37. 裏技使わず二周目以降の隠しルートに入りました
そして――
ドンッ!!
空の彼方、地平線の向こうから、黒い瘴気の柱が天を突き破った。
それはまるで、世界そのものが嘔吐したかのような濁流。
黒く、太く、重たく――光を喰らい、空そのものを裂く絶望の柱だった。
「……な、なんだあれ……」
誰かの声が震える。
吐息すら重く、音も風も飲み込まれていく。
何かが来る。
魔王が最後ではない。
それ以上の、何かが目覚めた。
俺は、言葉を失ったまま空を見上げた。
肌が、魂の芯ごと引き裂かれるような感覚に包まれる。
理屈も、理性も通じない。
そこにあるのはただ――本能が叫ぶ“畏怖”。
「……まだ……終わってねぇ、のかよ……」
ヴァルガスもまた、剣を下ろしかけた手を、もう一度握り直す。
その眼には、明らかな“戸惑い”が浮かんでいた。
「……まさか……あれは――」
俺はようやく声を絞り出す。
「……暗黒竜《裏ボス》オルファスだ!」
その名を告げた瞬間、周囲の空気が凍りついた。
ミリアが息を呑み、呟く。
「まさか……“黒き災厄”って、伝承だけの存在じゃなかったの……?」
セリナも、顔を強張らせながら答える。
「千年前、神が封じたと言われる竜……。
神話にしか語られていなかったはずよ……それが、現れたなんて……!」
そう――
本来なら存在してはならないもの。
大戦の果てに、世界そのものと共に眠りに就いたはずの災厄。
メタ的に言えば、あれはゲームでは隠し要素だった。
本来、魔王討伐後、特定の条件を満たした先にだけ現れる最終試練。
二周目以降の、コアユーザー向けのおまけなはず。
それが今、現実に――
魔王の消滅によって封印が解き放たれた。
理由はわからない。けれど、確実に言えることがある。
あれは、規格外だ。
終焉そのものと言って良い。
地を割るような轟音。
空間そのものを震わせる咆哮が、遠くから響く。
次の瞬間――
黒い瘴気を裂いて、それは姿を現した。
「なっ……」
誰かの絶句が、震える。
暗黒竜。
かつて神をも凌ぐ力を持つとされ、
神話の中で人の文明を焼き尽くした存在。
幾百もの魔眼が瞬きを繰り返し、
空間を睨み潰すように蠢いていた。
大地を覆うような巨躯。
全身を黒光する鱗で覆われ、
その身体には幾重にも重なった魔眼が、
空間を睨み潰すように蠢いて、
一瞬視線が交わっただけで膝が震える。
背から伸びる影のような翼が空を覆い、
その一振りごとに、空間がねじれ、風が悲鳴を上げる。
「これ……マジで、魔王どころじゃねぇ……」
クロエが唾を飲み込む音が聞こえる。
「ちょっと待って。
待って待って待って。
話が違うでしょ、これ……!」
ミリアの強がり混じりの叫びも、震えていた。
それでも、ヴァルガスは前を向いた。
「英雄譚にも、神話にも記されていない戦い
……これは、その先の戦いだ」
「誰も知らない……未知の領域……
伝説を、俺たちで越える――そういうことだな」
俺はそう返す。
「それでも、逃げる気はねぇよな?」
ヴァルガスは、若干引きつった笑みを浮かべる。
「当たり前だ。……俺たちは、ここまで来たんだ」
セリナが静かに魔力を高める。
フィリアが剣を構え直す。
ノエルが詩を紡ぎ始め、リリィが祈りを重ねる。
クロエは深く息を吸って、笑った。
「どうせなら、伝説に刻まれるくらいの勝ち方、してやろうじゃない」
「ええ。どうせ終わるなら……最後まで美しく、よ」
そして、全員が立ち上がる。
空は漆黒に染まり、地は軋みを上げる。
そして、俺は剣を掲げた。
ぼろぼろの手が、それでも震えずに構える。
「……行こうぜ」
口の端を吊り上げて、俺は言葉を続ける。
「俺はな、大食いで知られてんだぜ。
ラスボス戦のおかわりくらい――ペロッと平らげてやるよ」
ふざけてるようで、誰よりも本気の声だった。
そしてその言葉に応えるように、風が再び戦場を駆け抜ける。
漆黒の空の下。
闇を裂いて現れたその影は、まさに災厄の具現。
魔王を凌ぐ存在――暗黒竜。
その巨体は空を覆い、翼の一振りだけで雷雲を砕き、
その一睨みは、大地の鼓動すら凍らせた。
ただ存在するだけで、世界が崩れる。
ヴァルガスは、その威容を前に――ほんの一瞬だけ、足を止めた。
「……これが、オルファス……」
その声には、わずかに迷いが滲んでいた。
無理もなかった。
本来の運命では、彼はこの暗黒竜の使徒として俺たちの前に立ち塞がる悪役となるはずだったのだ。
二周目以降で明かされる事実、リリティナの勧誘の後、彼は更に暗黒龍の
けれど――運命は、もう違う。
彼はその道を選ばなかった。
ヴァルガス・デ・ルアント。
運命すら蹴破り、自らの意志で戦い続けてきた男。
今この瞬間も、仲間の隣に立ち、希望の剣を握っている。
その隣に、俺もいる。
俺たちは選ばれし者なんかじゃない。
けど――選んだんだ、自分の道を。
「ヴァルガス。ビビってる暇はねぇぞ」
俺がそう言えば、ヴァルガスはふっと笑って、剣を肩に担いだ。
「……ああ。大食いの君が喉を詰まらせないように、フォローしてあげるさ」
ミリアが小さく笑って剣を構え直し、セリナは目を伏せながらも魔力を集める。
「だったら、派手に行きましょう。伝説に残る一撃で――」
「……ええ、どこまでも付き合ってあげるわよ。
――アンタたちが、無茶するなら、だけど」
風が鳴る。雷が唸る。大地が震える。
神話の外側にある、物語が始まろうとしていた。




