第16話『第一三橋頭保〜魔法〜』
みんな大好き設定祭りだよ!
わたしが生きていたOSGの世界では、魔法は既に特別なものでは無かった。
かつて特別な才能を持つ者にのみ与えられた魔法は、一二歳以上なら誰でも受けられる厳正な試験の上、免許を取得することで使用を許可される権利になっていた。
聖なる力では無くインフラのひとつであり──
未知への冒険では無く確立された技術であり──
勇気の証なんてものは、免許の項目に存在しない。
かつて、魔法使いと呼ばれた人々が持っていた特別な才能を、最先端のデジタル端末が代替することで、誰もが魔法を使うことが出来る世界。
人が平等に魔法の恩恵を受けられる世界。
OSGの世界はそんな世界だった。
だからわたしは、魔法に愛されてなんかいない。
教習所に通い、試験を通過し免許を取って魔法を使っている、ただの凡人なのだ。
こっちの世界に来てから転生特典として、魔力や気力を肌で感じることが出来るようになったけどね。
どうやらゲーム中エフェクトや数字で表されていたのが、感覚に移り変わった副産物的なものらしい。おかげで感覚が混乱して森でメガロベア相手に死にかけた。
「どうも。ミュラ・ツキガセです。ジョブは踊り子で、アズニャンの祝福を受けし、黒髪、ポニテ、八重歯の生意気後輩系ふんどしJCです」
四属性マスターさ!(キリッ!)とか名乗られたので、こっちもそれっぽく名乗ってみた。
とはいえ流石に変化球過ぎたのか、ぽかんとしているマリオン氏。
「アズニャーン? じぇいしー? 貴様は何を言っている?」
「生みの親がわたしに詰め込んだ属性ですけど?」
わたしをキャラクリしたプレイヤーは、ポニーテール至上主義を語りながら、好きになるキャラは大抵ツインテールという変な奴だった。
某有名アニメキャラに脳を焼かれていたプレイヤーが、そのアニメキャラを素に自らの願望を詰め込んで生み出されたのがわたしである。
クランの先輩からはよくミュラにゃんって呼ばれてたよ。断固としてツインテールにはしなかったけど。
「はあぁ!? 貴様はボクを馬鹿にしているのか!? 属性と言えば、日、月、火、水、木、金、土、風の、八大属性に決まっているだろう!」
唾を飛ばしながら属性とやらを語るマリオン氏。
知らないよそんなの!
一般的なファンタジーに当てはめるなら、日は光、月は闇かな?
あとは鉄板の地、火、風、水に、五行の木、金が入って八種類。欲張りセットだね。
「属性ってのが無いと魔法って使えなかったりする?」
「その通りだ。魔法の才とは、八大属性のうちいずれかの祝福を受ける事で開花するものだ」
「自分の属性以外の魔法は使え無いってこと?」
「そりゃそうだろう! もっともボクは、地、火、風、水の四属性が使えるがな! わっはっは!」
「わっはっは!」じゃねーよ! そんなの祝福じゃなくて枷じゃないか。
「さあ言え。貴様の属性は何だ?」
「そんなこと言われてもなー。わたしの故郷ではそんなの無かったし」
「馬鹿な!? いや、待て?」
マリオン氏が、くんくんと鼻を近づける。
わんこかな? くせのあるブラウンの髪と、前髪のせいで目元が見えづらいところがなんだかチャウチャウっぽい。
「どういうことだ? 貴様からは魔力を全く感じないぞ?」
「魔力って匂いでわかるの?」
「普通に分かるわ馬鹿者」
理不尽! じゃあ何で匂いを嗅いだ!?
