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転移無法の流れ星  作者: 玉虫光翔
第一章
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04話 門番とニセモノ

「……ここは、サカトラ王国!?」

「ふっふっふ、パチーモ君。これでもわたしは天使を名乗らせてもらっているからね。これが転移の力なのだ!」


 ルナちゃんが胸を張る。


「一瞬で帰ってきちゃった……」

「縫い目を辿って、それっぽいところまで転移してみたんだ。うまくいって良かったよ~!」

「……もしかして、今から王国に行くの!?」

「うん、さっそく行ってみよう!」


 半ば放心状態の僕を引きずるように、ルナちゃんが歩き出す。どうしよう、僕、まだ心の準備ができていないかも。すでに王国の城壁は目の前だ。一旦、落ち着きたい。だ、誰かルナちゃんを止めてくれ~!


「待て! 貴様ら!」


 誰かが僕の心の声に答えてくれた。ありがたい、これで少しは落ち着けるぞ。


「妙な格好の二人組だな! 王国に何の用だ?」


 前言撤回。臨戦態勢の衛兵が槍をこちらに向けている。王国の門番だ!


「え~? この服、かっこいいじゃん? 妙かな~?」

「ふむ、確かに見慣れぬが、意匠の凝らされた衣服……。もしやどこかの高い身分の者であらせられるか!? これは失礼した。して、そちらの腰巻一丁の不審な男は?」


 僕にだけ槍を向ける門番。ルナちゃんとの扱いの差に泣きそうになる。


「僕はパチーモ。王国騎士団のパチーモ・キルトです」

「パチーモだと?」


 ムッと顔をしかめる門番。


「う、嘘じゃないです」


 どうしよう。何かまずいことを言ったのかな。もしかして、ドラゴンのおとりになったマヌケとして名前が知られているのかもしれない。笑いものにされて、石を投げられるかもしれない! 怖い!


「はっはっは。腰巻一丁半裸のお前が? あの英雄パチーモ・キルト? ははは。これは傑作だ」

「へ?」


 確かに笑われたけど、英雄ってどういうことだろう?


「パチーモが英雄?」


 ルナちゃんが驚いている。僕も驚きだ。


「そちらのお方は知らぬのか。英雄パチーモの勇敢な話を!」


 ルナちゃんに反応して、門番が誇らしげに語り始める。


「今から一年と半年前、我が国は原因不明の大寒波に襲われていた。作物は育たず、平原での狩りも獲物がほとんどいない有様だった。国は未曽有の食糧難になってしまってな。そこで騎士団が山奥まで食料調達に行ったのだが、運悪く氷のドラゴンと出くわしてしまうんだ」

「うんうん」


 夢中で聞くルナちゃんを見て、門番は明らかに機嫌が良くなった。


「次々と団員が凍らされていく中、我らが英雄パチーモ・キルトが躍り出た! 団員たちを逃がすため、たった一人での突撃! おかげで英雄以外の騎士団は無事帰還。さらにサカトラ王国を襲っていた大寒波も収まり、騎士団が持って帰ってきた食料のおかげで民たちは冬を越せた、という訳だ」

「……なんかスゴイ話になってるね。パチーモ、英雄って呼ばれてるよ?」


 ルナちゃんが小声でささやきながら、肘で僕を小突く。英雄なんて称えられているのは嬉しいけれど、あのとき僕は何もできなかった。正直、複雑な気分だ。


「あの冬に飲んだスープがどれほどありがたく、美味かったことか……。骨身に染みるとはあのことよ。すべては自らの命と引き換えに、氷竜を倒してくれたパチーモ様のおかげだ。うう、まさに英雄だ」

「えぇ……」


 感極まって泣き始める門番。いや、僕、まだ生きています。勝手に亡き者にしないでください。


「まぁともかく、パチーモ様はお前のような半裸の不審者ではない、ってことだ」

「その英雄に免じて、ここを通してもらう訳には――」

「まだ言うか。俺も門番として半裸の変態を通すわけにはいかん。そんなに自分がパチーモと言い張るなら証拠を持ってこい!」

「そんな無茶な。しかも変質者から変態になってますし」

「ならば、せめて服を着てこい!」

「ぐうの音でもでない……あっ!」


 そこで僕の脳裏に走る稲妻。思わずパチンと自分の太ももを叩いてしまった。


「な、なんだ突然、気色の悪いヤツめ……」

「ルナちゃん、突然だけど、あの森の洞穴に戻れる?」

「え、戻れるけど、どうしたの?」

「アレがある!」


 そう、僕がパチーモだと信じてもらえるであろう、アレが。


「じゃあパチーモ、手を出して?」

「よろしくルナちゃん!」


 目を閉じてルナちゃんの手を握る。門番が何かわめいているけど、アレならすぐに僕がパチーモだって信じてくれるだろう。

 転移の感覚に備える。一回目の転移の時は気持ち悪くなっちゃったけど、心構えをしていればきっと大丈夫。


「いくよ~! えい! ほい、到着!」


 ルナちゃんの掛け声の後にちょっとした浮遊感。もう森の洞穴の前だった。今回は気持ち悪くならなかったな。


「ありがと、ルナちゃん! すぐ戻るから待ってて!」

「は~い!」


 洞穴の中に入り、僕お手製のベッドをひっくり返す。そこに仕舞っておいたのは、かつて僕が使っていた騎士団の装備だ。服に鎧に、防寒具。これを見ると嫌なことを思い出しちゃうから、本当に必要な時以外は目のつかないところに隠しておいたのだ。

