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第18話『第一三橋頭保~五人抜き~』

相撲回です!

 服を脱ぎ捨てて下着姿になったルシーナが土俵に上がってくる。まだ成長期だというのにほれぼれするようなスタイルだ。


 鼻の下を伸ばした男達の目がある中で臆する様子もない。美しく引き締まった身体を堂々と晒し、わたしを睨みつけて来る。


 強いね。


 相手にとって不足無し! 本気で楽しめそうだ!


 土俵中央。わたしと彼女は向かい合い、仕切り線を挟んで腰を下ろす。


 相手を見つめながら土俵に手をつく。


 呼吸が合った瞬間。それが勝負開始の合図──


 はっけよい!


 バシッ!


 立ち合い。肌がぶつかり合う音が森に響く。


 まわしが無いから、お互い脇の下を掴んで組み合う。


「んっ!」


 ルシーナに押されてわたしの足が次第に下がっていく。


 そこまで対格差がそこまであるわけじゃない。ルシーナの身体は締まってるけど、ムキムキってわけでもない。それなのにこうも力負けするのは、獣人である彼女との種族的な差なのだろう。


 その程度なの?


 まるでそう言われてるようで──


 悔しい。悔しいけど──


 わたしはこの力比べを楽しんでいた。相手を全身で受け止めてて競り合う緊張感。劣勢を覆えしてどう勝つかを考えるのはたまらなく楽しかった。


 力はルシーナが上だけど、技術では勝っている。低く懐に潜り込んで有利な体勢をとっているのはわたしの方。


 お互いまわしを締めてたら、もっと多彩な攻め方が出来た。こっちもまわしを取られるリスクはあるけど、上手をとったら負けないよ。


 彼女の下着は紐みたいで掴むには不十分。わたしの踊り子衣装付属のビキニも掴んで引っ張られたら凄いことになってしまう。


 のこったのこった!


 わたしは円運動で相手から力を逃がしながら、背筋で彼女の身体を跳ね上げる。


 ルシーナの身体が傾き、重心が崩れたところを、脇から差し込んだ右腕で彼女を投げた。掬い投げだ。


 大きく足を広げながら、背中から土俵に転がるルシーナ。


 今の気分を控えめに言おう。


 最・高!


 やっぱり相撲は楽しい。


「良い勝負だったぞ!」

「よく頑張った! 感動した!」


 周囲からは歓声と拍手が聞こえて来た。


 集中してて気づかなかったけど、取り組み中も今もルシーナへの応援ばっかりな気がする。


 まあ、いいけどさ。


 よほど悔しかったのか、彼女の瞳からこぼれた涙が土俵に落ちる。


 わたしは手を貸そうとしたけど、彼女はその手を取らなかった。


「もう一回!」

「駄目。涙を拭いてから出直しておいで」


 ルシーナの再戦の申し出を、わたしはにべもなく断った。相手が見えなきゃ勝てる勝負も勝てないからね。


 ふさふさの尻尾をしおしおと垂らしながら土俵を下りるルシーナ。わたしは土にまみれた彼女の背中を見送る。


 今の一番は最高に楽しかった。彼女とはまた勝負したい。


「次はだれ!?」


 ハンター連中に目を向ける。


「リートいってこい!」


 ゲハールがひとりの少年の背中を叩く。リートと呼ばれた彼は、ルシーナと同じく、わたしに敵意を向けていた少年だ。


「え、俺ですか!?」

「お前も、嬢ちゃんに言いたい事あったんだろ?」

「で、でも女の子ですよ? 相撲なんて……」

「馬鹿。ルシーナを軽く負かすような相手にお前が勝てるわけないだろ。オーガにでも挑むつもりで行ってこい」

「わ、わかりました!」


 勝てるわけが無いと言われて、男子としてのプライドを傷つけられたのだろう。しれっとルシーナより弱いとも言われてるしね。


 で、誰がオーガだって?


 上着と靴を脱いで土俵に上がるリート少年。垢ぬけない感じで、歳は一五、六歳といったところ。ハンターらしく身体は締まってるけど、細身で背丈もそんなに無い。一七〇センチくらいで体重は六〇キロくらいだろう。


 これくらいの体格なら余裕である。


 土俵中央で向かい合って、手をつく。


 顔を赤くしながら、ちらちらと視線を送るリート少年。反応が初心だ。


 はっけよい!