「いや、そんなわけ無いだろう!? 実際お嬢ちゃんは魔法を使ってたじゃねーか!?」
「そうだね。わたしは魔法が使えるよ」
わたしはフェイザーチャクラムで、軽くその辺の木を斬り倒して見せる。
フェイザーチャクラムはフラフープくらいの大きさで出せるから、木を斬り倒すのもわけはないのだ。
「何だ今の魔法は!?」
「凄い……なんて威力なの!?」
「だろう? 嬢ちゃんの魔法はすげぇんだ!」
驚きの声を上げるマリオン氏とエイリーン氏に、何故かゲハールがドヤ顔をする。
「だが、魔力は感じなかったぞ!? これだけの威力がありながら全く感じなかったんだ!? いったいどうして!?」
「そんなこと言われてもなー」
実はわたし、その答えを知っているんだよね。
わたしがいたのは、凡人が魔法を使えるくらい魔法の研究が進んだ世界なのだ。魔法がいかにして発展してきたかを学ぶ魔法史は、義務教育で誰もが習う。
これでも結構成績良かったんだよ?
さて、突然ですが問題です。
燃焼の仕組みも知らない魔法使いが、火玉を撃てるのはどうしてでしょう?
風が何かを知らないのに風の刃を発生させられるのは?
水が酸化水素であることを知らないのに生み出せるのは?
土の成分を知らないのに操れるのは?
答はね──
魔法を発動する何者かが、実は別に存在していたから。
魔法黎明期の魔法使い達は、自らが魔力を操り魔法を発動していたと考えていたが実は違う。
魔力とは万能因子の残滓のこと。魔力は万象を疑似的に起こすことが出来るけれど、人間が直接操ったりは出来ない。
例えば粘土なら手で捏ねて弄って形を作れるよね?
でも水は? 空気は?
出来ないよね?
命令して色や形が変わってくれる? 出来ないよね?
だって、水や空気に意志があるわけじゃないのだから。
魔力も一緒。意志があるわけじゃない。目も耳も無い。じゃあ、魔力はどうやって、火の弾や水の塊に変化していたの?
それはつまり──
魔法使いが呪文やら魔法陣やらで表したイメージを受信して、魔力を捏ねて弄れる何者かがいるってことだよね?
OSGの世界ではその何者かを、情報思念体と呼んでいた。
情報思念体へのアクセス能力。それが人を魔法使いになる為の特別な才能の正体だったのだ。
魔法使いの才能の差となる魔力量とは、情報思念体への接続強度。魔力消費とは、情報思念体への接続による脳の負荷によって起こる錯覚である。
マリオン氏がわたしから魔力を感じないのは当たり前だ。普通の人族(?)であるわたしには、情報思念体へアクセス能力が無いのだから。
そもそも、マリオン氏達、魔法使いが魔力だと感じているのは、実は魔力では無いわけなんだけど。
因みにだが、情報思念体へのアクセス能力を生み出す原因は、右脳に魔物化した菌が侵入することで起こる感染症であると確認されている。
医療が発達して、体内に菌が侵入する機会が減った事で、情報思念体にアクセスできる天然の魔法使いも数を減らした。因果関係に気付いた頃にはほぼ絶滅してたね。
OSGの世界の魔法は、情報思念体の役割を機械が代替することで、誰でも魔法を使うことが出来るようになっている。
魔法は魔法技師によって設計、デザインされ、思考制御型端末から発動される。魔力は予め端末内にストックされて、これを消費するという
仕組みだ。
魔力の運用にで人間が疲労することは無く、旧世代の魔法妨害を受けることも無い。
魔力の充填も機械任せで、急速充填が可能。
それがOSGの世界の魔法! 第三世代型デジタルマギカなのである!
ドヤァ!
まあ、わたしが作ったわけじゃないけどさ。
この世界では、思考制御型端末の代役をARデバイサーがやってるから、わたしがこの世界でも魔法を使えるのはツクネ様のおかげだし。
「くそぅ! わからん! 今の魔法は何だ!? 風属性のウインドカッターに似ているが光っていた。それにウインドカッターにあれほどの切断力は無い……だいたい、何故発動中でさえ魔力を感じんのだ? わからん……わからん!」
「ふはははっ! 帝国の魔導士先生でもわからない魔法があったとはな!」
マリオン氏が頭を抱えてぶつぶつ言い始めると、それをゲハールが煽り始める。
「黙れ、この禿げっ! ボクの思考の邪魔をするな!」
「ふははっ! 普段偉そうにしてるくせに良いざまだぜ! 嬢ちゃん。今の魔法について、こちらの魔導士先生に教えてやってくれ」
うわっ! この禿げ性格悪いなー!
