表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

第14話『第一三橋頭保~負傷者~』

「俺達はここを捨てて、南へ三〇キロのところにある別の拠点へ向かう。それでなんだが、重傷者だけでもグリフォン……クルーガーで運んでもらえないだろうか?」


 片道三〇キロ。平地なら一日で踏破できる距離だけど、森を進むなら数日かかるだろう。


「何人くらい?」

「四、五人ってところだ」

「それだけでよく済んだね?」


 ハンター達はかなりやられていたはずだ。予想外に少ない負傷者の数に、わたしは思わず聞き返す。


「トロールの攻撃を受けて死なねぇような運の良い奴、そうはいねぇよ。これでも多い方だろう」

「……そっか。そうだね」


 トロールの攻撃を受けたら、人間なんてひとたまりも無い。


 負傷者が五人で済んだんじゃない。負傷で済んだのが五人だったのだ。


「わかった。乗り掛かった舟だし協力するよ。急ぐ?」


 三〇キロくらい、わたしやクルーガーなら、一時間もかからず往復できる距離だ。クルーガーは三人くらい乗せて飛べるし、わたしもひとりなら背負って飛べる。


 安全を考えるなら、クルーガーに介助者とひとり。それにわたしで運んで二往復かな。


 まあ、もっと楽な方法があるんだけどさ。その方法を彼等に聞かせる気は無いから、クルーガーで運ぶ体で話を進める。


「いや、今はまだ手当を受けてるところだ。これから医務室で様子を見て判断したい」

「わかった。でも、怪我人や病人が出たら、今まではどうしてたの?」

「一応、医者はいるからな。基本はここで治療する。狩りの途中で怪我したら、誰かが背負うか、魔導士に飛行魔法で運んでもらっていた。その魔導士もさっき死んじまったがな」


 あるのか飛行魔法! 


 でもそれなら、森の開拓ももう少し進んでいてもいいような気がする。


 飛行魔法を使える魔導士が貴重なのか、飛行魔法の性能が低いのか?


「飛行魔法を使える魔導士ってどれくらいいるの?」

「魔法の才能がある奴は大抵は国に使えるからな。ハンターになるような奴はほとんどいない。その中で飛行魔法の使い手となると、ひとつの拠点にひとり居れば良い方だ。ここにはふたり居たんだが、ひとりは死んで、もうひとりは知らん」


 あー、逃げたんか……


「まあ、飛行魔法は魔力の消費が激しいから、飛べるのはせいぜい数キロだ。帰るに帰れず、今頃森の中で泣いてるんじゃないか?」


 どうやらこの世界の飛行魔法の性能はかなり低いらしい。まあ、魔法と呼んでる時点で予想してたけど。


 人間サイズで飛ぶなら、魔法より気功の方が断然効率が良い。


「医務室に行くなら、わたしも行っていい?」


 医務室に行くゲハールに同行を申し出る。


「女の子が見て気分の良いもんじゃない。ここで待っててもいいんだぞ?」


 医務室の状況は想像できる。きっと血と汚物にまみれた鉄火場だ。それでゲハールは気を使ったのだろう。


「大丈夫。これでも戦場は何度も経験してるから」

「お前、本当に踊り子か?」

「踊り子だってば」

「まあいいか。運ぶのは嬢ちゃんだし。ただ、邪魔はするなよ?」

「はぁい」


 ゲハールは、わたしが患者の容態を見ておきたいのかと思ってるみたいだけど、わたしが見たいのはこの世界の医療技術だ。


 今のわたしは回復魔法が使えない。いざという時、この世界の医者を頼れるか確認しておきたかったのだ。


 回復スキルで見ればオーラエイドがあるけど、気功での回復は自然治癒が早まるだけだから、大きな怪我をした場合は外科的な処置が必要になる。


 回復魔法や回復薬みたいに、ピコーンと光って治療完了とはいかないのである。


 洞穴の奥へと進む。ろうそくの火に照らされた先の空洞。そこが医務室らしい。


「今いいか?」

「ああ、ゲハールか」


 四〇代くらいの短髪の男が顔を出す。


「その子は、グリフォンの子か」


 男の目がこちらを向いたので、ぺこりと会釈する。


「こいつはライオネル。ここで医者をしている」

「ライオネルだ」

「ミュラです」


 この世界でも、お医者さんは白衣を着る習慣があるみたいで、ライオネル氏は白衣姿だった。もっとも、その白衣は、血で真っ赤になっていたけれど。


 たぶん、白衣を着ていなければ、医師とは思わなかった。日に焼けて、がっちりした身体付きは、メスよりメイスが似合いそうである。


「嬢ちゃんのグリフォンで重傷者を運んでもらえるよう話が付いた。様子は?」

「ジムは駄目だった。ザックは今夜が峠だな。最善は尽くすが……ジェスとカールは骨折してるが命に別状は無い」

「……そうか」


 医務室の中は、血とアルコール、そして死の匂いが満ちていた。


 死んだ仲間の病床に立ち、瞑目するゲハール。


 治療を手伝っていたハンター達も、その場に座り込んでうなだれている。


 六台あるベッドの内、使われているのは五台。


 ひとりは死亡。


 ひとりはかなりの重傷で、包帯でぐるぐる巻きにされ、右腕の肘から先が無くなっていた。


 命に別状がないと言われたふたりも、折れた手足を当て木で固定している。


「ルシーナは?」


 ゲハールが奥のベッドで眠っている少女を見て言った。電撃の魔法で戦っていた獣人の子だ。


「幸い、身体はかすり傷程度だ。だが、精神的にはかなりまいってる。一度目を覚ました時に暴れたから、今は薬で眠らせているよ」

「そうか……まぁ、無理もねぇ。それで搬送はできそうか?」

「ザックは無理だ。ルシーナもせめて今夜一晩は落ち着かせたい」

「わかった。聞いての通りだ。運ぶのは明日の朝になるがいいか?」

「うん」


 知りたかった、医療技術については大体わかった。


 傷や骨折を直せるレベルの回復魔法や回復薬は使われていない。だけど、消毒や衛生の概念はあるみたいだし、縫合の技術もある。簡単な手術なら出来るんじゃないかな? OSGの世界と比べれば未発達だけど、まったくあてにならないという程ではなさそうだ。


