表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移無法の流れ星  作者: 玉虫光翔
第一章
4/11

03話 糸

 ……。

 無理だ。

 お前には無理だ。

 せいぜい荷物持ちだな。

 いや、それも無理か。

 じゃあ、おとりになってくれ。

 ドラゴンのエサになってくれ。

 ……。


「……モ? パチーモ?」

「うわー!」

「うわー! パチーモ、いきなり驚かせないでよ!」


 僕は寝袋に入ったまま飛び起きた。


「落ち、ない? あ、おはよう……、ルナちゃん」

「うなされてたよ? 大丈夫?」


 嫌な夢を見ていた。ここ一年半で何度も見た悪夢だ。最後は決まって、空から落ちて目が覚める。


「起こしてくれてありがとう。大丈夫……って言いたいんだけど、この寝袋どうやって開けるんだっけ?」

「はいはい、わたしが開けますよ~、と。ここのチャックを引っ張れば……」

「解、放!」


 晴れて自由の身になった僕は、大きく伸びをする。もう朝だ。洞穴の入り口は簡単な木の扉で閉めてあるけど、隙間から朝日が差し込んでいる。

 悪夢を見たからって、いつまでもくよくよしていられない。


「朝ごはんの材料を集めてくるけど、ルナちゃんはどうする?」

「何それ、楽しそう! わたしもついてく!」


 そう言うとルナちゃんがパッと光った。僕が目を閉じて開けると、パジャマとかいう服が変わっている。


「今日は、かっこよさを重視してみました!」


 得意げなルナちゃん。森の中でも動きやすそうな格好だ。なるほど、これが奥義転移お着替えか……。僕は思わず拍手をしてしまった。


 ルナちゃんのお着替えも済んだところでいざ出発。洞穴近くの小川で顔を洗って水を汲み、低木に生える甘い果実を摘んで、地面に巣を作る鳥から卵を貰う。この森は僕にとって、もう庭みたいなものだ。どこに何があるか把握済みなのである。


「パチーモ、トゲいっぱい刺さってるし。鳥にめっちゃつつかれてたけど平気?」

「だ、大丈夫。これくらい朝飯前!」


 強がってみたけど、正直めちゃくちゃ痛い。果実の木にはトゲもある。いつもより多く果実を集めようとして一歩踏み込んだところ、ブスブスと僕の体に突き刺さった。鳥が烈火のごとく怒り狂ったのも頷ける。毎朝、僕は卵を二つまでしか取らないけれど、今日は卵を四つ取っちゃったからだ。きっと、鳥も我慢の限界を迎えたのだろう。許してください、鳥。

 

 トゲを抜きつつ、傷口にその辺に生えている薬草を押し当てて、洞穴に戻る。

 火を起こそうとして、僕が薪を並べているとルナちゃんが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、せっかくだから私にこの世界の魔法教えてよ」

「え? 僕に教えられるかな?」

「わたしもあのキレイな模様、出してみたいの!」

「模様……。魔法陣のことか。え~と、ね……。力が回るイメージっていうのかな? クルクル? 頭の中で円が転がるような……」

「えいっ!」


 ルナちゃんの両手から巨大な魔法陣が現れたかと思うと、集めた薪が爆散した。ついでに僕も吹っ飛んだ。


「できた~!! パチーモ、教えるの上手……ってごめん!」

「す、すごいやルナちゃん」


 いろいろ驚きだ。破壊力もさることながら、まさか一瞬でできるようになっちゃうとは。さすがは神様のお手伝いをしているだけのことはある。

 気を取り直して火を起こす。薪を拾い直し、燃えている僕の髪の毛で着火完了。卵と果実が爆発に巻き込まれなくて良かった。

 卵はいい感じの石の板で焼く。二つは中身をそのまま板の上に落とし、もう二つは溶いて、形を整えながらふわふわに焼き上げる。果実はそのまま頂こう。僕お手製のお皿に盛り付ければ完成だ。