「悪いのは顔だけにしなよ。どうせ言っても分からないよ?」
「だってよ。魔導士先生! あと、誰の顔が悪いってかこのやろう」
頭を鷲掴みにしようとしてきたゲハールの手をさっと避ける。
そして、案の定吼え始めるマリオン氏。
「何だとーっ!? ボクは最年少で宮廷魔導士になった天才だぞ! 分からないことなどあるものか!」
分からないと言われて、プライドを刺激されたんだと思う。わたしも煽るつもりは無いんだよ? 本当に。
でも実際、ビーム兵器の仕組みを彼女が理解できるまでここで語るつもりは無い。あと、OSGの世界の世界で解明されてる魔法や魔力についての知識もだ。
だって、魔法の真理を見つける醍醐味をわたしが奪ったら悪いもん。
例え話したとしても、今のこの世界の文明では証明も出来ないしね。
「今のはフェイザーチャクラムといって、低温荷電粒子の光輪を飛ばす位相系魔法だよ」
OSGだと魔法は位相系、次元系(時間、空間)、相転移系(物質)のみっつに区分される。
攻撃魔法に使われるのは主に位相系か相転移系で、ビームか実弾かくらいに考えてくれていい。
「な、何!? フェイザー? テイオンカデンリュウシ? イソウケイ? 帝国の魔法でも、エルフの魔法でもない……知らない! わからない! くそぅ! 天才のボクが知らない魔法があるなんて……しかし、これは大発見だ。魔力を発生させない未知の魔法体系……実に、実に興味深い!」
どうやらヤバいスイッチが入ってしまったらしい。血走った眼でわたしをロックオンするマリオン氏。
怖っ!?
「貴様! グリフォンと共にボクと帝国へ来い! 宮廷魔導士としてボクの助手になるんだ! これは決定事項だ!」
「お断りかな」
いい加減唾を飛ばされるのも嫌になったので、オーラエールで空中へと避難する。
「待て! 逃がさないぞ!」
マリオン氏が杖に跨って追いかけてきた。
そういえばこの人、飛行魔法が使えるんだったね。
丁度いいから見せてもらおうか。この世界の飛行魔法の性能とやらを!
上昇する。高度はざっと一〇〇メートル。そこから森周辺を旋回するように飛ぶ。
意外としっかり着いてくる。速度も結構速い。でも、人間の、それも見るからにひ弱そうなマリオン氏が耐えられる程度の加速だ。不意に魔物に襲われたら避けられないだろう。
重力も揚力もまるで考えていない。ジェット風船のようなぶっ飛び魔法だ。こんなの長く持つわけが無い。
予想通り、マリオン氏は一分も経たずに魔力切れを起こした。落下していく彼女のローブの首根っこを掴んで空中で回収する。
「ぐえっ!? 貴様! もっと優しく受け止めんか!」
「落とすよ?」
「ぐぬぬ……しかし、その飛行魔法はどうなっている? なんでそんなに長く、安定して飛べるんだ? 実に、実に興味深い」
魔力切れで頭がふらふらの筈だ。しかも情けなくぶら下げられた状況。それでも相変わらずの態度である。
「魔法じゃなくて気功だよ。身体の内から発生する気使ってるんだ」
「気だと? 知らない……そんなの知らないぞ?」
「あれ? ゲハール達も身体強化に使ってるよね?」
「あれは体内魔力を使った強化魔法だろう? 属性を持たない人間でも体内に宿る魔力を使うことが出来る。相当な修練が必要だがな」
「あー、そういう解釈してるんだ」
はっきり言って間違いだ。どうやら、この世界では気が魔力と混同されているらしい。摩訶不思議な力を全て魔法と考える。ファンタジーあるあるである。
「魔法だけが世界の神秘じゃないよ」
「ふむ。嘘を言ってるわけではなさそうだな。実に興味深い。だが、貴様はそれを証明できるのか?」
「とりあえず、一〇〇〇年くらい魔法を捨ててみたら良いんじゃないかな?」
魔法の観測には科学の発展が欠かせない。しかし、魔法があったら科学が発展しない。魔法がある世界では、小さな発明発見が評価されず見過ごされてしまうからだ。
わたしは高さ一〇メートルくらいで、掴んでいるローブを手放した。
「馬鹿な事を!? 何? おわぁぁぁぁぁ!?」
落っこちていくマリオン氏だけど、ちゃんと下でゲハールがキャッチしてたよ。
これで重力の存在に気付けば、飛行魔法の性能が上がるんじゃないかな?