 一応、回復魔法と回復薬が無いのかは聞いてみた。


「回復魔法って無いの?」

「あ? 聖女様をこんな場所に呼べるわけ無いだろ」


 創造主を敬わないのに、聖女様はいるんかこの世界。


「回復薬は?」

「あ? エルフの霊薬のことか? そんなもん、大国が買い占めて一般には出回らねぇよ」


 いるのかエルフ。まあ、獣人がいるならいてもおかしくない。


 とりあえず、回復魔法も回復薬も、あるにはあるけど庶民には縁が無いものだってのはわかった。


 医務室を出ると厨房に向かった。


 貰うもん貰う為である。


 厨房にあるかまども調理台も、ハンター達による手作りのようで、原始人よりちょっとましな設備といったところ。


 でも、包丁もあるし、鍋もある。すり鉢にすりこぎもある!


 これで湖沼や山椒の実を粉に出来るよ!


「貰っていいの? 無くて困ったりしない?」

「ああ、ここにあるのは朝までに全部燃やしちまうつもりだ。人間の匂いを残したくないからな」

「ふぅん。食料は大丈夫?」

「携帯食が三日分もあればいい。今日の夜は……食欲のある奴なんかいないだろうよ」


 今夜は荒くれ者達の晩餐が始まるのではと、密かに期待していたんだけど、そりゃそうだ。


 彼等は拠点を捨てて逃げ帰る敗者なのだ。 


 荼毘の炎の前で乾杯もバーベキューも無いだろう。


「そっか。じゃあありがたく貰ってくよ」

「ああ」


 鍋も包丁も腕の良い職人が作ったとわかる結構良い物だ。わたしはそれらを、一番大きな鍋に片っ端から入れていく。


 マイルームの台所にはコンロが無いから、煮炊きをするかまども欲しい。一杯になった鍋をかまどに置いて、まとめて倉庫に放り込んだ。


「なぁに?」


 ゲハールが口をДにしてこっちを見ていた。


「風呂敷魔法が使えるのか!? お前さん本当に踊り子か?」

「踊り子だってば。故郷じゃみんな使ってたけど、こっちでは、物を収納する魔法も珍しいの?」


 OSGの世界では一般的だった倉庫魔法。


 今のわたしが使ってる倉庫は管理者の力で、魔法ではないんだけどね。


「手ぶらだったからおかしいと思ったら、まったくとんでもないな。しかもスクロールも無しで」

「スクロール?」

「それも知らんのか……はぁ……」


 可愛く小首をかしげるわたしにゲハールはクソデカため息。


 いや、スクロールは知ってるよ! 予め紙に魔法の発動に必要な呪文や魔法陣を書き記した、アナログの魔法発動媒体だよね? 魔法史と、魔法プログラミングの授業で習ったよ!


 OSGの魔法も実はスクロール式である。違うのは紙媒体か電子かだ。


「風呂敷魔法ってのは本来、スクロールの上に置いた物を収納するもんなんだが……」


 ああ、なるほど。それで風呂敷魔法か。


 一応収納魔法も実用化されてるなんて、やるなこの世界の魔法使い。


「その収納用のスクロールって高かったりするの?」

「ああ。スクロールは秘伝だし、風呂敷魔法みたいなのは悪用されやすから、所持には許可がいる」

「厳しいんだね」

「ったく……他人事みたいに。盗人や密売人の手に渡ったら大事だろうが」


 よく考えればわたし、この世界で盗みし放題だ。


 OSGの世界では端末のAIが収納できるものを選別して制限かけてたけど、ツクネ様お手製のARデバイサーにはそういった機能は無いっぽい。


 これからは人前で倉庫を使うのは控えよう。手ぶらだと怪しまれるから、カモフラージュ用に鞄を用意しないとね。


「何かいらない鞄ない?」

「お前マイペース過ぎだろう……なんか殴りたくなってきたぞ」


 ゲハールが拳をちらつかせたその時だ。


 クォン!


 この声。クルーガー?


「ごめん。外で何かあったみたいだから行ってくる」

「俺も行こう」


 わたし達が外に出るとちょっとした騒ぎが起こっていた。


「早く縄を打ってこのグリフォンを捕らえよ! ボクの言うことが聞けんのか!」


 クルーガーの前で何やらキャンキャン吠えてるちびっ子がいる。


 身長一五〇センチも無い、ローブ姿の小柄な女の子だ。


 同じようなローブを身に着けた男性にクルーガーを捕らえろとか言ってるけど、言うことを聞かない事で癇癪を起しているようだ。


 え? 止めないよ? それってあのちびっ子を助けろって事だよね?


 クゥン……


 あ、クルーガーが困った顔してる。


 あんなの食べちゃえばいいのに。


 優しいね。クルーガーは。

読んで頂きましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