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第17話『第一三橋頭保~荼毘~』

「本当に興味深い話だわ! 直ぐにレポートにまとめなきゃ!」


 この「興味深い」はマリオン氏ではない。エイリーン氏だ。


 彼女はくすんだ金髪を頭の上でまとめた知的美人で、なんと冒険者なのだという。


 なーんだ冒険者か。と、思うかもしれないが、この世界の冒険者はちょっと違う。


 この世界の冒険者ってのは、遺跡や未開地を調査したり、地図を作ったりする職業で、エリートにしかなれない国際資格らしい。


 冒険者の資格があれば、国境でも関所でもすんなり通れるし、街中での帯剣だって認められる。エイリーン氏の普通の剣を愛用しているも、それが冒険者の嗜みだからだそうだ。


 一方、大抵の街で平民は武装が認められていない。だからゲハールみたいなハンターは、基本的に対魔物用の武器しか使わないし、街の外で生活しているらしい。それがハンターの掟なんだってさ。


 さて、冒険者のエイリーン氏からしても、わたしは「興味深い」存在らしい。


 実はわたしの瞳の色、紫がかってるんだよね。わたしをキャラクリしたプレイヤーの趣味なんだけど、エイリーン氏が既に滅びた国の王家の瞳だって騒ぎ出して、わたしの住んでた故郷について根掘り葉掘り聞いて来た。


 だから答えたよ。異世界から来たって正直に。


 わたしはサービス終了した世界から、三日前にこの世界にやってきた異邦人。どんなに探したって、この世界で生まれた痕跡も、ましてや滅びた王国との繋がりなんては見つかりはしないのだ。


 エイリーン史は最初半信半疑って感じだったけど、マリオン氏やゲハールはあっさり信じた。


 というか納得した。


 滅びた国の生き残りよりも、別世界から来たって方が納得できるくらい、ふたりにとってわたしは規格外らしい。


 それで、OSGの世界について話をしたのだが──


「えぐっ……ぐすっ……そんな馬鹿な話があるもんか! 魔法は……最強なんだっ!」


 魔法世界リミューが、地球に戦争吹っ掛けて返り討ちにあったっていう、OSGの世界の歴史を話したらマリオン氏が泣き出しちゃった。


 魔法に傾倒した価値観を持つマリオン氏を見て、今のままだとこの世界が、リミューと同じような過ちを犯しかねないと思ったから話したんだけど、どうしてこうなった?


 発明や発見を大事にして、科学を発展させていけって伝えたかっただけなのに。


 学者のエイリーン氏は何か思うところがあったのか、レポートを書くとか言って、行ってしまった。


 泣いて愚図るマリオン氏を前に、おろおろするわたしを窘めたのはゲハールだった。


「おまえ。あんまり年下虐めるなよ」

「年下って誰が?」

「誰がって、見りゃわかるだろう。卿はまだ一〇歳だぞ?」


 えー!? マジか!? てっきり年上だと思ってた!


「えうっ……ボクは一一歳だ馬鹿者!」


 年齢を訂正するマリオン氏……いや、マリオンちゃん。


 ジト目で睨んで来るその顔は、確かに子供のものだ。不健康そうな見た目とか、尊大な口調のせいでそう見えなかっただけで。


「すまんすまん。だがそれでも嬢ちゃんより年下だよな」

「あ、うん。ごめん。てっきり子供に見えるだけの大人だと思ってた。わたしの故郷には、見た目で年齢が分からないのが沢山いたから」


 普通の人族でも八〇歳くらいまで老化しない世界だからね。


 見た目がロリやショタでも(大人の事情で)一八才以上ってのがざらだったし、数年で大人になる人造種なんてのもいた。


 そしてなにより、見た目は大人、頭脳は子供な連中ばっかりだったぜ!