✤✤✤
さて、またまたここで問題です。
五〇〇〇年以上の歴史を持つ魔法がある世界と、二〇〇〇年そこらの歴史で、魔法が無い世界が戦争したらどうなったと思う?
マリオン氏なら「魔法の無い世界に勝ち目があるわけない。魔法の無い世界は一方的に蹂躙されたはずだ」とか言いそうだね。
文明の具合が同程度だったら、そうだったかもしれない。
結論を言うと、魔法世界は完敗した。
魔法文明は地球連邦──ここでは科学文明の世界って呼ぼう。
魔法文明が喧嘩を売った科学文明の世界は、歴史こそ浅かったけど、技術レベルが桁違いに進んでいた。
宇宙進出してたからね。
よく剣と魔法で戦争吹っ掛けたもんだって、むしろ感心するくらいだ。
魔法文明の世界の支配者達は、魔法が無い科学文明の世界の住人を劣等種族と蔑み、支配しようと転移魔法を用いて侵略を開始した。
科学文明の世界も、魔法という未知の力を持つ異世界からの攻撃に、最初こそ被害を出した。でも、すぐに逆転した。火力が桁違いだったし、何より、魔法を魔法文明の世界以上に理解できる技術力があったからだ。
開戦から半年後。科学文明が持つスーパーコンピューター、それにAIによって魔法は徹底的に解析されて、科学文明側の逆襲が始まった。
彼等が真っ先に手を付けたのが、魔法の無効化だった。
科学文明側の科学者は死んだ魔導士を解剖して、脳に寄生するカビの一種が情報思念体との交信を行っていることを突き止める。
間もなく、情報思念体との交信に使われてるのがシンクロニシティ通信の一種だと特定したことで、それを阻害する技術を完成させる。
こうして魔法が使えなくなった魔法世界の軍勢は、本当にただの原始人の集団と化したわけだ。
近代兵器の圧倒的火力の前に、魔法世界の軍勢は敗走。
魔法世界で英雄と称えられ、人々が最強と信じて疑わなかった、勇者、賢者、魔導士はただの兵士の前に散っていった。
スーパーコンピューターの圧倒的な演算能力は、異なる世界間を行き来する転移魔法を、いとも容易く乗っ取った。また、都市を守護する結界魔法も解除された。
五〇〇〇の歴史を持つ魔法文明は、わずか半年で自慢の魔法分野で追い抜かれてしまったのだ。
魔法世界にある主要都市の空を、科学世界の艦隊が覆い尽くし、主砲が一斉に地上に向けられたことで、魔法世界は降伏した。
一年もかからなかったよ。
魔法世界の敗因は、魔法を妄信した結果、科学技術や学問の発展を怠ったことだ。魔法は科学によって飛躍的に発展するのだと、戦争によって証明されたのである。
それから一〇〇年。
魔法至上主義というアイデンティティを破壊され、国家の体制が崩れた世界。
流入した科学文明の技術と文化。魔法文明の名残が融合したディストピア。
それがわたしが生きてきたOSGの世界──惑星リミューである。
読んで頂きましてありがとうございます!
マジレンジャーファンの皆さん。マジでごめんなさい。




