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第62話 呪いで侵略する魔族

「…………」


 日当たりのいい平原側がこのコンビニの憩いの場、イートインスペースだ。そのスペースの壁際にあるソファーに座った俺――勇夜は沈黙していた。

 ユリさんが置いていったデバイスが見せた記録映像は、SFモノのFPSか映画のような光景で、臨場感のある戦闘はCGとかじゃなくて紛れもない実戦。それゆえにもちろん緊迫感もあったが、やっぱり衝撃的だったのは――


「まさか、クロコが……シグメとかいう淫魔級サキュバスだったなんて」


 ようやくそれだけ言うと、俺はデバイスの電源を切った。

 俺の隣に座った陽菜美が硬い表情を歪ませた。


「うわぁ……しかもエロいことしてないと狂気で頭がおかしくなるとか、とんでもない能力じゃん。ユリさんたち、エネルギーシールド的なものがあるのに貫通してるし、なんなのアレ」

「呪いの一種だと思う。淫魔級には特殊な能力を持つ個体も数多くいるけど、あれはその中でも異質だったね。身体的接触や視線で狂気の波動を送り込むって感じで伝染病のように広がるタイプだったし」

「なにそれ、怖いよぉ。歩く感染爆発パンデミックじゃん」


 シアの説明に眉を寄せると、陽菜美は茶髪のツインテールをぷるぷると震わせながら俺の腕にしがみついてきた。


「ねぇお兄、さっさと逃げよ? あの能力シールド貫通するし、ここもあぶないよ」

「逃げるって、どこにだよ。ここは異世界なんだぞ。土地勘もないし、どこにも逃げ場なんてあるわけ……」


 椅子に静かに座ったシアと目が合う。綺麗な赤い瞳に鬼のように生えた二本の黒い角。こいつは悪魔だ。そういえば淫魔は悪魔の天敵ってレヴィやユリさんが言ってたよな。


 そう思ってシアに「淫魔って悪魔の天敵なんだろ?」と聞いてみると、シアは真顔で頷いた。だったら質問は一つだ。俺は続けて口を開いた。


「じゃあさ、何か身を守る方法とか知らないのか?」

「ひとつだけ方法があるよ」


 聞いてよかった。きりっとした表情で頷くダウナーロリの顔がいつになく頼もしい。これは期待できるぞ。


「おお……! あるのか、生き残れる方法が!」

「なになに、教えて教えて……!」


 俺と陽菜美が食い気味に迫ると、シアが安らかな寝顔を作ってお祈りでもするように小さな胸の前で両手を組んだ。


「祈るの。自分以外の誰かが犠牲になることを。そしたら、淫魔は満足して見逃してくれるんじゃないかな?」

「「…………」」


 もう何も言えなかった。

 のんびりした声で言ってるし、お人形さんみたいな見た目で「見逃してくれるんじゃないかな?」と可愛らしく小首をかしげられたら、もう何も言えない。


 このダウナーロリつかえねぇー……期待して損した。


 すっかり落胆した俺と陽菜美はソファーに座り直しながら深いため息をついた。


「………………」

「……ん?」


 ふとレヴィの横顔が目に入った。シアに落胆した俺よりも暗いオーラを出している。いつもはちょっと子供っぽい顔なのに、寂しさと憤りが混じったようなその顔はどこか大人びて見えて、細められた目は鋭い。真剣な顔のギャルと言うと、今月お小遣いピンチとか彼氏と喧嘩中だとか、その程度に思われるかもしれないが、事情が事情なだけに俺もどう声を掛けていいかわからないのが本音だ。


 だがこの中でまともに戦えそうなのはこいつだけだ。



(次回に続く)1


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