隊は次のステージへの足掛かりなので、メンバーへの想いなんてないのでご心配なく」と軽薄な言葉がアカインジャーを貫く。
「あぁ、多分正月には先輩方皆さんも呼ぶと思いますから、その時はよろしくお願いしますね〜」と言うとマシンジャーファイブのメンバーは退出して行った。
「俺達は何か間違えたのだろうか…?」とアカインジャーが涙を流してポツリと呟く。
他の4人は『間違えたのは俺達ではなくお前1人だ』との想いは胸に秘め…
「時代が変わったのよ」
「町の人達のニーズに応え切れなかった」
「人の心は移ろいゆくものよ」
「私達の想いは消えることはないわ」
と、口先だけの慰めの言葉をかけた。
しばらくして…
「今日でゴニンジャーは解散だが、俺達の友情は永遠だ」とアカインジャーが別れの言葉を告げた。
アオインジャーとシロインジャー、キイロインジャーとチャイロインジャーはそれぞれに腕を組みながら「えぇ、そうね」と曖昧に笑う。
そして、背中にギターを背負って隣に誰も乗っていないサイドカーで走り出したアカインジャーを見送った。
その背中に向け小さくチャイロインジャーが呟いた。
「ギター、サイドカーに乗せたらいいのに…」
さらばヒーロー戦隊ゴニンジャー。
君達の活躍は忘れない。
君達が残した熱い魂と友情の力を僕たちは忘れない。
ヒーロー戦隊よ!永遠なれ
〜 Fin 〜
ヒーロー達は常に戦闘体制なので、基地でもマスクを外しません。
決して設定が面倒だとか、キャラ立てが複雑になるからなどと言うことでは…
ヒーロー戦隊以外のネタも入れてますが、あくまでもギャグジャンルの話なのでマジレスはご容赦を…
所々に挟んでいる昭和ネタがわからない方は、お父さんかお爺さんに聞くか、ネットでググってくださいね。