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第22話『第一三橋頭保~夢魔~』

 明るい夜だった。


 ぽつぽつと灯る赤い篝火。濃紺の空を埋め尽くす満天の星空。


 篝火の前で、わたしは静かに踊り始めた。


 突然のひとり舞台にハンター達の視線が集まる。


 足を上げ、ゆっくりとお尻から上半身のラインを見せる脇を見せるように大きく背中を反らす。誘いをかけるような、ちょっと大人な雰囲気のダンス。


 ニヤニヤと見ていたハンター達の目が次第にとろけ、焦点の合わないものに変わったのが見えた。


 ナイトメアベル。チャーミングな踊りと気の波動によって、エネミーを誘引し、魅了やら混乱やら睡眠といった状態異常を付与する、踊り子固有の気功系スキルだ。


 ナイトメアベルによって催眠状態に陥ったハンター達は、まるで生者に群がるゾンビのように、わたしの元へと集い始める。


 ふらふらぱたり。


 ひとり、またひとりと彼等は倒れ、深い眠りに落ちていく。


 魅惑のダンスで、良い夢を──


 ポーズを決めて、ウインクをひとつ。


 ぱたり、ぱたりと倒れていくハンター達。


 マリオンちゃんも、部下の人を枕にスヤァと陥落済みだ。


 OSGでは、殴って倒した方が早いくらいの雑魚エネミーにしか効果が無い弱スキルだったけど、気に抵抗力の無いこの世界の人達には効果てきめんだった。


 ナイトメアベルの効力が上がっているというわけでもないだろう。実際クルーガーには効いていなくて、ハンター達が眠っていく様子を面白そうに眺めている。


 元はレベル上げの手伝いくらいでしか使えないようなスキル。それを駄目もとで使ったのは、どうしても彼等に眠って欲しい事情があったからだ。


 何はともあれ、効いてくれて良かったよ。もし、効かなかったら物理手段をとらなきゃいけなかったから。


 とはいえ、気への抵抗力は人それぞれだ。大抵はすぐに寝ついてくれるのだが、中には催眠状態で粘るのもいる。


 屈強なハンター達がパタパタと脱落していく中で、わたしの元までたどり着いたのはなんとリート少年だった。熱を帯びた夢現な目で、わたしを見つめる。


「……綺麗だ」


 うわ言のように、リート少年から言葉が漏れた。


 もしかして惚れられちゃったかな?


 まあ、しょうがないよね。だってわたし美少女だし。


 OSGでも、リアルで会えないかって知らない人からDMでナンパされたもんだ。


 中の人があしらってたけどさ。


 好意には答えられないけど、悪い気はしない。


 ゆっくりと手を伸ばしながら、甘い吐息で彼はその名を呟いた。


「……ルシーナ」


 どうやら幻覚が見えているらしい。


 まあね。そんなことだと思ったよ!


 ルシーナは美人だし、性格も良いし、おっぱいも大きいもんね!


「よそ見してんな! このヘタレ!」


 胸元へと向かっていた手を振り払い、腹パンを食らわせると、リート少年は白目を剥いて夢の中へと旅立っていった。


「こんなもんかな」


 死屍累々といった感じで人が倒れている惨状を見回す。


 あとは洞穴の中で治療中の人達と、資料をまとめている学者達だ。


 悪いけど、彼等には物理手段で眠らせることになる。


 洞穴へと向かおうとした、まさにその時──


「おっと!?」


 殺気を感じて、わたしはその場を飛び退る。


 その瞬間、でっかい斧が振り下ろされて大地が割れた。


 ゲハールだ。


「エレクトロンクロー!」


 空中へと回避したところに、ルシーナの追撃が来る。


 そうそう! このふたりがいたんだった!


