第85話 心に響く言葉
策はある。ただこれは他人任せで、絶対成功する確証もないことだ。
「どいてご主人っ! 早く淫力フィールドに戻らないと……!」
だがやるしかない。これしかない。
「行かせるかよ!」
強引に迫りくるクロコに俺はタックルした。狂気の力を警戒し、首を左右に振ってヘッドバンドの効果を発動――
バンッ!
額でヘッドバンドが弾ける。濃密な淫力で過負荷になったのか、破壊された。
だが俺は構わず小柄な身体をねじ伏せる。押し出すと、装甲服のパワーで床に縫い付けた。
視界の端でエネルギーシールドのメーターがみるみる減って、今度は耳に警告音がピーピーと鳴り響いた。邪魔だ。今はこんな雑音は必要ない。反射的に腕の端末を叩いてシールドの警告音を切った。
狂気のエネルギーに浸食され、シールドも過負荷になって消えそうになっても、俺はクロコに馬乗りになりながら片方のヘッドセットを外し、クロコの耳にそれを宛がった。
「さぁ言ってやれ! クロコが望む言葉で、こいつを幸福にしろ!」
俺たちの言葉が届かなくてももっと近しい者――ユキメの言葉なら届くはずだ。
この二匹の犬耳少女はそれだけ長い時間を一生に過ごしてきたんだから。
一拍置いて、ユキメの静かな声が聞こえてきた。
『シグメ、もうやめて。そんなことしても私、全然嬉しくない』
「どこ……ユキメ。声だけ聞こえる……どこにいるの、ユキメ……」
クロコの動きがぴたりと止まった。
『ずっと見守ってた。シグメを冷凍ポッドに入れてからずっと。ずっとずっと見てきた。犬の姿になっても、その犬の身体すら維持できなくなって、この施設の一部になってもずっと』
「維持できないって、淫力が枯渇するまでどうして……」
すでに俺のシールドは過負荷になって切れていた。だが狂気のエネルギーに汚染された感じはない。どうやらユキメの言葉は効果的だったようだ。
もうクロコと争うのはナシで頼むぞ、という願いを込めて俺は見守った。レヴィも同じ考えなのか、無言でじっと見つめているようだ。
(次回に続く)5




