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第78話 傍観者の信念

 今度はクリスタルでできたような……何かのポッドだろうか?

 切り替わった映像に縦に置かれた棺みたいな装置が見え、その中にポメラニアンになったクロコを入れてパネルを操作するユキメ。しゅゅゅ……という音と共にポメラニアンの身体が氷漬けになったようにクリスタルの中に閉ざされた。


『これ以上、シグメが淫力を消耗しないように凍結ポッドに閉じ込めた。私は彼女を救うために施設の中を調べ、人里を求めて森にも出た。でも淫力の補給はできなかった。人もいない、淫魔界に帰る手立てもない。その上この施設のセキュリティすら突破できない始末……これではこの星をスキャンして人間を発見することすらできない。やがて私も犬の姿になった』


 コンソールに乗る白いポメラニアンの姿がウインドウに映る。その犬は前足を使って器用に制御パネルに一連のキーを入力していた。


『私は淫力が枯渇しそうになっても諦めなかった。犬の姿で、調べ、行動し、何度も何度も足掻いて活路を見出そうとした……でも圧倒的に時間が足りなかった。そこで私はある方法に頼った』


 ホログラムのユキメが自分の控えめな胸に手を当てた。


『コンピューターの中に生きればいいと。私は最後の淫力を振り絞ってこの施設のシステムと一体となった。そして長い年月の末、セキュリティを突破してシステムを掌握した頃、常夜の性域という連中が遺跡調査という名目で施設を訪れた。彼らはコンソールをいじりって、シグメを解放すると、未知の魔獣だ、と言ってシグメを捕えようとした。もちろん私はシグメを助けようとしたけど、私にできることは隔壁を下ろすことくらいで……シグメはびっくりして外に逃げてしまった』


 ウインドウの映像には、天井から壁が下りてくるのに驚いて走り出すクロコの姿。そりゃ起きたら人間に追われ、閉じ込めるように壁が下りてくれば慌てて逃げ出すよな。


『でもその結果、シグメはアナタたちと一緒に戻ってきて、アスモデウスを吸収し、淫魔の姿になれた』


 あとは俺たちの知っている通りなのだろう。ユキメは満足げに頷いている。


「で、その話が何だって言うんだ?」

『シグメを助けてほしい』


 そんなこと……言われなくても助けたいに決まってる。だがそう思っていても現実は甘くない。俺たちはクロコに会うことすらできていないんだからな……。


『あの子の能力は狂気を振りまくもの。私がいれば幸福で抑えられるけれど、今のあの子は際限なく狂気をまき散らす災厄。早いうちに止めないと、このままじゃ淫力を食らい尽くし、やがて世界中の人間を狂気に染め、イキ殺してしまう』


 状況は思っていたよりも深刻らしいな。人類の危機じゃねぇか。


『そうなれば、シグメだってあぶない。人間が死に絶えた世界では淫魔は生きていけないから』


 なんて生きづらい生き物だろうか。死んでしまう理由が捕食対象の絶滅とか、頭が悪すぎる。狂気の能力って強そうに思えて欠陥品みたいなものじゃねぇか……いや、でも――


「それじゃなんで狂気ビームを撃たせた? 施設のシステムを掌握してるなら止められたはずだろ」

『理由はふたつある。ひとつ、発電室ジェネレータールームでシグメが復活したことで、淫力に干渉され、そこにあった軌道防衛のシステムを乗っ取られた。ふたつ、狂気ビームをあえて撃たせることで神側に警告する狙いがあった』


 なるほどな。初めから撃たせる気で、あの狂気ビームに触発されてやってきた俺たちに助けを求める計画だったということか。



(次回に続く)3


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