「嬢ちゃんの故郷どうなってんだよ!? エルフだって子供の間は人間と同じように成長するってのに。やっぱお前さん人族じゃねーだろ?」

「人族だってば」


 そんなこんなしてる間に、日暮れの時間になった。


 洞穴の前には動ける者全員が集まっている。


 ゲハール率いるハンター達。


 マリオンちゃん率いる魔導士達。


 そしてエイリーン氏と学者達。


 元は五〇人くらいいたらしいけど、今は三〇人余り。彼等は夜明けと共に一番近い別の拠点に向かうという。


 赤く染まった空の下、やぐらに火が着けられた。死んだハンター達の亡骸を荼毘にふすのだ。


 トロールの亡骸は手が回らず、結局そのままにされた。


 誰もが静かに、やぐらの火を見つめている。


 わたしは彼等の輪から外れたところから、クルーガーとそれを眺めていた。


 カサリ……


 小さな足音に視線を向けると、ひとりの少女がいた。


 とても美しい少女だった。


 医務室で眠っていた獣人の子だ。名前はルシーナちゃんだっけ?


 金色の髪、金色の瞳。頭の上に伸びたと、オオカミのようなふさふさとした耳と尻尾。わたしより五センチくらい背が高くて、胸も大きい。D? いや、Eカップくらいある。


 彼女はひとつ年上だからね。来年にはわたしも同じくらいになってると思うよ?


「初めまして、わたしはミュラ・ツキガセ。踊り子です」


 同年代の女の子だ。できれば仲良くなりたい。胸の内にそんな期待を込めながら、わたしは今日何度目かわからない挨拶をする。


「……」


 種族的に日焼けしづらいのだろう。白い肌を夕日で朱に染めて、暗く、生気の無い目をこちらに向ける。


 彼女の手の中で何かが光った。迷いなく突き出されたそれは、火に照らされて赤く輝くナイフだった。


 反射的に躱して、彼女の腕を捻り上げ地面に組み伏せる。


 力がかなり強い。わたしは振り払われないように、彼女への拘束を強める。


 クゥ!


「大丈夫! クルーガーは手を出さないで!」


 心配したクルーガーを諫めて少女を見る。振り返る彼女のその瞳からは、確かな怒りと憎しみが込められていた。


 どうして……?


