第55話 それは、神界が襲撃された記憶だった……
あの日は、最悪の一日でした。
気が遠くなるほど長い歴史がある神界でも、あんなふざけた戦闘はありませんでしたから。
「淫魔どもめ……」
武器庫のガンラックにライフルを戻しながらそう呟くと、私――ユリの脳裏に忌々しい記憶が呼び覚まされました。
それは私が保安局に配属されて間もない頃の話。
警備の交代で詰所に向かっていた時のことです。
突然、警報が鳴り響き、辺りが騒がしくなりました。
「この警報は、敵襲……っ!?」
思わず息を呑んだ私は詰所に向かって駆け出しました。
こんなのは初めてです。保安局で警備をしているといってもそれは形ばかりで、高次元にある神界に敵襲なんて今までなかったものですから、警報なんて訓練でしか聞いたことがありませんでした。
ですが、訓練があるという通知はきていません。もし訓練があれば、迎撃部隊と敵性勢力に分かれて模擬戦をする知らせが入るはずです。
それなのに通知がないということは――
『空間門管理室に侵入者! 繰り返す、空間門管理室に侵入者!』
入り込まれた……!? 空間門管理室って、心臓部じゃないですか……ッ!
『保安要員は直ちに急行し、侵入者を排除せよ!』
まずは情報が必要です。通信官のアナウンスに耳を澄まさないと。
『敵勢力は第一神界域の空間門管理室を占拠。空間門から敵が流れ込み、我らの領域を侵食しつつあります。敵主力は小悪魔級、先進装備。奴らは四方に部隊を分けて進軍中です』
状況は把握しました。
通信機に響いた戦乙女の声から話を整理しますと、空間門システムを利用され、神界に淫魔が押し寄せているようです。あの転移装置は便利ですが、システムのセキュリティを突破されればこうして逆手に取られるリスクがあります。こんなことができるのは人知を超えた異常な存在……淫魔しかありえません。
非常に厄介な淫魔が指揮をしているのでしょう。前に報告書を見たことがありますが、そこにはこうありました。
奴ら淫魔は、悪魔だろうが神だろうが当然のように犯す。淫力という超常現象で人も機械も狂わし、絶頂させる。奴らは危険だ。たとえ我々戦乙女の装備だろうと対抗するのは非常に厳しい。特に淫魔級以上の個体には気をつけろ。
なんとも恐ろしい話です。つくづく異常な存在ですね……空間門システムすらこうして犯すような奴らなんて。
「私たちも応援に向かいますよ!」
「はい! 強化服、転送!」
通路にいた戦乙女たちの身体が光に包まれました。その光が消えると、黒いスーツを身に纏い、近代的な銃火器をもった戦乙女たちが立っていました。
特殊な繊維で作られたパワードスーツです。身体のラインに沿ったデザインが少しだけ扇情的で神々に大人気なのがたまにキズですが、パワーアシストと充分な防弾性能を備えています。そして携えたプラズマライフルも合わせれば超人的な兵士の誕生です。
私もスーツを転送しようか迷って、やっぱりやめます。他の戦乙女と別れて武器庫に走りました。
おそらく今から向かっても返り討ちにあうだけでしょう。あの装備だけでは不安です。
(次回に続く)1




