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第53話 ○○が餌とか勇者もびっくりだな……

「どういうことっすか……!? 何で、何でクロコが……!」


 みんなでユリさんが乗ってきた高機動車でコンビニに戻ると、レヴィがユリさんに詰め寄った。

 一番クロコを大事にしていたレヴィだ。きっと俺よりも頭に血が上っているだろう。さっきはいきなりクロコが撃たれて動揺していたが、今じゃ相手に噛みつかんばかりの勢いで睨みつけている。


「もう一度言います。淫魔だったんです。あなたが飼っていた魔犬は」

「…………」


 レヴィが固まった。怒りの形相をすっと冷まし、困惑して揺れる赤い瞳。ややあって、小さく首を横に振り始めた。


「嘘っす……そんなことない、そんなこと……だってあの子、捨て犬みたいに砂埃まみれで、ひとりぼっちで、コンビニの裏でくんくん鳴いてたんすよ? そんな犬が淫魔なんて信じられるわけ……」

「信じたくない気持ちもわかりますが、淫魔には相手を油断させるために擬態する者もいます。それにあの色欲の魔王、アスモデウスに噛みついて魔力を吸収し、それで本来の姿に戻ったんですよ」

「確かに、アスモデウス様の魔力は、淫魔がもつ淫力に近い性質があるからそれを吸収して本来の姿になる魔族といえば、淫魔しかいないしね。筋は通ってるんじゃない、レヴィ」

「うう……」


 ユリさんとシアの言葉に何も言い返せなくて、レヴィはとうとう俯いてしまった。

 そんなレヴィの姿を見て、俺はやるせない気持ちになって、ぽりぽりと頭を掻いた。


「スケールが大きすぎてついていけねぇよな……魔王が前座とか前代未聞じゃん」

「そうだね、お兄。なんかアスモデウスとかいう魔王がクロコの餌にされたみたいな話だね」

「餌、か……魔王が餌とか、勇者もビックリだな」

「だねー……」


 陽菜美は窓から見える平原をどこか他人事のように眺めていた。

 俺も自然豊かな景色を眺めて思考をクールダウンしようかな。あー綺麗な平原だ。思ったよりシアを見つけるのに時間がかかってないから、まだ明るいし……いい景色がよく見える。いいよなぁ、風で草が揺れる景色って、なんか落ち着くし。しかも見渡す限りの平原なんて、日本じゃなかなか見られるもんじゃないし、あらためて見ると新鮮だな。はははは……あーあ、これからどうすっかなぁ……。


 ともあれ、魔王に憑依されたあのデブオヤジが餌なのは萎える話だが、現実は萎えている場合じゃなさそうだった。

 ユリさんが緊張したようにぴんっと狐耳を立て、視線を鋭くした。


「淫魔は悪魔の天敵といいますが、神々と私たち戦乙女ワルキューレの天敵でもあり、もちろん人間にとっても天敵です。奴らは貪欲に性を貪り、生きとし生けるものを平等に、そのスケベな毒牙にかけますから」

「え、ユリさんって獣人じゃなかったんすか? 戦乙女って、神の使いじゃん」

「え? レヴィ、ここでバイトしてるんだよね?」


 レヴィが驚いて金髪サイドテールを揺らすと、シアは目を丸くした。


「そうっすよ」

「じゃあ悪魔なのに神側のお店で働いてるってことだね。大丈夫? なにもされてない?」

「大丈夫っすよ。神々のお店っていっても、悪魔と神々は戦争状態じゃないから、普通に働いてるだけっすから」

「そう、よかったね。偏見のない良い職場で」


 シアは心配が杞憂になってほっと胸をなでおろす。レヴィも「うん、よかったすよ……」と呟いてほっと息を吐く。

 そんな悪魔姉妹に、


「お二人はイートインスペースで休んでいてください」


 と言ってからユリさんがレジの方に俺と陽菜美を呼ぶ。


「こちらへ」

「お兄……」

「いくぞ。なんか大事な話っぽいし」


 レジまで行くと、ユリさんが振り向いた。


「淫魔の登場によって見世物企画は一時中断とさせていただきます」

「え、じゃあどうなるんだ……? 確か、異世界でコンビニ経営してみようって稀有な見世物だったはずだけど……」

「そうだよ。失敗したらお兄と私を異世界に放置するって言ってたし……一時中断って、私たちどうなるんですか……?」

「このままコンビニで待機していてください。それと、クロコさんを見かけても近づかないように。あれは、大変危険な人物ですから、決してこのコンビニに入れてはなりません」


 困惑する俺と陽菜美を言い含めると、ユリさんは「お店もしばらくは臨時休業にしてください」と念を押して言ってきた。

 どうしてこれほど、警戒してるんだ? 前に魔王軍がコンビニを囲んできたときだってユリさんは冷静に対処してKMSOKカミソックと一緒に撃退したのに、今はたったひとりの淫魔でコンビニを臨時休業にする事態に発展している。


 いまいち実感がわかないが、そんなに危険なのか?



(次回に続く)


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