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悪役転生でストーリー変わったので……本来の主人公に転生した俺はスローライフを満喫するために元悪役を全力で応援します  作者: 製本業者


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27. 案外素直な元主人公

戦闘は、想像以上に――いや、想定を遥かに超えて、熾烈を極めた。


リリティナ・カルマ。

魔王軍四天王のひとりにして、“大淫婦バビロン”の異名を持つ魔女。

その妖艶な容貌に騙され、惑わされ、倒れていった者は数知れない。

魅了と殺意を兼ね備えた、最悪の誘惑者。


ゲームで、ヴァルガスを闇に堕とした張本人。

その笑みは絹のように柔らかく、同時に、喉元に忍び寄る絞首の縄のようだった。


――しかし今、俺が立っているのは、もはや“物語”ではなかった。


踏み出した瞬間、空気が裂けるような緊張が走る。

そして次の瞬間、リリティナの細腕から振るわれた鞭が、空間ごと切り裂いてきた。


「っ――速い……ッ!」


ただの一閃ではない。

鞭は軌道を変えながら、次元の断面を縫うように滑る。

一振りで、目の前の空気が歪むのが見えた。


――攻撃の起点が見えない。

通常の感覚が通用しない。

射程の概念など、この女には存在しない。


しかも、その動きと連動するように空気が熱を帯び、足場が粘土のように沈む。

錯覚かと思いきや、地面そのものが“彼女の意志”で動いているようだった。


「……くそっ、まるで現代アートの中で戦ってる気分だ……!」


目に映るものはすべて不確か。

聴覚さえも幻惑される。

気がつけば、耳元で囁く声と、目の前で笑う姿が同時に存在している。


「焦ってるのね……ふふ。いいわ、その表情。もっと歪んで、私を楽しませて?」


リリティナが笑うたび、背筋がゾクリと震える。

その声音は柔らかく甘い。だが、言葉の端々に、鋭い刃のような殺意が隠れていた。


「なに、もうおしまい? せっかく私が直々に遊んであげてるのに……」


嘲るような声に、息が乱れる。


俺の戦い方は、剣道を基盤に我流で作り上げた変則型だ。

柔軟性と状況適応を重視したスタイルは、これまで幾多の戦闘で通用してきた。

だが、相手が“読み”そのものを無効化する存在であれば、その柔軟性は逆に弱点となる。


「……っ、くそ……!」


彼女の幻影が四方に現れ、思考を攪乱する。

一瞬でも判断を誤れば、次の瞬間には喉元を裂かれる。


だが――


(パターンがある)


たとえ幻術の嵐の中でも、何度か、微細な“揺れ”があるのを感じていた。


たとえば、鞭を引いたとき。

たとえば、笑った直後。

たとえば――ほんの一瞬、彼女が腰に鞭を下ろす、あの癖。


「……ふぅん? まだ立てるのね。じゃあ、そろそろ本気を出してあげようかしら」


リリティナが、腰の位置に鞭を戻す――その瞬間。


「――そこだッ!!」


踏み込む。地面の感触が変わる前に、強引に詰め寄る。

虚像が幾重にも揺れるが、目は逸らさない。


斬るべきは、幻ではない。


斜め下からの踏み込み、逆袈裟の一撃。

幻影が裂ける。音が遅れてついてくる――


「ッ……ちっ!」


ついにリリティナの“本体”がその場で跳ね退いた。

頬に、うっすらと一筋の血が滲んでいた。


「やるじゃない。私に傷をつけるなんて……」

彼女は唇をつり上げ、楽しげに笑う。

「ふふ、そんな顔もできるのね、レイ=アルグレア」


「悪いけど、俺はSでもMでもないんでな。これ以上付き合ってられない」


「ふふ……生意気。

でも――ねぇ、ところで……」


そのときだった。

リリティナの声が、艶やかに、けれどどこか冷たく響いた。


「あなたって……ヴァルガスのこと、どう思ってるの?」


「……は?」


一瞬、思考が止まった。

戦場の只中で、その名前を唐突に出された衝撃に、反射的に息を呑んだ。

「ふふ……だって彼、完璧でしょう?

美しくて、強くて、揺るがない意志を持っていて。

周りには、あんなに可愛い女の子たちが揃っていて……」


彼女の言葉が、柔らかく、鋭利に心を撫でてくる。


「そしてね、ただ強いだけじゃない。

誰よりも努力して、誰よりも痛みを抱えて、それでも笑ってる……

あなたが見てるの、つらくないのかしら?

あんな彼の背中を、追いかけてばかりで――悔しくならない?」

「――ッ!」


言葉が、刃のように突き刺さる。

その瞬間――リリティナの鞭が疾駆した。


「しまっ――!」

俺は慌てて剣を振り、防御障壁と刃を交差させるように展開。

だが、完全には間に合わなかった。

鞭が肩口をかすめ、皮膚が裂け、熱い痛みが走る。


「ぐっ……!」


足元がぐらつく。

だが――なんとか体勢は崩さずに済んだ。


「……案外、素直なんだねぇ?」

リリティナは、くすくすと笑いながら言った。

その笑みは、まるで恋人の秘密を暴いたような親しげで、ぞっとするほど冷たい。

だが、その表情にはどこか見覚えがあった。

「少し煽っただけで動きが止まるなんて……男の子って、ほんとにわかりやすいわ」

「……うるせぇ……」


どこかで聞いたことのある煽りに、痛みと羞恥と怒りが入り混じった感情を押し殺しながら、俺は再び彼女を睨み据える。

心を読まれるな。

感情を悟られるな。

この女は――戦場で言葉すら武器に変える魔物だ


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