第15話『第一三橋頭保~仲間~』
「げっ!? あの小娘……戻って来やがったのか」
「誰?」
「帝国から派遣されてる魔導士先生さ」
帝国って何? って聞きたかったけど、馬鹿にされそうだったから聞かなかった。
話から察するに、ローブの人達は帝国とやらから派遣されている別グループで、クルーガーを捕らえるよう命令しているあのちびっ子が、そのリーダーなのだろう。
その証拠に、ちびっ子は身長よりも長いなんだか偉そうな杖を持ってるし、ローブも装飾がやや派手である。
ゲハールが自分のことを"ハンター共のリーダー"と言っていたのを思い出す。どうやらここの連中も一枚岩ってわけでは無いようだ。
「あれが、もうひとりの飛べる人?」
「そういうことだ」
ゲハールは心底嫌そうに帝国の魔導士とやらに近づいていく。
「タリアン卿! いったい今までどこに行っていた?」
卿と敬称を着けて呼んでいる。どうやらあのちびっ子は貴族らしい。
「ゲハール! 何故このグリフォンを捕らえんのだ!? トロールを一掃した美しい魔法は実に興味深い! よもやグリフォンにあんな力があったとはな! 研究の為にも絶対に帝国に連れ帰るべきだ! そうだ! 皇帝陛下に献上しよう! 帝城で世話してもらえればボクは研究に集中できるし、報酬で研究予算も増やしてもらえれば良いことづくめではないか!」
ゲハールの問いかけに応えずに、興奮した様子でまくし立てるちびっ子。
何なのこの子?
自分が生かされている側だって分かってるのかな?
あと、トロールを一掃した魔法を撃ったのはわたしだ。
「卿っ!」
「ひっ!?」
ゲハールが大声を出したことでちびっ子が悲鳴を上げる。
ゲハールとちびっ子は、五〇センチくらい身長差がある。遥か上からあの禿げ頭に凄まれたら、そりゃ怖い。
「な、なんだ!? 獲物を横取りするなと言いたいのか!? 駄目だぞ? あのグリフォンは、魔法の研究に欠かせない貴重なサンプルだ! 絶対に帝国に連れて行く! これは決定事項だ!」
「そういう話をしているんじゃねぇ!」
「じゃあなんだ!? 帝国に連れて行けば多額の報酬が出るだろう。爵位だって夢ではないぞ?」
クルーガーを捕まえようって言ってるのはちびっ子だけだ。ローブを着た他の帝国の人達は彼女の部下なのだろう。ちびっ子の無茶ぶりにおろおろしている。
もちろん、ゲハールもハンター達も従う様子はない。
「タリアン卿。グリフォンの機嫌を損ねる意味を分かってるのか!? 俺達は今日、このグリフォンによって救われた。そして今この瞬間も、ここにいてくれてる事で、魔物の襲来から護ってくれている。俺達なんて、いつでも皆殺しに出来るのにだ!」
「し、しかしだな……ほら、こんなにも大人しいではないか!? 案外、人間と友誼を結びたいのかもしれないだろう?」
大人しく箱座りしながら様子を見ているクルーガー。
眠いのか目をとろんとさせている。可愛い。
クルーガーがここで彼等を護っているのは単に優しいからだ。
クルーガーは、わたしがこの世界にたったひとりで転生してきたことを知っている。
孤独なわたしが同族である人間の中で上手くやっていけるように、気を使ってくれてるんだよ。自分だって群れから追放されて孤独なくせにさ。
因みに、わたしはゲハールとちびっ子とのやり取りを黙って聞いている。
帝国の人達は皆クルーガーに意識が向いていて、部外者のわたしがいることに気付いて無いみたいだし。
それに、ちびっ子は、わたしの苦手なタイプなんだよね。
ゲハールがいい具合に諫められるならそれでよし。
出来なければ実力行使だ。
調理器具を貰ったから、見捨てるのは勘弁してあげよう。
「グリフォンに手を出したいなら勝手にしろ。だが、俺達ハンターは一切手を貸さんからな! すぐにこの場を撤収する!」
「ぐぐぐ……だがな……」
ちびっ子はどうしても諦めきれない様子。
連れのローブの人達に視線を送るが、彼等もハンター達に囲まれて動けない。
積極的に助けようとしないところから、ローブの人達もクルーガーに手を出すべきでは無いという考えなのだろう。
富や名声も命あってだしね。
「もう一度聞くぞ? 卿は今までどこに行っていた?」
「それは……退路を開こうと思ったのだ。もう、この橋頭保は駄目だろう?」
「自分達だけ逃げようとしたのではないと?」
「失敬な。いくら天才の僕がいるからといって、我々だけで森を抜けるのが不可能なのくらい分かっている。君達がトロールを抑えている間に、エイリーン達と一緒に川に抜けるまでの魔物を片付けていたのだ」
トロールの襲撃を受けてる間、ゲハールの指揮下に無い彼女達帝国組は、独自の判断で行動していたようだ。
詳しい事情は知らないけど、例え逃げたとしても、ちびっ子はゲハールに責められるいわれは無いと思う。
トロールに襲われる理由を作ったのはハンターなのだから。
「本当か?」
「本当だ! 宮廷魔導士の称号と家名に誓っても良い! ほら、拾い物だ」
