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悪役転生でストーリー変わったので……本来の主人公に転生した俺はスローライフを満喫するために元悪役を全力で応援します  作者: 製本業者


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25. 敗戦

そんな一進一退の戦いの中で、状況が大きく変わる一大転機となったのは――あの、広大な平原グロスタでの戦いだった。


魔王軍が、ついに本格的に動いた。


これまでのような小規模の襲撃や拠点潰しとは異なる、主力を含めた堂々たる軍団進撃。

それはまさに、侵略戦争の本番――否、すでに戦争という語では生ぬるい、殲滅戦だった。


しかも、相手はそれを隠しもせず、堂々と正面から押し寄せてきたのだ。

その意図は明白だった。

「見せしめ」だ。

力の差を誇示し、徹底的に叩き潰すことで、各国に「逆らうな」と思わせる――そのための大軍進軍。


だが――人間側は、敗北した。

正面衝突での惨敗。

戦略も戦術も、精鋭も誇りも、すべてを粉砕される形での完敗だった。


その報せが届いたのは、学院で開かれていた定例の報告会議の夜だった。


俺がそれを耳にしたのは、訓練後、片づけを終えた帰り際のこと。

補給任務に一時参加していた下級兵士が、物資を届けに来たついでに、ぽつりと漏らした。


「……あれは、マジで地獄だった。俺、最後列だったから生きてるようなもんで……前衛は……」


彼の顔色は蝋のように青白く、声もかすれていた。

震える指先が、未だ戦場に囚われているのを、見て取れた。


「斥候が戻ってきたときには……もう、王都の紋章は落ちてたってさ」


滅んだのは、カルディア王国。

かつては東方の盾と称され、堅牢な城壁と誇り高い騎士団によって長きに渡り国境を守ってきた国家。

数多の英雄を輩出し、吟遊詩人の歌にも度々登場する、名門王家の国。


それが――わずか三日で、地図から消えた。


翌朝、補給所で顔を合わせたヴァルガスは、いつになく沈黙していた。

普段のような笑顔も見せず、黙々と装備点検をしていたが、俺が視線を向けると、ゆっくり口を開いた。

「……カルディアのあの三重壁。

昔、見学に行ったことがあるんだ。どんな攻城兵器でも時間がかかるって聞いてた。

なのに……三日だぞ、三日で陥ちたんだ」

「砦の外郭が突破されたのが一日目。

内城へ進軍されたのが二日目。

そして、三日目の早朝には、王都陥落。

生存者の話じゃ、退却命令が出た時点で、もう中央広場が制圧されてたって」

「そんな馬鹿な……三重防壁、戦時補給倉、城塞砲塔……全部意味を成さなかったのか」

「意味が無かったというより、通用しなかったって表現の方が正しいな」


ヴァルガスが絞るような声で続けた。


「毒霧を撒く飛行魔獣による空爆と、魔導兵の幻術で混乱させたところに、地上から大型獣型が突撃。

中央突破だけでなく、側面からの奇襲部隊まで潜り込んでたらしい。

しかも……戦場指揮官が、ほとんど機能してなかったって」

「……無力化されたのか?」

「それが問題なんだ。全員、同時に沈黙したんだと。

呪詛か、精神攻撃か、詳細は不明。

でも、通信に応じなくなった瞬間、全てが崩れた」


そして――


「それでも、逃げようとする民間人をかばって、残って戦った兵士がいたんだって」

「……誰が?」

「名前は、出てなかった。けど、生き残った兵士の話じゃ……最後に見たのは、若い兵士が、小さな子供を抱えて燃える街を駆け抜けていく姿だったって」

「親を探して泣く子の手を取って、こっちだ!って叫んでたってさ……」


その言葉に、俺は声を失った。

戦争の現実が、フィクションの皮を脱ぎ捨てて、肌を刺すように迫ってくる。


――これが、今の世界なのだ。


魔王軍の進軍は、もはや物語の中のイベントなんかじゃない。

焼け落ちた街、泣き叫ぶ子供、砕けた城壁――

それを誰かが助け、誰かが間に合わず、誰かが命を賭していた。

そして、その「誰か」の中には、きっと――俺の知っている誰かも、含まれていたのだろう。


「……あいつら、何が目的なんだろうな」

俺がぽつりとこぼすと、ヴァルガスはやや間を置いて言った。


「世界の支配でも、人間の殲滅でもない。

……多分、何も考えてないんだと思うよ。

ただ、破壊することそのものが目的なんだ」


「……やばいな、それ」


「うん。マジで、やばい」


笑いも皮肉もなく、俺たちはただ黙った。

風の音だけが、遠くで静かに鳴っていた。


そして今……ヴァルガスはその地にいた。

彼は、絶望とともに見つめていた。

――間に合わなかった。


彼の目の前で、少女が泣いていた。

母親を亡くし、兄を亡くし、それでも立ち尽くすしかできないその子を、彼は抱き上げ、ただ一言、呟いた。


「……もう誰も、泣かせはしない」


その言葉と共に剣を掲げた彼の姿は、まさに――英雄を体現していた。

風に髪をなびかせ、血と泥にまみれた鎧を纏いながらも、なお前を向いて立つその姿に、人々は希望を見た。


……ああ、これ、本来なら俺のイベントだったはずなんだよな。


ゲームの中では、俺が選ばれし者としてこの場に立ち、

ミリア、セリナ、クロエ、リリィ、ノエル。

ヒロインたちと共に戦い、魔王軍を退けるという大イベントだった。


でも、今そこに立っているのは俺じゃない。


ヴァルガスの隣には、あの五人がいた。

加えて、ゲームにはいなかった公爵令嬢の婚約者――フィリア・アークライトまで。


……6人ヒロインって、ちょっと待て、ゲームより多いじゃねぇか。

ひとりくらい分けてくれても……っていやいや、冗談じゃなくて本気で、ちょっとは配慮をだな?

でも、そんなことを思いながらも、心のどこかで素直に思っていた。


――かっこよすぎるんだよ、お前は。


そして俺は、静かに剣を手に取った。


「……放っとけるわけ、ねぇだろ」


表舞台は彼に任せればいい。

誰よりも光を浴びるべき男だ。

でも、それでも――


俺は、俺の戦いをする。

彼らの背中を守るために。

誰にも気づかれなくても、影から支える。


誰かが倒れかけたら、そっと手を差し伸べられるように。

それが主人公じゃなくても――

それでも、俺がこの世界に来た意味だと信じているから。


「さて――俺のターンだ」


静かに呟いて、俺はヴァルガスとは逆の方向へ足を向けた。

その先には、支援すべき者たちの影が、蠢いている。

これはもう、ゲームの筋書きなんかじゃない。

これは――俺たちの物語リアルだ。


「……ティナに挨拶出来なかったな……」

それだけが、ちょっとした心残りだった。


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