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転移無法の流れ星  作者: 玉虫光翔
第一章
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01話 流れ星

 大自然。


 そう聞くと、自由で開放的なイメージを思い浮かべてしまうだろう。

 実際、今、僕は全裸だ。

 だけど、大自然にも法はある。


 弱肉強食。


 至ってシンプルな法だ。全裸の解放感に身をゆだねて油断すれば、あっという間に大変なことになる。

 だから、お尻を引き締めるように気も引き締めなきゃいけない。なんたって今は完全無防備な状態。モンスターや動物に攻撃されたらひとたまりもない。万が一にでも弱点に当たってしまったら……。もうトイレの時に痛いのはゴメンだ。

 そして、強者であるためにはお腹を満たす必要もある。というわけで僕は全裸なのだ。全裸でお魚を獲っている。泉に入って木の棒でお魚を突くのだ。

 

 僕が山奥の森へ落ちてから、もうすぐ一年と半年が経つ。


 あのときはもうダメかと思ったけど、雪が深く積もっていたおかげで奇跡的に助かった。

 でも、その後も何回も死にそうな目に遭っている。凍死しそうになったり、冬眠中のクマを起こしちゃったり、キノコを食べてお腹が痛くなったり……。モンスターの群れに囲まれたときは死に物狂いで戦った。

 まぁ、そのおかげでたくましくなったと思う。水面に映る自分の姿を見て、つい両腕に力を込めてポーズを取ってしまった。ふふ、たくましくなった僕にかかれば、お魚もあっという間に一突きだ。


「いまだ!」


 ……ふん。僕の突きを避けるとは。運のいいお魚さんだ。僕にだって調子の悪いときぐらいある。今回は見逃してやろう……なんていうとでも思ったか!? 


「ここっ! そこ? あそこっ! どこだ!?」


 この魚、できる! 僕の突き全部を回避するなんて。もはや木の棒なんて使っていられない。こうなったら素手でいく!

 クマとの激闘を思い出すんだ。冬眠から無理やり起こされたクマは、寝不足でお腹も減っていただろう。きっと本調子じゃなかったはずだ。それでも鋭い爪での前足攻撃を一撃でも食らっていたら、僕は生きていないと断言できる。クマは僕が美味しくいただいた。

 つまり、僕の両腕にはあのときのクマが宿っていると言っても過言ではない。こっちだって今日の食事のために必死なのだ。お魚には悪いけど、おとなしく捕まってもらう。


「うぉっ~!!」


 振り下ろした僕の両腕が水しぶきをあげる。水中から引き抜いて、天に掲げた両手には確かな手ごたえ。獲物を確認するために顔を上げた僕は思わずギョッとしてしまった。

 捕まえたお魚が大きいからではない。確かに今まで獲ったお魚の中では一番の大物だ。だけど、そんなことはどうでもよくなるぐらいの事態が起きている。

 空に、大きく光る星形模様が浮かんでいた。


 なんだろう、あれ?


 魔法を使う時に浮かぶ陣に似ているけれど、あんなに巨大なものは見たことがない。ならば、やることはひとつ。

 ピチピチと暴れるお魚を胸に抱いて、僕は岸へと走り出した。大自然で生き残るには、知らないモノは近づけない、近寄らない。これ大事。ましてや今の僕は全裸、せめて急所ぐらいは腰巻で守りたい。

 急げ、僕。太ももを高く上げるんだ! どんどんあたりが明るくなっていくぞ。きっと空の星形模様が光を強めているんだ。

 僕が岸に飛び上がったと同時に、目を開けていられないほどの強い光がほとばしる。お魚を抱え込んで、地面に伏せることしかできない。そのまま、まぶた越しでも分かる明るさが収まるまでうずくまった。

 恐る恐る目を開ける。太陽はまだ高い位置にあるけれど、なんだかあたりが少し薄暗く感じてしまう。それだけ強烈な光だった。空の星形模様は消えている。


 ……あれ? これだけ?


 ちょっと拍子抜けだけど、まだ何があるか分からない。不安をかき消すように、僕が腰巻へ手を伸ばしたその時。


「キャーっ! 落~ち……ちゃ、うぅうぅぅっ!」


 空から女の子の叫び声が聞こえた。と同時に僕の頭にすさまじい衝撃。


「ぐはっ!!」


 なんだか鈍くて嫌な音が鳴った気がする。もしや、モンスターの奇襲攻撃か!?


「いったぁ……。あっ! 誰か分かんないけど、ゴメン! 生きてる……?」

「う、ぐ……なん、とか」


 どうやら、うつ伏せに倒れる僕の上に誰かが降ってきたらしい。少なくともモンスターじゃなかったは不幸中の幸い……なのだろうか?


「ていうか、キミ。何でハダカ……」


 気まずそうに言いつつ、僕の上からどいてくれる誰かさん。僕は痛みと恥ずかしさに耐えながら、慌てて腰巻を身に着ける。


「えっと、改めてごめんなさい……」


 心から申し訳なさそうに謝る声の主に目を向けて、僕は言葉を失った。

 やっぱり今の衝撃で僕、死んだのかもしれない。

 夜空に輝く満月のような白金色の長い髪。大きな瞳はまるで水晶。見たこともないような変わった服。天使のような女の子がそこにいた。きっと、力尽きた僕をお迎えにきたのだろう。このまま天国まで連れて行って――


「わたしはルナ。キミの名前は?」


 言われて我に返る。どうやら僕はまだ生きているみたい。


「僕の名前は、なんだっけ? ……そうだ、パチーモ! パチーモ・キルトです」


 そういえば、僕が最後に人と会話をしたのはいつだろう? うっかり自分の名前を忘れかけちゃった。


「パチーモね! よろし――」


 ぐ~、と音がなった。顔を赤くして、えへへ……と笑うルナさん。どうやら天使はお腹が空いているようだ。


「お魚、焼きますよ。安全のために移動しましょう」


 何はともあれ、腹ごしらえ。僕が隠れ住む洞穴へと向かった。

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