 急いで着替えて洞穴からでる。


「お待たせ、ルナちゃん!」

「うわ、すごい重ね着してる!」

「なるべく、当時の姿の方が、いいかなって思って、はぁはぁ。防寒具まで着込んでみた」


 この姿なら僕がパチーモの証明になるだろう。今の季節だと暑苦しい装備だけど。


「もう一回、サカトラ王国まで、連れてもらっていい?」

「いいよ~!」


 ルナちゃんに再び転移してもらう。


「うわっ! いきなり現れるとはなにやつ!」


 さっきの門番が僕たちに槍を向ける。今度は門の目の前に転移したみたいだ。


「わわ、待ってください! 僕ですよ! パチーモです!」

「わたしはルナ! よろしく~!」

「む、その声……さっきの変態か。それに妙……ゴホンかっこいい服の少女! 突然消えて、また現れるとは! 怪しい奴らめ!」


 門番の目の前で転移したのは失敗だったかもしれない。完全に警戒されちゃったみたいだ。僕の格好が王国のものだと気付きもしない。防寒具は着ない方がよかったかも。


「はぁはぁ。ちょっと待って、ください! 僕の服を見て!」

「なんだ貴様、服を着たからといって簡単に王国に入れると思っているのか! それに、息も荒いし大量の汗……まさか、見られて興奮してるのか!? 特殊な趣味を持った奴め! やっぱり変態だったはではないか!!」

「僕は変態じゃないですよ!? ああ、もう、なんで気付いてくれないのかな……じゃあ、これでどうだ!?」


 僕は防寒具を脱ごうとする。さすがにサカトラ王国の鎧を見れば、この門番も冷静になってくれるだろう。


「やめろ、お前みたいな男の服を脱ぐところなんて見たくない! うわぁぁ!」

「あ、パチーモ! 危ないかも!」

「うっ!」


 突然、僕の腹に鈍い衝撃。同時に金属音。

 どうやら槍が僕の腹を突いたようだ。門番を見ると、目を閉じている。そんなに僕が服を脱ぐところを見たくなかったのか……。まぁ、確かに、男が服を脱いでも嬉しくはないか。うん、むしろ、気持ち悪い。考えれば、この門番さんも大変な仕事だなぁ……。


「パチーモ、大丈夫?」

「ちょっと痛かったけど、鎧着てるし、大丈夫!」


 槍は鎧に弾かれていた。相手がへっぴり腰だったのもあるだろう。これが森のモンスターたちの攻撃だったら、タダじゃ済まなかった。一撃一撃の殺気が段違いだからね。


「む、貴様! な、生意気にも鎧を着ているな! この俺の槍を受け止めるとは質のいい鎧と見た!」

「そりゃあ、これはサカトラ王国の鎧ですから!」

「な、なに!」


 門番がようやく目を開ける。僕はここぞとばかりに防寒具を脱ぎ捨てた。


「……本当だ、サカトラ騎士団の鎧だ」


 門番がまじまじと僕を見つめる。


「さっきから言ってるけど、僕はパチーモです。一年半前、食料調達の命を受けたサカトラ騎士団……の荷物持ち。パチーモ・キルトです」

「ああ……じゃあホントにあの英雄パチーモ? ドラゴンの口に飛び込んで、吹っ飛ばしたっていう……ど、どおりで俺の槍が効かないわけだ……!」


 わなわなと崩れ落ちる門番。この門番の槍に対する絶対的な信頼は少し見習いたい。それにしても、どういう話の伝わり方をしたら僕がドラゴンを吹っ飛ばすことになるんだろう?


「どうか、この愚かなわたくしめのご無礼をお許しください! どうか、どうか命だけは……!」

「そんな謝らなくても大丈夫ですから。誤解が解けたなら、門を開いてください」

「なんて寛大なお方だ! 今すぐに開けます!」


 さっきまでの渋りようはどこへやら、凄まじい手際の良さで門を開ける門番。すると、中からもう一人の門番が現れた。


「お~い、相棒! 長いこと検問してるから、念のため応援を呼んできてやったぞ~! 驚くなよ? これ以上ないほど頼りになる方だ!」


 今度はいったい何なんだ。いい加減、門をくぐらせてほしい。

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