 ふたりは気の扱いが他より頭抜けてたから、ナイトメアベルが効かなくても不思議じゃない。


 手のひらに紫電を纏わせて迫るルシーナ。どうでもいいけど、彼女の声が可愛いくて、魔法より技名ボイスで痺れそうだ。


 普通なら空中で逃げ場は無い。狙いは悪くないけど相手が悪かった。


 わたしは空中を軽く蹴る。バチバチと光って唸るルシーナの手を躱すと、頭を支点にさせてもらって宙返り。


「ひゃん!」


 ルシーナはバランスを崩して着地に失敗。盛大にすっ転ぶ。


 あ、ごめん。


 あと、クローとか言ってたけどルシーナ爪は短く整えられている。怪我の元だから爪を伸ばさないのはハンターの嗜みだそうだ。血の匂いで魔物に勘付かれるからね。


 爪で切り裂いたりしないなら、エレクトロンフィンガーにすればいいのに。そのボイス是非聞きたい。


「大丈夫か!?」

「う、うん。ごめん仕留められなかった」

「まあ、相手は化け物だ。仕方がねぇ」


 ルシーナを庇いながら斧を構えるゲハール。


 ルシーナもすぐ起き上がったが、その顔には戸惑いが見えた。きっと突然皆を眠らせたわたしの行動の意味が解らず困惑しているのだ。


「こんな可愛い女の子に化け物なんて酷くない?」

「何言ってやがる。こちとらふたりがかりだってのに簡単に手玉に取りやがって。なんで気付くんだよ。後ろにも目が付いてんのか?」

「ぎりぎりまで気配を感じなかったよ。それに連携してくるなんて、正直甘く見てた。ちょっと詰めが甘いけどね」


 ふたり共、わたしが背後を見せるまで気配を消しながら寝たふりをしていたみたいだ。気の動きに敏感になったわたしでも、気が付いたのは本当にぎりぎりだった。


 ゲハールの奇襲でわたしが驚いて硬直するか、回避したところをルシーナが電撃魔法で気絶させる。彼等の作戦はこんなところだろう。


 ハンドサインか、信頼関係か。やり取りを気取らせずに連携を仕掛けたのは見事だった。


 だけど、ゲハールの攻撃はズレていて当てるつもりが無かったのは明らかだし、ルシーナが武器を使っていなかったりと、捕縛が目的とはいえ流石に甘いと言わざるを得ない。


「奇襲するなら殺す気で来なきゃ。反撃されて殺されてたかもしれないよ?」

「こちとら狩人なんでな。獣や魔物を狩ることはあっても、人殺しはやったことがねぇんだよ」

「なるほど。そりゃ、そうだよね」


 どんなに腕の良い狩人でも、人殺しは仕事じゃない。言われてみればその通りだ。


「答えてくれ嬢ちゃん! 何故仲間達を眠らせた!?」

「言えないけど、悪いようにはしないよ」


 初めて会った時のように、うっすらと笑みを張り付けながら答える。


 わたしは彼等をまとめて安全な別の拠点に移そうと思っただけだ。ただ、その方法を伝えるわけにはいかないから、強硬手段を取らざるを得なかったのである。


 ゲハールは重傷者だけをクルーガーで運ぶように頼んで、自分達は自力で森を抜けると言っていた。


 だけど、今この近辺は魔物に包囲されてる状態にある。彼等だけで突破するとなると、いったい何人無事にたどり着けるか……


 ゲハールがその危険を理解していないはずがない。


 けれど助けを求められなかった。相談もされなかった。だから勝手にやることにした。


 文句は言わせない。


「それで納得できるわけ無いだろう!? 言うんだ嬢ちゃん。何を企んでいる!」


 ゲハールが斧を振りかぶるがわたしは答えない。


 信頼してその身を委ねろというには、会ってからの時間が短すぎた。それは仕方が無いこと。


 でも、わたしが彼等を死なせたくないと思うには十分だったんだ。


 だからこその実力行使!


 魔導回路接続。イグニッション、ディストーションスタンバイ──


 ドライブ!


「うおっ!?」


 わたしが金色の光に包まれると、流石のゲハールもたじろいた。


「それが本気かよ……洒落にならねぇなおい」

「こけおどしかもしれないよ?」

「冗談言え……トロール相手にする方がマシだってくらいやべぇ気配が伝わってくるぜ。何度も聞くが、本当の本当に踊り子か?」

「踊り子だってば」


 引きつった顔のゲハールは、イグディスブーストのかかったわたし実力を肌で感じているようだ。


 ルシーナは完全に戦意を喪失したみたいで、尻尾を抱きながらしゃがみこんでいる。


「このくらいで怖気づいてるようじゃ話にならないよ? そんなんでよく森の奥まで出てきたね?」

「まあ、俺達にも事情ってのがあるんだよ」

「それでも無謀だったと思うけど?」

「ぐうの音も出ねぇな」


 しょげた顔をして、禿げ頭に手をやるゲハール。


「危険だってのは分かってたんだ。魔物は強ぇし、補給もままならねぇ。だが、拠点にするのにちょうどいい洞穴が見つけたことで、魔物資源が欲しい帝国貴族は出張ってくるし、学者も来るしでハンターギルドも後に引けなくなってな。ったく……上の連中は成果出せってうるさいし、血気盛んな若いのは突っ走るし、そんな時にトロールに手を出して、このザマよ」

「禿げたと?」

「違ぇわ! 相変わらず酷ぇなおい!」


 知らないよ。いい歳して一三歳に愚痴る方が悪い。


「そういうのは酒場か労基でどうぞ」

「生きて帰れたらな! くそっ! なんでお前さん一三歳なんだよ! 飲みに誘えねぇじゃねぇか! ……ロウキってなんだ?」 


 無いのか労働基準監督署。この世界の労働者は大変だな。


 あと、例え大人だったとしても、酔っ払ったおっさんの仕事の愚痴に付き合わされるのはごめんだ。アルハラ、パワハラ駄目。絶対。


「それで、まだやる?」


 拳を握ってにっこり笑顔。


 ゲハールはしかめっ面で斧を構える。


「まあ、逃げるわけにゃいかねぇしな。お手柔らかに頼むぜ」

「痛いのは最初だけで、優しくするから安心して任せて。寝てる間に全部終わらせるから」

「……お前さん。本当に一三歳の女の子なんだよな?」

「一三歳の女の子だってば」


 なんか変な事言ったかな?


 おっさんが顔を赤らめてなんか気持ち悪いんだけど?


 まあいっか。


 ゲハールは腹に一発入れて、ルシーナはぎゅっと抱きしめて絞め落とそう。


 身構えるゲハールにわたしが踏み込もうとその時だ。


「ゲハール! なんか変!」


 クゥ!


 ルシーナとクルーガーが何かを察知した。同時に、木々の間から触手のようなものが伸びてくる。


「オーラセイバー!」


 襲ってきたソレを、オーラセイバーでぶった斬る。ソレは地面に落ちた後、ぴちぴち跳ねた後で動かなくなった。


 何なんだと森の方を見ると、でっかい目玉がこっちを見ていた。


「あー、変なのまで誘引しちゃったかも。ごめん」


 目玉の主が森から這い出すように現れる。それは緑色の体色をした巨大イカだ。襲ってきたのはそのイカの足だったのだ。


 陸生の巨大イカ。OSGにはいなかったタイプの魔物だ。


 宇宙に住む巨大イカならいたんだけどなー。

ここまで読んでいただきましてありがとうございます!

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