ちびっ子が、懐から出した小さなプレートをゲハールに投げ渡すと、ゲハールの顔が変わった。
「これはミゼラの……感謝する。そして無礼な物言い、深く謝罪する。すまなかった」
「ふん! わかればいいのだ!」
片膝を付いて頭を下げるゲハールに、尊大な態度を取り戻すちびっ子。
「森でデスマンティスがなんか食ってると思ったらミゼラだった。まったく、思い出すと吐き気がする。貴重な才能を無駄に散らせて、これだからハンターは……」
受け取ったのは、騒動の最中に死んだ仲間の形見だろう。わたしが首から下げてるクランタグと同じような。
「デスマンティスはボクの魔法で灰にしてやったが、それしか持って帰れなかった。許せ」
「ああ……十分だ」
態度は尊大だけど、死者への敬意を弁えている。ちびっ子もそんなに悪い子じゃないのかもしれない。
だからって、クルーガーは渡さないけどね。
「ゲハール!」
そこへ、ひとりの女性が駆け寄ってくる。背の高い、活動的な雰囲気の妙齢の美女だ。
「エイリーン! 無事だったか」
「ええ。トロールが逃げて行くのが見えたから戻って来たの」
彼女は動きやすい格好をしていたが、ハンターには見えない。
そう思った理由は、彼女の腰にあるショートソードのせいだ。
ハンター達が腰に差している剣は、森の木々を払ったり、魔物相手にするのに適した、鉈のような形をしている。しかし、彼女のショートソードは普通の対人用。それが妙に違和感を感じさせたのだ。
「エイリーン聞いてくれ! この禿げはボクたちが勝手に逃げたんじゃないかって疑ったのだ!」
「ゲハール。疑うのは仕方ないけれど、それは勘違いよ」
「ああ。悪かったよ。こうしてミゼラのハンタータグを持って帰って来てくれたしな」
「……彼女のことは残念だったわ」
しばし沈黙。
死んだミゼラというハンターの死を、この場の誰もが悼んでいるのだ。
ゲハールやハンター達は平民で、ちびっ子は貴族で帝国からの派遣魔導士。エイリーンって人も、また別の組織から来ているようだ。
彼等は一枚岩ではない。
国も立場も違う。
それでも、ちゃんと仲間だったんだ。
心の奥から暗く、冷たい感情が押し寄せて来る。
それは、今日まで必死に忘れようとしていた、寂しいという気持ち。失った故郷と仲間の記憶だ。
わたしは、気付かないうちに胸元のクランタグを握っていた。
「ところでゲハール! これはどんな状況なの? あれ、グリフォンよね? 真っ白な個体なんて聞いたこと無いわ! なんて美しいのかしら」
うっとりとクルーガーを見つめる謎の女性エイリーン。
着実にファンを増やしているね。流石クルーガー。
「ああ、名はクルーガーというらしい。俺達は彼と……」
「彼女だよ。クルーガーは女の子だから」
会話に割って入るわたし。
これは大事な事だからちゃんと訂正しないとね。
ちびっ子とエイリーンが驚いたようにこちらを見る。
「雌って事? なんで男の名前を……それにあなたは?」
男の名前が付けられたのかは、名付け親のツクネ様に聞いて欲しい。
「ああ、紹介しよう。俺達はクルーガーと、この自称踊り子に助けられた」
自称言うな!
「こう見えて、凄腕の魔導士だ。卿は勘違いしてるようだが、トロールを一掃した魔法を撃ったのはこの嬢ちゃんだ。クルーガーは嬢ちゃんの連れらしい」
魔導士じゃなくて踊り子だから!
「どうも、わたしはミュラ・ツキガセ。通りすがりの踊り子です」
表面上はにこやかに。でも内心では、こめかみに血管を浮かべながら礼をする。
「ほう? それは興味深い!」
出た!? 「興味深い」!
わたしは好奇心や欲求が抑えきれず、ぐいぐいくる博士キャラが苦手である。
理由は、OSGの世界にもいたからだ。「興味深い」が口癖のマッドサイエンティストが!
最後は研究の末に完成した秘密兵器で大逆転っていう、ド定番な流れの為に、プレイヤーキャラは散々モルモットにされて、無理難題なミッションを受けさせられた。
目の前のちびっ子からは、彼のマッドサイエンティストと同じような匂いがする。
正直付き合いたい人種ではないんだけど……
あらためてちびっ子を見る。
癖のあるブラウンの髪、上等だが汚れて痛んだローブ。ぼろぼろの姿は痛ましいけど、この手のキャラは身なりを気にしないので、割といつもこんな感じである。
胸元のラインは平たんで、背もわたしより一〇センチくらい低い。
ぱっと見では子供みたいだけど、それでもたぶん幾つか年上だ。
そう思ったのは、でっかい隈を作った目元のせいだ。顔色は悪く、やつれた顔をしているせいで老婆のようにも見える。そのくせ、目力は強くてちょっと怖い。
「ボクは帝国魔導士団から派遣されているマリオン・フォン・タリアン。君と同じく魔法に愛されし者。水、地、火、風の祝福を受けし四属性マスターさ!」
マスターさ!(キリッ!)じゃねーよ!
祝福? 属性? 何この人? 中二キャラ?
あと、わたしは魔法に愛されてなんかいない。
だって、わたし、本当は魔法なんて使えないからね。
読んで頂きましてありがとうございます。