「ルナちゃん、お待たせ! 朝ごはんできたよ!」

「わ~! ありがとう! いただきます!」


 僕はお手製の木のスプーン、ルナちゃんはお箸? とかいうのでパクリ。


「「おいしいっ!」」


 二人で舌鼓を打つ。


「パチーモ、このたまご焼き何か入れた?」

「ただ焼いただけだよ!」

「なんか甘くて濃厚! あの鳥の卵ってこんな味なんだ!」

「あの鳥にはいつもお世話になってるからな~。今度、木の実でも持って行ってあげようかな」

「この果実も甘くて、みずみずしい~。フレッシュ!」

「ルナちゃんが喜んでくれて嬉しいよ」


 苦労して集めてきた分、おいしく感じる。パクパクと口に運んでいると、


「ねぇ、パチーモ。王国に帰ろうと思ったことはないの?」


 ルナちゃんからの唐突な質問。


「あんまりないかな……」

「あんまり?」

「この森に落ちた頃は生き延びるのに必死で、それどころじゃなかったし……どっちに向かえば王国に辿り着けるかも分からないし」


 それに、僕が王国に帰ったとして。帰ってどうしたらいいんだろう? また騎士団の荷物持ちだろうか。いや、僕を見捨てた騎士団のやつらだ。僕が騎士団の所業を広めないように、口封じをするかもしれない。もし、そうだったら――


「この森でずっと暮らしたい?」

「……」


 言葉に詰まる。僕だってあんまり考えないようにしていたんだ。このままずっと、一生この森で暮らすのだろうか? 誰にも出会わず、動物やモンスターにおびえ、その日食べ物にありつけるかも分からない毎日。今は奇跡的に生き延びているけど、大きな怪我をしたり、病気になったりしたら。年を取ったら。考えだしたら不安で押し潰されそうになる。


「暗くて、黒い色をしてる……」


 ぼそっとルナちゃんが呟いた。


「え、僕の未来の色?」

「違う、違う! パチーモの未来は明るく輝いてる! はず!」

「そうだといいけどなぁ」

「未来のことは分からないけど、わたしは縫い目のことは分かる! この世界を縫っている糸がパチーモに絡まっているの。その色が暗い、黒い色……」

「うっ……、なんか僕、呪われてるのかな……」

「どちらかというと、パチーモが呪っちゃってる……かも?」

「否定はできないかも……」


 確かに騎士団のみんなとか、あのドラゴンには思うところがある。文句の一つや二つ言ってやりたい。


「わたしはこの世界の縫い目をほどきに来た。そのために、まずはパチーモに絡まっている糸をなんとかしたい」

「うん」

「という訳で、今日は王国に行ってみよう!」

「うん?」


 ルナちゃんはお皿に残っていた卵をペロりと平らげた。釣られて僕も卵を口の中へかきこむ。


「パチーモ、わたしと手を繋いで?」

「え! いきなり!? 手!? ててて、手を、繋いじゃっていいんですか?」


 迷いなく手を差し出すルナちゃん。本当に握っちゃっていいんだろうか!?


「ここは照れなくてもいいからね?」

「えへへ……」


 もう照れちゃってる僕でごめんなさい。恐る恐るルナちゃんの手を握る。や、柔らかくてあったかい!


「離さないでね?」


 ギュッと僕の手を握るルナちゃん。


「ルナちゃん……!」


 ドキドキしながらルナちゃんを見ると発光していた。


「え? うわぁっ~!」


 直後、僕の目を強烈な光が襲い、一瞬、平衡感覚がなくなった。


「パチーモ、大丈夫?」

「うう、気持ち悪い……」


 両膝と片手を地に着いて、呼吸を整える。まだルナちゃんに手を握られているけど、かっこ悪いところを見せちゃった……。


「ここであってるかな?」


 ルナちゃんに言われて顔を上げる。

 のどかな平原にそびえたつ城壁。僕の目の前に懐かしい景色が広がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