15. 陰から支えるなら主人公と同等以上の力を持たないとね
それにしても、ヒロインたち。
最初こそ、「なんだよ、ヴァルガスのハーレムかよ」なんて、ややひがみ混じりに眺めていた俺だけど――
実際に彼女たちと会話し、少しずつ関わっていくうちに、それが単なる色恋じゃないってことが分かってきた。
彼女たちは、ヴァルガスにただ惚れてるだけじゃない。
たとえばフィリア。
彼女は婚約者という立場に甘えることなく、むしろその重さを理解したうえで、彼を正面から支えようとしている。
彼の弱さにも気づいていて、それを肯定したまま隣に立とうとしている姿勢は、もう“恋人”という言葉だけでは語りきれない覚悟がある。
……あれは、間違いなく本気だ。
クロエは、ヴァルガスの戦いぶりを誰よりも近くで見ている。
彼の背中に安心して拳を預けられるような信頼感があって、まるで戦場を共に生き抜く戦友みたいな絆がある。
でもその一方で、彼に向ける笑顔には、少女としての恋心が確かに宿っていた。
リリィは、その優しさの裏に強さを隠してる子だ。
彼女は人の感情の機微に敏感で、誰よりも空気を読んでしまう性格だけど――
それでもヴァルガスのそばにいる時は、不思議と素直でいられるらしい。
「ヴァルガスさんの声って、落ち着くんです~」なんてふわっと笑うその顔には、無自覚な恋心が滲んでた。
ノエルに至っては、もう彼の存在自体が詩の題材みたいになってる。
「騎士と風の歌」とか「灯火の背中」とか、なんか物語っぽいフレーズを日記に書いてるのを、こっそり見てしまったことがある。
普段は控えめな彼女が、あれほど情熱的な表現をするのは、たぶん心の底から誰かを思っている証拠なんだろう。
彼女たちがヴァルガスに向ける感情は、確かに“恋”だ。
だけどそれだけじゃない。
そこには信頼があって、尊敬があって、何より――彼の未来を信じている強さがある。
それはもう、恋愛という一言では片付けられない深い繋がりだ。
正直、羨ましかった。
そして、ちょっとややこしいのが――ミリアとセリナ。
どう見てもこの二人、ヴァルガスにぞっこんだ。
ミリアなんて、「もう!また無茶して!心配したんだからねっ!」と、明らかにお節介が過ぎる。
セリナはセリナで、「あの人は、もう少し自分を大事にするべきです」と、ついついお茶を差し入れたりしてるあたり、完全にお世話焼き枠だ。
ただ、なぜかこの二人、俺にもちょくちょく絡んでくるんだよな。
そのせいで、くだんの三人組が勘違いして絡んできた訳だけど。
ミリアは、よく俺の訓練を見に来ては「何か変なこと考えてないでしょうね?まったくもう……」とか言ってるし、セリナは、たまに俺の読んでる本を覗き込んできて「そんなの読んでるんですね。意外です」とか。
たまにふと目が合ったとき、ほんの少しだけ視線が逸らされるあの感じ。
もしかして、こっちにも好感を抱かれてる……のか?
うん、わかってる。絶対ない。
フラグを奪われてるんだから、そんなこと無いってのは分かてるんだけど……
でも、ちょっとくらい夢見たって良いじゃ無いか。
だから、俺はヒロインたちの関係には深入りしない。しないつもり。たぶん。
でも、その誰もがヴァルガスを心から想っていて、支えようとしていることだけは、誰よりも理解している。
その姿に、素直に羨ましさを感じて――そして、どこか誇らしく思っている自分がいた。
でも、それと同時に、俺は――
少しずつ『俺自身の立ち位置』を見つけつつあった。
表向き、俺はライバル。
同じ舞台に立ち、競い合う者。ときに切磋し、ときに張り合う存在。
だが裏では――違った。
俺は、彼を“支えたい”と思っていた。
真正面からぶつかるんじゃなくて、斜め後ろくらいのポジションで、彼の戦いを見届ける。
そして、もし彼が限界を超えて倒れそうになったとき――
誰よりも早く手を差し伸べる。
その瞬間を、決して見逃さない存在になりたいと思った。
目立たない。でも、確かに必要とされている。
そんな“縁の下の力持ち”……いや、もっと洒落た言い方をすれば――《影の同盟者》。
いわば、光が強すぎて背負った影の中で、それをそっと支える者だ。
「……ああ、悪くないな、これ」
ひとりごちた瞬間、何かが脳内で弾けた。
次々にアイデアが浮かび、想像が膨らんでいく。
たとえば――
訓練中、無茶しがちなヴァルガスの様子を、気づかれないよう観察・記録しておく。
ヒロインたちに直接言うのは野暮だけど、さりげなく「今日は無理させないで」と助言を回すことはできる。
あるいは、誰かが落ち込んでいる時――
名前を伏せて差し入れを送るとか?
『あなたの努力を、誰かがちゃんと見ています』
そんな一言を添えた小さなメッセージと共に。
……って、さすがにやりすぎか? でも、ちょっとワクワクしてきたぞ。
派手な称号じゃなくていい。
けれど、どうせなら響きくらいはかっこよくしたい。
たとえば……
影の支援者。
いや、まだ弱い。忍者っぽい感じは悪くないんだけどな。
シャドウ・サポーター?
英語に逃げるのはダサい。
ルビとしてならありか?
……あ、そうだ。
月下の守護者――とかどうだ?
昼の光を照らすのが彼なら、俺は夜の静けさの中で見守る存在。
表には出ないけど、確かにそこにいる、もう一人の守り手。
うん、いいじゃんそれ。
ちょっと厨二だけど……男の子は幾つになっても厨二心をうしなっちゃぁ駄目だ。
「よし。決まりだな。……俺は、月下の守護者として、動く」
小さく呟き、俺は立ち上がった。
剣を手に取り、いつもの型を構えながら、胸の奥に微かな火を灯す。
剣術の鍛錬も、魔導の勉強も――
全部、この役割のために意味がある。
誰かを守るための、確かな力に繋がっている。
この世界で。
この学院で。
この仲間たちのそばで。
目立たなくてもいい。
名前が残らなくても構わない。
でも、誰かが無茶をする前に気づき、誰かが傷つく前に動ける存在。
そんな自分になれるなら、それが俺の物語の在り方でもいい。
「……でもそのためには――」
もう一度、剣をしっかりと握り直す。
「彼と、並び立てるくらいには強くならないとな」
そして俺は、静かに一歩を踏み出す。
影から支えるもう一人の主人公として――。