 リート少年の力はルシーナより弱いけどわたしよりはある。でも、押し合いで優勢なのはわたしの方だった。


 のこったのこった。


 わたしに押されて早くも土俵際のリート少年。


「あれれ? おかしいな? お兄ちゃん女の子に負けてるよ?」

「くそっ!」


 リート少年の懐に潜り込んで、押し上げるように押して行く。対してリート少年の手はわたしの肩を掴むのみ。


 相撲は武術だ。単純な力だけで勝負は決まらない。技術、そして心の強さで勝負が決まる。


 裸の美少女に緊張するのは分かるけど、土俵の上で相手を性的に意識する気持ちは捨てるべきだった。


 勝とうという心で負けなければ、多少は善戦できただろう。しかし、リート少年は土俵際まで押し込まれた末に、俵に足をとられて尻もちをつくという結果に終わった。


 押し倒しでミュラちゃんの勝ちー!


 お兄ちゃんよわーい! ざぁこざぁこ♪


「お前何やってんだよ……」


 ハンター達に落胆の目を向けられて更に落ち込むリート少年。悔しかったらここで腐らず、もう一度土俵に上がってきたまえ。


 リート少年が土俵を下りると、わたしは隅っこで興味なさげにしている少女を手招きした。


 マリオンちゃんだ。


「は!? なんでボクが!? 相撲なんて野蛮なことボクがやるわけないだろう」

「いいからいいから。()について分かるかもしれないよ?」


 マリオンちゃんを土俵の上でいたぶろうとか思っていないし、適当な事を言っているわけではない。


 実は()を学ぶのに相撲は最適なのだ。


 気を扱うには、まず自身から発する()を感じることが出来るようになる必要がある。


 これを普通の人間がゼロから始めると、何十年もの修練が必要になるんだけど、実は案外簡単な近道がある。それは既に()の扱いを習得してる人間の気を受ける事だ。


 未知なる第六感も、最初の一歩の手を引いてもらえばあとは簡単って話。で、特に()を感じるには、極力気が昂る接近戦が望ましい。


 ルールを守って楽しく()を学べる。だからOSGの世界で相撲は義務教育で必修だった。


 わたしが見たところ、ハンター達は猛者ではあるけど、決して戦闘のプロではない。あくまで狩人である。だというのに、ハンター達が気を習得してるのは、魔物という気の使い手と日々戦っているからだ。


 魔物からの気を受ける事で、自然と無自覚に()を扱うようになった。それが彼等の高い身体能力の正体だ。だからOSGのスキルみたいに完成されておらず、効果が個人でばらつきがある。


 また、この世界で()は体内魔力と呼ばれて、魔法の一種だと誤解されているようだ。これを正して気功を発展させれば、この世界の戦士の戦闘力は飛躍的に伸びるだろう。だからマリオンちゃんには是非とも()を学んで欲しいのだ。


()か……良いだろう!」


 ()という餌は彼女が食いつくには十分だったようだ。


 興味の対象の為なら、インドア少女でも裸になって土俵に上がる。それが探究者という生き物なのである。


 ローブを脱いだマリオンちゃん。ローブの下はふりふりフリルのブラウスにミニスカート。ニーハイに包まれた細い足。


 天然のゴスロリ少女がそこにいた。


 周囲が静まり返る。彼女のローブの下を見たのはハンター達も初めてだったらしい。


「ど、どうした!? 何を黙っている!?」

「……お前、森の中でなんて格好してやがる」

「服を着てるだけこいつよりマシだろう!」


 はい。ケープコートの下は半裸のミュラです。


「それにこの服は、帝国魔導士団の制服だから着ているのだ。そうでなければ、ボクだってこんなふりふりな服は趣味ではない!」


 マリオンちゃんは気に入らないようだけど、ミニスカゴスロリ制服は、貴族としての高貴さは忘れず、動きやすさと機能性を兼ね備えたデザインだ。ガーターベルトと太もものポーチが実に良い。やるな帝国魔導士団。


 ブラウスのリボンタイを外し、ボタンを外そうとするマリオンちゃん。


「あ、靴と靴下だけでいいよ」

「そ、そうか?」


 着たり脱いだり大変そうだし、マリオンちゃん相手にガチ勝負にはならないだろうからね。


 わたしは彼女に伝えたいのは、気と身体の使い方だ。


 両手をついて、はっけよいのこった!


 相撲をとるのは始めてなのだろう。マリオンちゃんの所作は、見よう見まねといった感じでぎこちない。


 ぽふっとぶつかってくるマリオンちゃんを受け止める。


 弱い、軽い、そして細い。


 ちゃんとお肉食べてる?


