第59話 狂気と幸福の悪魔
獣のように求める、き、キスです。こんな状況でいきなりするなんて、どうかしています。明らかに頭がおかしいじゃないですか……!
ですがさらに奇妙なことに、押し倒されて困惑していた戦乙女の方も「う……ううっ」と怯えた表情で貪るようなキスをしだしたんです。
その異常な光景を見て、私は思わずわなわなと唇を震わせます。
「なにをしたんですか……」
「ふふっ、私の能力はねぇ。一定の距離にいる人を狂わせるの。狂気で相手を支配して、エッチなことをしてないと怖く怖くてしょうがない身体にする……そして!」
「私の能力でそのマイナスの感情を反転させ、強制的な幸福を与える」
シグメがばっと手で示すと、今度はユキメが肉薄して、恋人のように手を繋いで求め合う戦乙女に手をかざしました。
その瞬間、床でもぞもぞと動いていた彼女たちは、とろんとした表情になって動きを止め、それからびくびく体を震わせて倒れました。
「狂気から一気に幸福へと気分を上げることで得られる最高の快楽」
「絶頂のジェットコースターだよ。ふふっ、どう? ステキでしょ?」
クールな半眼で戦乙女たちを流し見るユキメと、くすくすと無邪気に笑うシグメ。最狂最幸の姉妹といったところですね。なんて厄介な能力を持った淫魔でしょうか。
彼女たちは危険です。あの淫魔をここから先へ行かせてはなりません。ここで倒さなくては。
そう思って私がプラズマ機関銃の照準をシグメに合わせた時、残り二人になってしまった戦乙女がすでにプラズマライフルを唸らせていました。
「なにをふざけたことをッ!」
「このッ! このッ! このッ!」
ですがシグメに向かったプラズマ弾はそれていきます。何らかの磁場でもできたかのように黒い着物を避け、制御コンソールに着弾してパネルを溶かしました。
「クソっ、プラズマが曲がるわ……!?」
「だったら接近して一気に仕留めるまでよォォォォォォォォ!」
勇敢な戦乙女が裂帛の気合と共に撃ちながら走ります。ですがいくら距離を詰めてもシグメが手をかざすだけで弾は逸れ、銃口が体に触れる距離まで彼女が接近すると、身体を捻って射線をすり抜け、狂気のハグをしました。
たったそれだけで触れられた戦乙女は悶え、がくがくと身体を震わせて恐怖に支配されます。
そんな味方を目にした戦乙女は、背面のミサイルポッドを展開します。
「プラズマが効かないなら、ミサイルで――」
「私を忘れてもらったら困る」
一息で距離を詰めたユキメが戦乙女の関節をキメながら相手の身体をねじるようにして張り倒した。うっと呻く戦乙女。あの程度なら装甲服のパワーでユキメを跳ね飛ばして反撃できるはずですが、彼女は組み敷かれたままぼーっとした表情です。
あれはおそらく薬を使ったような多幸状態……! なんてことを……くっ……!
彼女たちを助けたかった。すぐにでもあの淫魔どもを倒したかった。ですが指が動きません。下手にプラズマ機関銃を撃てば、また弾かれて味方に当たるかもしれませんから。
私が手をこまねいている間に二人の淫魔が交互に能力を使って、あっという間にその場にいた戦乙女たちを狂気と幸福の中毒者にしていきました。
倒された味方がよがり狂うのを見ながら、私は何かないか……と背中のラックを探りました。するとコツンと指先に触れるものがありました。
こっ、これにかけるしかありません!
ラックからアサルトライフルを取りだし、シグメに向かって構え、素早く引き金を引きます。
「実弾ならどうですか……!」
「うう……っ!」
弾が通った! 胸に数発、高速徹甲弾は有効! だったら!
(次回に続く)5




