第89話 神界の主神室にて
シグメとの戦闘から四日が過ぎた頃、諸々の事後処理も終わり、私――ユリはすっかり平穏を取り戻した日々を送っていました。
淫魔との戦闘は前回の、第一神界域を失った戦いに比べると非常に少ない損害で済んだんです。これは、ユキメの身体がすでに消滅していたこと、それに勇夜さんが妙なアイテムを使っていたことや、悪魔たちの力を借りたことで得られた結果でした。
思っていたよりも上手くいきました。誰も犠牲が出なかったのは嬉しい誤算です。淫魔の配下になっていた常夜の性域とかいう人たちは、悪魔たちの敵のようでしたが、神側は不干渉の立場なので解放し、狂気エネルギーで狂ったように盛っていたプローディオの市民たちもシグメを無力化したことで元通り。すべては上手くいっています。
完璧でした。いえ、完璧なのは事後処理だけで、シグメ――クロコの安否や、本来の目的である勇夜さんたちが神々の見世物になる企画進行は止まったままです。
今日はその件で、戦乙女の最高責任者であるオーディン様に呼び出されました。
淫魔の無力化には成功しましたが、企画そのものは失敗です。緊急事態でそれどころではなかったんですから……だったら、どう処分されるか心配ですね。異世界でコンビニ経営をしている姿を見世物にする企画なのにコンビニの外であんなことまで……趣旨が違いすぎます。一体どうなることやら……不安で仕方ないですね。
ですが私が主神室に入ると、皺が深い顔にさらに皺を溜め、オーディン様が笑顔を向けてきました。
「いや~、よくやった。ユリ」
開口一番、オーディン様はご機嫌でした。白髪のオールバックでその上黒い眼帯をしたワイルドな老人が笑うとちょっと怖いですが、それよりも困惑の方が強いです。いまいち状況が飲み込めないまま、私は小さく首をひねりました。
「よくやった、とは……?」
「見世物企画は大成功だ。当初の目的は異世界で勇夜を働かせ、彼を見守って楽しむものだったが、途中でコンビニ店長とその仲間たちが淫魔と戦うものへとシフトした。企画の方向性が変わっても、本来の目的である『見世物として楽しむ』が満たされていれば成功ってことだな」
「は、はぁ……」
あまりの展開に微妙な表情を浮かべた私に、これを見てくれ、とオーディン様は投影ウインドウを開き、くるりと反転させて私に向けました。
そこには、映像が流れています。一人称視点で、撮影している人物の動きに合わせて、揺れ、跳ねたりしています。その映像は武器庫から始まり、次に空間門管理室での戦闘で揺れが大きくなります。骸骨鼠が床を這い、私とレヴィさんが前に出て制御室に向かうと、この視点の主が私たちの援護をしていました。
「勇夜さんの視点映像ですね。眼帯をはずしていたから、ちゃっかり覗いてたんですか……」
「ああ、そうとも。淫魔どもが倒される姿は爽快だからな。みんな盛り上がっていたぞ」
(次回に続く)




