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悪役転生でストーリー変わったので……本来の主人公に転生した俺はスローライフを満喫するために元悪役を全力で応援します  作者: 製本業者


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32. 四天王

「さあ、もっと……もっと私を、壊して?」


「ふざけんな……!」


俺は奥歯を噛みしめ、血の味を感じながら剣を構え直した。

目の前にいる女――リリティナ・カルマ。

その姿は、すでに“人”の理からは逸脱していた。

欲望、執着、狂気――それらを感情のままに凝縮した、生きた魔そのもの。

ゲームではヴァルガスを闇墜ちさせ、戦闘も一度倒しても再生して、魔王戦直前で再登場する強者だ。


それでも、俺は剣を下ろすつもりはなかった。

彼女が誰であろうと。

彼女がどれだけ歪んでいようと――


「ここで……終わらせる……!」


叫びとともに駆け出す。

リリティナの爪が光を裂くように唸り、俺の視界を切り裂く。

避けきれず、腕に鋭い痛みが走る――だが構わず振り抜いた。


「行けぇぇぇっ!!」


火花が弾ける。

その瞬間、背後から魔力の奔流が走った。


「レイ! いけえええええっ!!」


ミリアの怒声とともに、彼女の剣が俺と並ぶように閃いた。

「あなたが倒れたら、今度はこっちがブチ切れるわよッ!」


続けてセリナの冷気魔法が空間を凍てつかせ、リリティナの足元を絡め取る。

「さっさと決めなさい……! もう、泣く余裕なんてないんだから……!」


三人の意志が、今この瞬間、ひとつになった。


――俺は一人じゃない。

ならばこの一撃、迷いはない。


剣先が空気を裂き、重く沈むようにリリティナの胸へと叩き込まれる。


「――ッぁ……」


刹那。

鈍い音と共に、剣が彼女の心臓を貫いた。

赤黒い血が、噴き出すように舞う。


だが、リリティナは――笑っていた。


「……あぁ……やっぱり……あなたじゃなきゃ……ダメだった……」


膝を折り、ゆっくりと俺に身体を預ける。

ぐらりと揺れるその身体を、思わず抱きとめてしまう。


その指が、俺の頬へと伸びた。

指先は、氷のように冷たくて――でも、どこか懐かしかった。


「ねぇ……レイ」


かすれる声で、彼女は呟く。

胸元に触れたその手が、俺の鼓動を確かめるように微かに動いた。


「……忘れないで……」

「……なにを……」


「あなたが……私を“壊して”くれた、唯一のひとだってこと」


そして彼女は、血に濡れた唇を、俺の口元に重ねてきた。


「……ッ!!」


心臓が跳ねる。

魔力が――灼けつくような熱が、唇から体内に流れ込む。

途端に、魔力が体内に流れ込む。

熱く、そして重い。

命の痕跡を――否応なく、彼女の想いと魔そのものが、俺の中に刻まれていく。


だが――その瞬間だった。


その身体の色が、髪が、瞳が――

ゆっくりと、変わっていく。


「――なっ……!?」

ミリアが、呆然と呟いた。


「……これ……って……」

「まさか……そんな、馬鹿な……!」


セリナの声が、僅かに震えていた。


変化は一瞬。


目の前にいたリリティナの姿が、まるで幻が晴れるように――少女の姿へと戻っていく。

そして現れたのは、見慣れた少女の顔だった。


「……なんで……嘘だろ……っ」


その顔は――


「ティナ……」


震える声が、俺の喉からこぼれ落ちた。

微笑みを浮かべた彼女は、弱々しく頷いた


「ふふ……やっと、呼んでくれた……。

でもね……最初から、気づいてたでしょう?」


その笑顔は、どこか寂しげで――けれど、温かかった。

彼女の顔にはもう、狂気も誘惑もなかった。

ただ、あの補給所の夕暮れで見せた、静かで穏やかな微笑みがあった。


「……最後の、そして最初の贈り物(ギフト)よ。

ねぇ、ちゃんと受け取って?

人工呼吸とか……口移しとか……そんな似而非フェイクじゃ無く……

それは……あなたからの……最初で、最後の贈り物(プレゼント)。」


「なんで……なんでだよ……ッ」

「……強くなって、レイ……。

私のこと……忘れないで。

あなたが……私を、人間として覚えていてくれるなら……

それだけで、十分だから……」


その瞳から、涙が一筋、零れた。

「待て……待てよ……!」


何かを言いかけた俺に、彼女は最後の言葉を残した。

「貴方が……唯一……私を……傷物にした……忘れさせない……」


そして――


ティナの体は、淡い光の粒となり、静かに崩れていった。


風が吹いた。

光の粒が宙を舞い、戦場の赤に溶けていく。


俺は、何も言えなかった。

声が出なかった。

剣を握る手が、ただ震えていた。


「ティナ……!」


ようやく絞り出したその名前に、応える声は――もうなかった。


ミリアが、そっと近づいてくる。

言葉はなかった。ただ、そっと肩に手を添える。

セリナもまた、何も言わずに隣に立つ。

その目には、静かに滲む涙があった。


二人とも、自分たちの、ヴァルガスへの思いと比較しているのだろう。

その沈黙が、何より重く、何より温かく、俺の心に残った。


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