第84話 魔力よりも優れた力
「これでお前を捕まえられるぜ! もう離さねぇぞクロコッ!」
俺は正面から抱き着き、身体を捻ってクロコを淫力フィールドから出すと、勢い余って倒れ、クロコと一緒に数メートルも転がってようやく止まった。
「今だレヴィ!」
「うわっ!? なんかいきなり先輩が移動した! しかもクロコと一緒に……!?」
ヘッドバンドの効果が切れたところでレヴィが驚きの声を上げた。
そりゃお前から見たら瞬間移動したような状況だけど、今は驚いてる場合じゃないだろ!
俺はクロコを押さえ込みながら叫ぶ。
「いいから早くしろ!」
「は、はい!」
慌ててそう言うと、レヴィがシリンダーを握って走り寄る。何かヤバいことをされるのだと察知したのだろう。クロコは「嫌ッ、放してっ!」と俺の腕の中でもがいている。だが装甲服のパワーがあればがっちりと押さえつけることは難しくない。
プスッ。
ついに針が刺さった。首筋に。これで幸福のエネルギーがクロコの身体に注がれたはず。
「あ、この頭がふわってする感覚……懐かしい。ユキメの能力だぁ」
とろんとした声。ぴたりと動きを止めるクロコ。麻酔のように頭がふわふわしているようだ。
「ユキメが言ってたぞ。お前を助けてほしいって」
「そうっすよ。もうやめて。こんなことをしても誰も幸せになんてならないから」
「ユキメが……ユキ、メが……」
俺たちの必死な訴えが功を奏したのか、クロコがブツブツと呟きだした。
だが大人しかったのは少しの間だけだった。
「誰も幸せにならない……違う。違うなぁ、淫力は万能の力。きっとユキメだって戻ってくれるはず。もっと淫力を集めなきゃ、集めなきゃ集めなきゃ集めなきゃ……!」
「なんだ!? こ、このオーラは……!?」
咄嗟にフォールドしていた腕を外し、俺はクロコから飛び退いた。
正面には怪しい光を纏った着物。病的に「集めなきゃ」と呟きながら起き上がり、俺たちと淫力フィールドを見据えている。その目は虚ろなのに、確かな使命感を宿していてヤバい目だ。
「おい! 話が違うぞ、シリンダーで無力化できるんじゃなかったのかよ!」
『シリンダーを打ったら終わりなんて私は言っていない。でも今のシグメは弱っているはずだから今のうちに無力化して。アナタたちならきっとできる』
「簡単に言うけどな……いや、方法ならあるか……」
ヘッドセットに響くユキメの声にそう呟くと、俺はじりじりと迫ってくるクロコに備えて腰を落とした。
武器は必要ない。言葉も必要ない。ただ、行動で示すのみ。一番近くでクロコを見てきたユキメが、きっとできる、と言った。だとしたらなんとかなるはずだ。
「先輩! どうするんすか!?」
「あの様子じゃ、もうクロコに俺たちの声は届かない」
「じゃあ、戦うしか……嫌っすよ。クロコと戦うなんて……」
「そうだな。でも別に戦わなくてもいい」
(次回に続く)4




