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転移無法の流れ星  作者: 玉虫光翔
第一章
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07話 憧れ

 広場中央の席に戻ると、ルナちゃんとコスリーさんが座っていた。


「さぁ、大食い対決もいよいよ佳境に入ってまいりました! なんと女性二人による決勝だぁ。どちらも小柄ながらここまで勝ち進んできた胃袋の持ち主! いったいどうなるのか!?」


 なにやってんるんだ、あの二人……。


「フトッチョがいない今、優勝はあっしのものでげす」

「わたしだって負けないよ! この世界のいろんなものを食べてみたいの!」

「両者ともに意気込みはバッチリのようです! 決勝の食べ物はコレ! 丸くて穴の空いたサカトラ伝統のお菓子だぁ~! 今回は特別に普段の十倍の大きさで作ってもらいました!」

「わぁ~! ドーナツみたいな? シュークリームみたいな? ……一人で食べきれるかな?」

「甘いものは別腹でげす!」

「では、はじめ!」


 司会の合図でルナちゃんとコスリーちゃんがお菓子にかぶりつく。しかし、だんだんと差が現れはじめた。


「お腹いっぱいだよぉ……。もう入らないぃ」

「食べられるときに食べておかないともったいないでげすしね。とことんまで胃袋に詰めるでげす」


 どうやらこの勝負、コスリーさんの勝ちみたいだ。


「そこまで~! みごと食べきったコスリーさんの優勝だぁ!」

「賞品はなんでげすか!?」

「うう、残念……」


 パチパチと拍手が巻き起こる。僕は健闘したルナちゃんに駆け寄った。


「ルナちゃん惜しかったね。お腹大丈夫?」

「うう、苦しい……。パチーモ、わたしの無念を晴らして~!」


 ルナちゃんが残したお菓子を差し出してくる。ルナちゃんの想いは僕が受け取った!

 

 うん、甘くておいしい!


「いや、そうじゃなくて! 団長さんが酔い潰れちゃったから、騎士団の人を呼びに来たんだ」

「コスリーちゃん! 団長さんが酔い潰れちゃったみたいだよ!」

「むむ、そうでげすか。介抱して恩を売ってくるでげす。ルナ殿、いい勝負でげした」

「次は、負けない!」


 熱い握手を交わす二人。戦いの中で友情が芽生えたのかもしれない。


「パチーモ、食後のお散歩に連れて行って~!」

「そうだね。僕も久しぶりに町を歩いてみたいと思ってたんだ」


 いつの間にか日が沈みかけている。広場の雰囲気も和やかになってきていて、僕とルナちゃんは誰に呼び止められることもなく抜け出せた。せっかくだから、僕の実家に行ってみようかな。騎士団に入ってからは寄宿舎で過ごしていたから、帰るのは本当に久しぶりだ。


「パチーモ、何かいいことあった?」


 歩いていると、ルナちゃんが質問してきた。


「僕のことを探しに、王国を飛び出した騎士団員たちがいるみたいなんだ」

「その人たちにも、パチーモが帰ってきたことを教えてあげたいね」

「うん。完全に見捨てられたと思ったけど、そうじゃなかった……。それにあんな目にあったけど、ちょっとでも騎士団とか町の人たちの役に立ててたなら、無駄じゃなかったかなって。英雄って呼ばれるのはぜんぜん慣れないけど……」

「パチーモ、黒い糸の色が少し薄くなってる」

「え、そうなの?」

「でもまだ絡まったままだな~。わたしにできることがあったら、手伝うよ?」

「ありがとう、ルナ――」

「あっ! とんでちゃった!」

「ヂァンッ!!」


 子供の声がしたかと思ったら、僕の顔面に何かがめり込んできた。ズキズキと痛む場所を手で抑え込み、しゃがみ込む僕。


「うう……なんだこれ、木でできたおもちゃの剣?」

「うわっ! 痛そう! パチーモ大丈夫?」

「え! パチーモ? ホンモノのパチーモ?」

「ホントのえいゆうだ!」


 駆け寄ってくる二人の子供たち。この子たちが僕の顔面に剣をめり込ませた犯人か。まぁ、子供は少しやんちゃなほうが可愛げがあっていい……なんて言わないぞ。ちょっと驚かせて、反省してもらおう。


「こら~、危ないぞ。僕じゃなかったら死んでたかも!」

「ごめんなさい……」


 少しだけ背の高いほうの子が、泣きそうになりながら謝ってくる。


「おにーちゃん、わるくない、ぼくがなげちゃったから……」


 今度は小さいほうの子が絞り出すような声で言った。

 ……なんて素直でいい子たちなんだ! 誰だ!? こんないい子たちを泣かせようとしている悪い大人は!? いや、僕なんだけど! しまった、ちょっと言い過ぎちゃったか!


「この子たち、パチーモに憧れてるみたいだよ。その憧れの英雄に怒られて、泣いちゃうなんて可哀そうだよ……」


 ルナちゃんが小声で抗議してくる。ごもっともだ。

 まずい、子供たちの瞳がどんどん潤んでいく。ここは大人として、英雄として、この子供たちに涙を流させるわけにはいかない!


「な~んてね! 冗談冗談! いい攻撃だったよ! もっともっと修行すればモンスターだって倒せちゃうかも!」

「「え! ホントに!?」」


 パッと顔が明るくなる子供たち。ふぅ、なんとか泣かさずに済んだか。


「でも、危ないから周りの人に気を付けて遊ぶんだぞ! 町の人を守るのが、騎士だからね」

「うん! やくそくする」


 僕は落ちているおもちゃの剣を拾って、背の小さい子へ返してあげた。


「ねぇパチーモさま! ぼくもパチーモさまみたいになれるかな?」


 背の高い子が聞いてくる。僕みたいに、か……。


「今から訓練すれば、僕なんかよりずっと強くなれるよ……」

「ぼく、ぜったいパチーモさまみたいになる!」

「ぼくも!」


 この子たちが憧れているのは、きっと英雄パチーモ様なんだろうな……。


「うん。僕もなってほしいな。気を付けて帰るんだよ」

「バイバイ!」

「ばいばーい!」


 手を振って子供たちが走り去っていく。


「子供たちに無責任なこと言っちゃったかな……」

「パチーモは優しいんだね」


 今、僕にその言葉を掛けてくれるルナちゃんの方が優しいと思う。


「パチーモは子供の頃、何になりたかったの?」

「……恥ずかしいな」

「またまた照れちゃって~」

「……冒険者になりたかったんだ」

「冒険者かぁ、いいね! いろんなところ探検できるもんね!」

「僕の実家、宿屋だったからいろんな冒険者が泊まりに来てね。お話を聞かせてもらって憧れちゃったんだよなぁ。ちょうどここに……あれ、おかしいな。年季の入ったオンボロ宿屋があるはずなんだけど」


 替わりにそびえ立っているはバカでかくて煌びやかな屋敷。なんだろう、この建物。


「あれ? パチーモ。看板にキルトの宿屋って書いてあるよ?」

「え!? ウソでしょ!? あ、でもホントだ。書いてある」


 立派な石碑に、「キルトの宿屋」と彫ってある。もしかして、ここ、僕の家か!?

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