第63話 日本語って不思議だよな……違う意味に聞こえるもん……
「レヴィ、もしクロコと戦うことになったら殺れるか?」
硬い声で言った俺の視線の先で金色のサイドテールが小さく揺れる。
「嫌っす。たとえ淫魔でもクロコはクロコですから」
「目を覚ませ。あれは俺たちの敵なんだよ」
「それでもあの子はアタシの犬っす」
「淫魔だけどな」
「それでもあの子はアタシの犬っす……」
「俺のことご主人って呼んでたけどな」
「そっ、それでもあの子はアタシの犬っすよぉ……」
「強情だな……」
俺が何度言っても頑なに考えを変えないレヴィ。さらに今度は、おもむろに椅子から立ち上がるとソファーに座った俺の足にすがりついてきた。
「ねぇ、いいでしょう先輩。次はちゃんとしつけますから、きっといい子になりますから……」
「そんなこと言ったって絶対失敗するだろ」
そうは言っても、正直なんとかしてやりたい。俺だってあの犬、結構気に入ってるし。敵だから殺さないといけないなんて悲しい展開なんてごめんだぞ。
そうやって「う~む」と熟考していると後の壁からため息が聞こえた。首を回すと、いつの間にか壁の円状の飾りに沿って空間が切り裂かれていて、ユリさんが神界から戻ってきていた。
神界での話が気になって、俺はさっそく問いかける。
「ユリさん、お帰り。で、どうだった? 対策会議は」
「不干渉ということになりました。私は討伐を進言しましたが、ここには魔王軍もいますから戦乙女の派遣には慎重なようです。まぁこのコンビニが攻撃されれば別でしょうが……」
「なーんだ。だったらしばらくクロコは討伐されないんすね……よかった」
「ほっとしてる場合ではりません。こうしている間にも淫魔どもは勢力と性欲を増しているんですよ」
表情を和らげたレヴィにユリさんが注意するが、言ってる内容がひどすぎる。それにユリさんがあまりに真剣な表情で『性欲』なんていうものだから、俺は思わず苦笑した。
「勢力と性欲を増している、か。ただのムラムラ集団に聞こえるから不思議だな」
「うん、ホント不思議。勢力も性欲がくっついてるせいで勢力じゃなくて精力に聞こえるね」
「お、確かにその通りだな、陽菜美。いや~日本語ってすげぇな。同じ言葉なのに違う意味に聞こえてくるなんて」
妹と一緒に日本語の多様性に感心したところで、
――ピピピピ、ピ、ロン♪ ピピロピロ~ン♪
入店音が聞こえ、俺は反射的に自動ドアを見た。
「あのー……臨時休業と聞いたのですが、ドアが開いているということはもう臨時休業は終わったのですか?」
おずおずと入ってきたのは、パーカーを羽織った白いワイシャツに黒いスラックスというスーツ姿の美女だ。優しそうな表情を前髪で右目を隠し、肩口をくすぐる銀髪もパーカーのフードで隠しているが、そんな変装は無意味で正体がバレバレだ。
ルキナさんだった。魔王軍師団長でこの都市で一番権力がある悪魔だ。
そう理解した瞬間、俺はルキナさんに詰め寄った。
(次回に続く)2