「ルシーナ!?」


 事態に気付いたゲハールとハンター達が駆けつけて来る。


「ルシーナ!? お前何やってんだ!?」


 彼女の手に握られたナイフを見て、何があったか察したらしい。ゲハールがルシーナの手からナイフを奪い取る。


 ゲハール達が来たことで、わたしはルシーナを開放した。ふたりのハンターが彼女を立たせて、両脇を抑えるように拘束する。


「お前、どうしてこんな事を!? この嬢ちゃんは俺達の命の恩人だぞ!?」

「あの時……空に、グリフォンがいるのは気付いてた。それにまじって、甘い匂い。こいつの匂い……こいつは、ロブとカートを見殺しにした! だから……!」


 ゲハールの叱責に、彼女が答える。


「どうして……もっと早く助けてくれなかったの?」


 ああ、そういう事か。


 少女の言葉はわたしの胸を打った。


 彼女の言う通り、わたしは彼等を救おうと、最善を尽くしたわけではない。


 彼等が危機的状況に陥っているのを知りながら、すぐには助けなかった。


 ゲームの世界の住人だったわたしは、死ってやつをまともに理解していなかったんだと思う。


 レベル帯に合わない所で狩りをする、初心者パーティーを見るような気持ちがあった。


 ハンター達の実力を見て、トロールの命と、自分の利益を天秤にかけてから介入した。


 感覚の鋭い彼女は、わたしが現場に着いて空から様子を見ていた事に気付いていたのだ。


 トロールに掴まり、首をもがれた少年。殴り飛ばされて木に打ち付けられた少年は、わたしがもっと早く動いていれば助けられた。


 彼等を見殺しにしたと言うのは、決して過言ではない。彼女がわたしを憎む理由としては十分だ。


 だからと言って、彼女の言い分は受け入れられない。この日、一番理不尽な目に遭ったのはトロールだ。


 わたしには人間の味方をしなければならない理由なんて無いし、自分の安全だって考えなくちゃない。


 わたしはヒーローでは無いのだから。


 それでも彼女の言葉が刺さったのは、助けられる命を助けなかった事に、今の今までまったく罪悪感を感じていなかったという事実に気付かされたからだ。


 どうやらわたしは、自分で思ってるより冷たい人間だったらしい。


「どういう事だ?」

「あなた達が襲われていた時、わたしがしばらく様子を見ていたのに気付いていたみたい」

「そうか……だが、それは当然だろう。嬢ちゃんは偶然通りかかっただけなんだからな」


 ゲハールや、年嵩のハンターはわたしを責める様子は無さそうだ。でも、若いハンターの中には、明らかな敵意の目を向ける者もいる。


 まったく……


 これが、人と関わるって事か……


 めんどくさくて、難しいね。


「ルシーナ。嬢ちゃんを責めるのは間違いだ。トロールを怒らせたのも、あの場で応戦を命じたのも俺だからな。恨むなら俺にしろ」


 ゲハールは彼女の前にかがみ込むと、自分を刺せとでも言うように、奪ったナイフを再びルシーナの手に握らせる。


 まったくその通りだね! って言ってやりたかったけど、空気が読めるわたしは我慢した。


「まったくその通りだ! 全部この禿げが悪い! ルシーナよ、ひと思いにやってしまえ!」


 空気を読まないマリオンちゃんは我慢しなかった。


 そして、ルシーナはナイフを地面に落っことして泣いた。





「うちのもんが悪かったな。ルシーナには、ちゃんとけじめをつけさせると約束する」

「いいよ。怪我もしなかったしさ」


 わたしはゲハールの謝罪を受け入れる。ナイフを向けたルシーナのことも許すつもりだ。


 どうせ()()()()()()()()、わたしは彼等の元を去る。もう二度と会うことも無いだろう。


 彼女にはゲハール達大人が諭して、話はお終い。


 それが普通なんだろう。


 でも……人を刺そうとする程に鬱屈したルシーナの気持ちはどうなる? 我慢させてお終い?


 たぶんだけど、それじゃ彼女が壊れちゃうよ。


「気持ちってさ。ぶつけないとすっきりしないでしょ?」


 わたしはケープコートを思い切り脱ぎ捨てた。


「だったらおもいっきりやろうよ!」


 にかっと笑って彼女を見る。


 いきなり裸になったわたしに、目を丸くするルシーナ。


「言いたいことがあるなら、まずわたしを倒してみなよ!」


 この言葉はルシーナだけに向けたものではない。わたしに不審な目を向けていた若いハンター達にも向けたものだ。


 ゲハールが慌てる。


「待て、決闘でもしようってのか!? 嬢ちゃんとルシーナじゃ力の差がありすぎるだろ!? あと、ぽんぽん脱ぐんじゃねぇ! 変態娘め!」


 確かに、普通に戦えばルシーナちゃんはわたしには勝てない。ただのいじめにしかならないだろう。


 でも、ガチバトルには色々な形があるのだ。


 あと、誰が変態娘じゃこらぁ!


「いいから、任せて!」


 魔導回路接続! クレイクリエイション! ロードデータ【D】解放!


 バトルフィールドセットアップ!


 わたしはを足を上げ、強く大地を踏みしめるように打ち下ろす。


 四股だ。それを合図に地面が平たい台形状に盛固まる。


 台形の上には一辺二二尺(六.七メートル)の正方形の中に、一六個の細長い円柱で描かれた、直径一五尺(約四.六メートル)の(リング)


 中央に二本の白い仕切り線のあるそれは、それは皆大好き、相撲の土俵だ。


 クレイクリエイションは、土を変形させる汎用相転移系魔法で、戦闘用の魔法ではない。


 予め用意された様々な形状のパーツを、大きさや角度を変えて並べたり、色を変えたりすることで、様々なものを再現するOSGのミニゲーム。作って遊ぶ為の魔法なのだ。


 OSGのプレイヤー達は、銅像やら迷路やらを作ってはSNSに上げていた。


 で、うちのプレイヤーは土俵を作った。


 プレイヤーの腕とセンスが悪かったので、結構作りは荒いけどね。


 とはいえ、相撲を楽しむにはこれで十分。


 完成した土俵の上で仁王立ちして、唖然としているルシーナちゃんに視線を送る。


 さあ、土俵に上がっておいで。喧嘩相撲の始まりだ!


次回、相撲回です!

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