12. 裏から支える支援者って、強者感あるよね
実を言うと、俺はヒロインたちに、そこまで執着があるわけじゃなかった。
いや、転生してすぐの頃は、そりゃあったよ。
「主人公=ヒロインとイチャイチャするもの」って思ってたし、むしろそれが醍醐味だとすら思ってた。
でも、異世界の生活にも慣れて、日々の訓練と学院生活に没頭するようになってくると、そういう感情は次第に薄れていった。
前世の俺は、グレーな会社で息を詰めながら働いてた。
定時退社は都市伝説、サービス残業は日常茶飯事。
夜中のコンビニで冷えた唐揚げ弁当を食べながら、「これが大人か……」とぼんやり呟いたこともある。
それに比べりゃ、今はマシだ。
生活水準こそ低いけど、空は広く、飯は意外とうまい(たまに外すけど)。
何より、自由な時間がある。
剣と魔法の学院生活――
のんびりしてて、そこそこ刺激もあって、案外気に入ってる。
ヒロイン級こそヴァルガスの独壇場だが、俺だってそれなりに女子と話すくらいはできる。
一番親しいのはティナ。気さくに話せる間柄だが、恋愛感情があるかと言われると……正直、会社の庶務の子と仲が良い、みたいな感じに近い。
……まぁ、前世からモテた試しなんて一度もなかったしな。
「……まあ、悪役が良いヤツなら、それはそれで平和でいいか」
中庭のベンチに腰を下ろして、青い空を見上げながら独りごちる。
気持ちいい風が頬をなでていく。
誰が誰とくっつこうが、もう俺にはどうでもいい話だ。
たぶん、あのとき――ヴァルガスと出会ってすぐ、
彼に無理に敵対したり、張り合おうとしたら、今ごろ俺はただの当て馬か、早期リタイア枠になってた。
早めに“あいつは本物だ”と気づいてよかったと思う。
ヴァルガスは、悪役の運命に抗って生きている。
強く、まっすぐで、そして優しい。
周囲の信頼も厚く、自然体でヒロインたちと接して、結果的に好かれている。
……だからこそ、余計に面倒なんだよ。あいつ。
けれど、もういい。俺は俺だ。
俺は傍観者ポジで、気楽に生きていくって決めたんだ。
そんな風に考えていたそのとき――
「レイ、こんなところで昼寝か?」
「うおっ……って、ヴァルガスかよ。心臓に悪いわ!」
「いやいや、足音は消してないぞ? 鈍いのは君のほうだ」
「お前が忍びみたいに近づいてくるのが悪いんだっての」
苦笑しながら肩をすくめると、ヴァルガスはにやりと笑いながら俺の隣に腰を下ろした。
その様子を少し離れたところからヒロインたちが眺めていた。
クロエは「ここは私の席」と言わんばかりにぴたりとヴァルガスの隣をキープし、
フィリアはその横で姿勢を正せだの目線が甘いだの、謎の指導モードに入っている。
リリィはいつも通りお菓子を配って、「みんなで仲良くね〜」と場を和ませ、
ノエルは少し離れた木陰で静かに詩を書いていた。たぶん「絆と距離感」みたいなテーマだ。
……どう見ても、主人公だよなぁ、あいつ。
「何をしていたの?」
セリナが涼しい声で問いかけてくる。
「昼寝……というか、サボりって感じ?」
ミリアは腰に手を当てて、半分呆れたような顔で俺を見下ろしていた。
「お日さまぽかぽかで気持ちいいよね〜」
リリィだけは、今日も変わらぬ癒し担当だ。ありがたい。
「いいじゃん、休み時間くらいゴロゴロしたってさ」
俺はそう言って肩をすくめた。
ヴァルガスがふと笑って言った。
「君は、本当に自然体だよな。そういうところ、ちょっと羨ましい」
「……それ、皮肉?」
「いや、本音だよ。
案外、ヒロインたちが君に目を向けるのって、そういうところなんじゃないか?」
「やめろよ、そういう無責任なこと言うの。期待したら困るからさ。
……そもそも、お前のガールフレンドたちでしょ?」
俺が冗談めかして笑うと、ヒロインたちがそれぞれに反応した。
ミリアは真っ赤な顔で「べ、別に私は……!」とそっぽを向き、
セリナは「……期待するだけ無駄だと思うけど」と言いつつ、口元はわずかに緩んでいた。
リリィは「私はレイくんのそういうとこ、好きだけどね〜」とマイペースに微笑み、
フィリアは「そんな気の抜けた態度で好かれるなんて、100年早いわよ」とキッパリ言い放ったが、頬はうっすら赤い。
クロエは「私は認めない」と一言。けれど耳は赤く染まっていた。
ノエルは何も言わなかったが、詩のタイトルが『無自覚』だった。……おい、やめてくれ。
……いや、なんで俺がフラグ立ってんだよ。
俺はあくまで、脇役・傍観者ポジ。
そう言い聞かせて、空を見上げる。
あ、ヴァルガスのガールフレンドって言われて照れてたのか、とその時になってようやく気がついた。
とはいえ、こうして笑い合って、冗談を交わして――
気づけば、俺はこの輪の中にいる。
きっと、もう外にはいないんだ。
俺は今日も、この世界の片隅で、少しだけ温かい空気に包まれながら――
本来の主人公から一歩引いた場所で、俺なりのスローライフを送っている。
……たぶん、それが俺にとっての物語なんだろうな。
とはいえ――
「ラスボス戦だけはスルーできないだろうな」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、こっちの話」
そう。
この物語に修正力が働くなら、最後の戦いだけはきっと避けられない。
でもいいさ。
そのときが来たら、脇役なりに、俺の役目を果たしてやる。
誰にも知られず、誰にも気づかれず、
それでも確かに――仲間たちの背中を守る、影の助っ人として。
……そういうポジションも、案外、悪くない。
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