20. 魔王復活の兆し……は、ラブコメだった?
学院の中庭に、不穏な気配が漂っていた。
「……感じるか?」
「うん。明らかに“外”の匂いが混じってる」
ヴァルガスと並んで歩く俺は、ほんの微かな魔力の流れに神経を研ぎ澄ませていた。
それは、先日村で耳にした“準備中”という言葉が、ただの脅威ではなく、明確な侵食の始まりを意味していたことを示していた。
「こういう時こそ分担だな。ヒロインズと三人組は南区画、俺たちは北」
「了解。合図はあの鳥笛で」
「了解、センパイ」
グレイたち三人組が軽く敬礼しながら走っていくのを見送り、俺とヴァルガスも別方向へ散った。
中庭を抜け、旧講堂の裏手に差しかかったその時――
(……いた)
黒衣を纏った数人の影が、壁の陰に身を寄せて何かを交わしている。
一見、学生に見えなくもないが、動きと気配が明らかに違う。
(間違いない、“魔王側”の尖兵だ……!)
俺は気配を殺して近づこうとした――その時。
「レイさん?」
声をかけてきたのは、偶然通りかかったティナだった。両手に試作品のポーションを抱えながら、不安そうに首を傾げている。
「え、今って何か……わっ――!」
影たちがこちらに気づいた。
次の瞬間、ひとりがティナの腕を掴み、俺との間に引きずり込むようにして割って入ってきた。
「チッ……人質かよ……!」
迷う間もなく駆け出そうとした俺の前に、別の影が立ちふさがる。
――が、
「遅れてごめん!」
木の上からミリアが飛び降りてくる。
剣を抜き、華麗な足技で敵の懐に踏み込むと、ティナの肩にかけられた手を一閃で払い落とした。
「させない!」
セリナの魔術が、地面から瞬時に立ち上がり、残る影を拘束する。
「チッ、ここは――!」
敵の一人が焦りを見せた瞬間、ティナが思いきり突き飛ばされ、ふらりと俺の胸元に倒れ込んできた。
「――っ! ティナ、大丈夫か!?」
「ひゃ……! あっ、レイさんっ……す、すみません……!」
「気にすんな!」
俺はティナを支えながら姿勢を低くし、周囲を警戒――したが、敵はすでに背後の茂みを蹴って逃走していた。
「逃げられたか……!」
ややあって、ヴァルガス、フィリア、クロエ、ノエル、そして三人組も到着。
「レイ、また女の子抱きしめてるのかい?」
にやりと笑うヴァルガス。
「いやいやいや、ちゃうねん、これは偶然で、むしろ俺が庇われた側っていうか――!」
「ふーん……偶然ねぇ?」
ミリアがジト目で睨んでくる。
「ヴァルガス様なら、ティナさんを庇いつつも敵を取り逃がしたりしないはずですけど」
セリナもピシャリと冷静なトーンで追い打ち。
「……はいはいはい! 俺が悪うございました!」
背中で苦笑いしながら、ティナがしゅんとしつつも「でも、レイさん、かっこよかったです」と小声で言ってきて、それがさらに火に油を注ぐ。
「え、かっこ……ちょ、おまっ、今は黙ってろ!?」
「……見てるこっちが恥ずかしいです」
ノエルがぽそりと詩的に呟き、
「兄貴! 次はアタシたちにもやらせてくれよ!」
クロエが拳を握って意気込む。
「つーか、なんで俺たちだけ南に飛ばされたんだよ!」
バルドが不満げに呟き、
「うぅ、完全に出遅れた……!」
ノアが地面を転がり、
「情報共有の徹底が今後の課題だな」
グレイが真顔でメモを取り始める。
この妙な温度差こそが、俺たちらしいのかもしれない。
俺はふうっと肩の力を抜いた。
「……とにかく、学院内にも“何か”が入り込んでいるのは間違いない。こっちも警戒強化だな」
「うん。君が見つけてくれて助かった。やっぱり君は……頼れるよ、“月下の――”」
「それ以上言ったらぶん殴るぞ」
「ふふっ……」
月はまだ空高く昇っていた。
本格的な戦いの足音は、確かに近づいている。
でも、今この仲間がいれば――俺たちは、きっと乗り越えられる。
……だからヴァルガス、コレまでの仕返しとか言って、ティナとの仲茶化すのは止めて欲しいんだけど……