 それでも、体幹は結構強かった。腕力は無いけど、全体的に体力が無いわけではなさそうだ。


「もっと足を開いて腰を落として。下半身を大地と一体化させる感じで。前に押すんじゃなくて、押し上げるんだよ。相手の重心を崩せば自分より大きい相手でも押しだせる。相撲で勝つコツは筋肉よりも合理と科学だよ」

「合理と科学……そうか」


 おっ。


 瞬間、ぐっと押されて、わたしの重心がぶれた。


「その調子! 上手いよ!」


 わたしは土俵際まで押されて行く。


 とは言え──


「うわっ!?」


 負けてあげるつもりはないからね。わたしはマリオンちゃんの脇を持って抱き合げると、土俵の外にそっと下す。


「どうだった?」

()はよくわからん。だが……良い学びがあった。感謝する」


 照れ臭そうに礼を言って土俵を下りるマリオンちゃん。


 その様子から何かを学んでくれたみたいだし、わたしもそれで良い。


 次の相手のトム少年はかなり大柄な少年だった。


 そばかすが残る少年らしい顔立ちの彼は、歳はリート少年と同じくらいだけど、体格は良くて、一八〇センチの八〇キロってところ。


 まあ、なんとかなるかな。


「いけーっ! トム! ぶっ飛ばせー!」


 トーム! トーム! トーム!


 ハンター達から上がるトムトムコール。


 わたしへの声援はひとつもない。まったく大人げない連中である。


 はっけよい!


 立ち合いから低く当たったわたし。トム少年に掴まれないよう、素早く潜り込み、彼の股から足を掬い上げる。


 足をとられて一瞬バランスを崩されたトム少年だけど、わたしの身体を抱えこんで持ち上げようとする。わたしは彼の足をとってそれに耐える。低く身をかがめ、周りからは押しつぶされるかのように見えただろう。


 が、しかし──


 トム少年の身体が浮き上がった。わたしがトム少年の股座と肩に腕をまわし、背中に担ぐように持ち上げたのだ。


 小柄な女の子に持ち上げられちゃってどんな気持ち? ねえ、どんな気持ち?


 撞木反り! どーん!


 トム少年を背後に投げ落とす。


 ミュラちゃん四人抜き!


 笑いと歓声の中、蹲踞して勝ち名乗りのポーズ!


「一番お願いします!」


 トム少年と入れ替わりで土俵に上がったのは、さっきより少しマシな顔つきになったリート少年だった。


「いいよ! また倒してあげる!」


 わたしは彼の挑戦を受けて土俵中央へ。


 見合って見合って……


 真剣な眼差しのリート少年の目が真っ直ぐわたしに向けられて……いなかった。


 ははーん。これはあれですね?


 もう、ヘタレなんだから。


 はっけよい!


 立ち合いと同時に八艘飛びをかますリート少年。


 やっぱりね。


 視線の動き。それにわたしの動体視力をもってすればリート少年の動きなんてまるっとお見通しだ。着地で不安定なところに素早く食らいついて外無双。足を払われてひっくり返るリート少年。ざぁこ。


「何やってんだリート!」

「情けねぇぞ!」


 勝つために工夫するのは悪くない。でも、女の子相手に真っ向勝負から逃げるのはかっこ悪いぞ。


 無様な取り組みを見せたリート少年は、ぶーぶーとヤジが飛ぶ中、肩を落として土俵を下りた。


 これで五人抜きだけど、まだまだ物足りない。歳が近いのはルシーナと、リート少年、トム少年、それにマリオンちゃんくらいで、全員相手をしたことになる。とはいえ、ゲハールみたいな筋肉ゴリラのおっさんは相手にしたくない。


 ここまでかな?


 物足りない気持ちはあるが、土俵を消そうとしたそのときだ。


「絶対に泣かしてやるから」


 泣き腫らした目、身体についた土もそのままにルシーナが土俵に上がって来た。


 待ってたよ。

懺悔します。


わたしはこの度、相撲回でありながらまわしどころか、ふんどしすらも締めさないという、相撲ファンに対し許されざる裏切りを行いました。


登場人物にまわし、ふんどしを締めさせることは、話の流れ上どうしても不可能でした。すべてはわたしの至らなさが原因です。


「美少女が相撲するのに何故まわしじゃないんだ!」 


「せめてふんどしで!」


読まれた多くの方がもどかしい気持ちを抱える事と存じます。作者も同じ気持ちです。


しかも、次回も続きます。ミュラと狼系の獣人少女ルシーナちゃんとの本気の喧嘩相撲が何番か続く予定です。


まわしも無い、ふんどしも無い地獄の相撲回がまだ続くのです。


作者は今、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。


まわしファン、ふんどしファンの皆様。この度は真に申し訳ございませんでした。

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