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第86話 最狂最幸の姉妹

「バカだよ……犬の身体でも、いつか私みたいに復活できるかもしれないのに、消えちゃったら、いなくなっちゃったら、どれだけ淫力を集めれば……」

『最後まで諦めたくなかった。それに約束したから、シグメを元の姿に戻すって』

「うん。戻ったよ、淫魔に。だから次はユキメの番。淫力を集めて、ユキメの身体を元に戻す。そしたらまた二人で、ずっといられるよ」


 不味い流れだ。盲目にユキメを追いかけていたクロコに強い心が宿ろうとしている。


 これじゃまた、淫力フィールドに向かうぞ、こいつ……!


 だがそんな俺の焦りとは裏腹に、ユキメは落ち着いた調子で言葉を返す。


『それは無理。だって――』

「無理じゃない! 淫力は常識を超えた力、奇跡だって起こせるからっ、ユキメの身体だってもとに戻せるもん……!」


 子供のようにぐずるクロコ。その泣きそうな顔に諦観交じりの声音が、


『私、気づいたんだ。私たちの幸福は、大勢の人の不幸でできてるって』


 響いた。え……、と目を丸くするクロコに。


『人種も性別も関係なくエッチなことをしないと気が狂ったり、そのあと強制的に幸福な気分にさせて、それで疲れたら休ませて、また発情。こんなの拷問に等しい行為だと思う……』

「気持ちよければいいじゃん……みんな嬉しそうにヤってるよ……?」

『それはあなたが淫魔だからそう見えてるだけ。おかしいと思わない? 誰彼かまわずどこでもエッチなんて狂ってるって』

「なんでそういうこと言うの? わからない……わからないわからない……」


 拒絶するようにクロコは小さく首を振った。わかりたくない。知りたくもない。まるでそう言ってるように首を横に振り続ける。


「だってそれは、私たち淫魔の存在を否定してる言葉だから……生きてちゃいけないって否定してるから……わかっちゃダメなんだよ」

『人の性を貪らないと生きていけない性の寄生虫。私はもう、そんな者には戻りたくない』

「ウソ……ユキメはそんなこと言わない、言わないもん……! 嫌いっ、そんなこと言うユキメなんて嫌い嫌い、だっき嫌い……!」

『私は大好き。淫魔でも犬の姿でも、どんなシグメも変わらず好きなままだから……』


 その時、赤いオーラを纏っていたクリスタルの地面で淫力フィールドが弾け、光の雪を辺り一面にまき散らした。

 その光の粒が身体に降ってくると、俺は思わず笑みをこぼした。


 温かい光だ……触れるだけで優しい気持ちになれるっていうか、気分がいいっていうか、とにかく心地いい光だ。


 レヴィも、わぁ……すごい、と感動しながら俺たちの方に歩み寄ってくる。

 俺たちが身を寄せ合ってこの現象に心を奪われていると、その光がクロコに集まっていく。そんな優しい光よりもさらに優しいユキメの声音がヘッドセットに響いてきた。



(次回に続く)6

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