第82話 世界一難しい予防接種
角を曲がると、通路の最奥に分厚い金属扉が目に入った。
「見えた! あそこだ!」
「いよいよっすね、先輩。こうしてあらためて会うってなると、なんだかちょっと不安になってくるなぁ……」
「何を弱気になってるんだ、俺たちには秘策があるだろ」
「このシリンダーとかいうやつっすか? 本当にこんなので大丈夫かな……?」
「ああ大丈夫だ、俺がどうにか隙を作るからそいつを……あー、どうやって使うんだ?」
「うわっ、使い方知らないって、不安しかないんすけど!?」
『握り手の底にあるボタンを押せば針が出る。あとは身体にそれを突き刺せばOK』
「なんか握り手の方の底にあるボタン押して針が出たらぶっ刺せばいいって」
「ホントっすか!? そんなんでホントに大丈夫なんすよね!?」
装甲服の通信機をつけていないレヴィにはユキメの声は聞こえなかっただろうが、ユキメ自身がそう言ったんだ。だから大丈夫。きっと上手くいく。その自信を俺は声に乗せる。
「覚悟を決めろ、レヴィ」
通路を抜け、扉の前に立つと俺は制御パネルに手をついた。
「犬には予防接種が必要だろ? 注射みたいにそいつをぶっ刺してやれ。その隙は俺が必ず作るから」
「はい……!」
レヴィが頷いたところで扉の中央が割れ、分厚い金属が左右にスライドして開いた。
そこは広間だった。
円形の巨大な縦穴で、誘導弾格納所にも見える場所。数十メートル上から降り注ぐ照明灯の光と、その光をうっすら反射する床の金属板で周囲は明るい。だからはっきり見えた。中央にいる黒い着物の犬耳少女が――
クロコ……! なんだあれは!? 赤い、オーラのようなものが……!
怪しくねっとりした光を纏ったクロコ。そのオーラのような光は、クリスタルで形作られた円形の床と繋がっているように見える。
あれがビーム砲の収束機ってやつか……だったら、撃たれる前にさっさと何とかしないと!
俺は駆け出し、クロコから一〇メートルほどの距離で立ち止まるとショットガンを構えた。装甲服の射撃アシストが作動し、網膜に直接赤いマーカーアイコンを表示して射撃が有効なのを示してくれた。
「クロコ! そこまでだ! スケベエネルギーをチャージするんじゃない!」
「酷い名前だなぁ~、淫力って言いなよ。この世で唯一、理を無視して奇跡を起こせる力なんだから、スケベエネルギーなんておかしな呼び方はやめてよね」
「戻ってきて、クロコ! もうこんなことはやめて、ほら! アタシのところに戻ってくれば一日三食おやつまでもらえるセレブ犬生活が待ってるっすよ」
セレブ犬というよりデブ犬まっしぐら生活な気がするが、俺も追い打ちをかけるように視線を鋭くした。
「俺の言うことを聞かないとこうだぞ?」
ショットガンの銃口を突きつけたまま脅す。
(次回に続く)2




