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第92話 このコンビニは笑いの絶えない職場です

「別に、先輩に相談することなんてないすよ」

「よしわかった。じゃあこうしよう。俺がしばらくお前の犬になる」

「なんでそうなるんすか……」

「クロコの代打だ。あいつが戻ってくるまで俺はお前の犬になる。飼われる」

「こんな駄犬飼いたくないんすけど……でも、じゃあ試しに……」


 歩み寄ってきたレヴィがおもむろに手を差し出してきた。


「お手」

「ワン!」


 秒で手を乗せてやると、レヴィが小さく笑って次の指示を出す。


「おかわり」

「ワワン!」

「くふふふふっ! 滑稽っすね、アタシの上司が従順な犬になってるー♪ 惨めー」


 コイツ……舐めた真似を……!

 軽くウェーブのかかったサイドテールの金髪ギャル悪魔。そんなやつが俺を小馬鹿にしているんだ。元気になってくれるのは嬉しいが、ちょっとむっとした。


「じゃあ次は、チンチン」


 チンチンだと……!? 何を言ってるんだレヴィ――いや落ち着け俺。これは犬の芸。二本足で立ち上がって、へっへっへっと舌を出し、犬っぽい仕草をアピールすればいいだけだ。


「ほらほら、どうしたんすか? チンチンっすよ、チンチン」


 くそっ、そんな挑発するようにニヤニヤしやがって……それならこっちだって考えがあるぞ。

 俺は立ち上がり、両手で股間とついでに胸を隠した。きゅっと喉を絞って声を出す。


「きゃ! レヴィのエッチ! チンチンって俺の股間が目当てだったんだわ!」

「ちょっと! 変な誤解しないでください! 誰が先輩の股間なんて……っていうかその声、マジでキモいんでやめてください」


 秘技・裏声。これでレヴィから主導権を奪った。ここからは俺のターンだ。よし、どうせめてやろうかな。

 そんなことを思っていると、ソファーで陽菜美がゴミを見るような目を俺に向けていた。


「マジないわー、私、お兄の妹やめる」

「いや、そりゃねぇだろ! チンチンって向こうからセクハラしてきたんだからな!」

「こんな時間になにをしてるんですか? ちゃんと閉店作業は終わったんでしょうね」


 わーわーと言い合っていると、ドアを開いてユリさんがやってきた。その手には、犬とか猫が入っていそうなキャリーケースが握られている。


「それってもしかして……クロコっすか……?」

「ええ、オーディン様からの褒美です。手術で淫力を抜き取って犬の姿にすれば害はないということで、あなたに返還することに決まりました」

「え? マジっすか?」

「マジです」


 ユリさんがレヴィに頷いた瞬間、


「やっ、やったクロコが戻ってきた……! ということでこの駄犬――じゃなくて先輩犬はもういらないっす!」


 そう言ってキャリーケースに飛びつくと、その中からクロコを出して優しく抱きしめた。


「切り替え早いなぁ……まぁお前らがまた一緒にいられるなら俺も嬉しいけどさ」


 今の俺は気分がいい。もうこの際、駄犬呼びは水に流してやろう。つーかやっぱり仲いいな。クロコの奴、レヴィにじゃれてるぞ。


「くぅーん、くぅーんっ」

「あっ、あはははっ、くすぐったいっすよクロコ。こぉらぁ……激しいって」


 ぺろぺろと頬を舐められてご満悦なレヴィ。よかった。本当によかった。

 だがそんな朗報とは裏腹に、俺と陽菜美は問題を抱えていた。


「これで一安心だが……ユリさん、売り上げを集計してみたんだけど、普通に赤字だった」

「問題ありませんよ。淫魔との戦闘という不測の事態がありましたから。それに勇夜さんの活躍で淫魔を無力化できたわけですし、今回は見送る方針に決まりました」

「コンビニ経営再開? 俺の活躍で?」

「はい。そうなります」

「よぉしゃ! やったぞ、陽菜美!」

「やるじゃんお兄! 私、やっぱりお兄の妹でよかったよ!」 


 ソファーから飛びついてきた陽菜美を受け止め、俺は――いや、俺たちは弾けるような笑顔を作った。

 クロコが戻ってレヴィは笑顔を取り戻した。そして俺と陽菜美も神様たちに捨てられずに済んだ。もう言うことなしじゃないか。最高だ。

 コンビニの閉店間際、活気に満ちたスタッフルームは俺たちの笑顔で満たされたのだった。



第一部完結





 お読みいただきありがとうございました!

 どうだったでしょうか? 今までで一番うまく書けた異世界モノなのできっと楽しんでもらえたと思います。よければ気軽にコメントを書いてくれると嬉しいです。


 これからも面白い作品を書いていくので、矢島やじをよろしくお願いします。

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