第45話 お前の親、やりたい放題だな……
膝をついてライフルを構えているツインテールの後ろに立って、俺も広い空間を覗き込む。
天井の照明が通路よりも明るいせいかはっきりと見える。広間の片側が谷のような地形で、その反対側にあるスロープを上った先は吹き抜けの二階部分になっており、二階部分の一角には制御室のような設備があった。さらに天井付近には空中通路まであって、全体的にスケールがでかい。対面の通路まで五〇〇メートル以上はある。
そんな宇宙船の発着ベイのようなところに、白いローブ姿の兵士が立っている。だが全員、こんなところまで敵がくるなんて思ってないのか、壁に寄り掛かったり、仲間と談笑したりして油断している。
奇襲するには絶好の相手だが、静かに倒す必要がある。そこで俺は眼帯を外した。
――熱探知、起動。
視界が良くなったかと思うと、兵士たちの輪郭がハイライトされた。そして注意深く目を凝らすと彼らの頭上に逆三角形のマークが表示される。戦術マーカーだ。これで壁越しに奴らが移動しても機械の義眼の複合センサーが自動で追尾して知らせてくれる。
「数は一三、キャットウォークに二、二階部分に三、プラットフォーム周辺に八だ。陽菜美、俺の指示で狙撃しろ。上手い具合に処理するぞ」
「おぉ、うちのお兄がなんだか頼もしい」
「そうっすね。急にカッコいいじゃん」
耳心地良い言葉だ。尊敬の眼差しも非常にグッド。だが調子に乗って失敗したら恥ずかしいどころか命を失いかねないので俺が表情を引き締め、視線を上げた。
「それじゃまずは――」
「でもお兄、スタン弾って結構光ってるし、気づかれない?」
「それもそうだな……あー早くも狙撃作戦は失敗か……?」
「じゃあどうするのお兄、狙撃が駄目ならこれ以上進めないよ」
そんなこと言ったって、俺の義眼は見ることしかできねぇし……どうしようかな。
「お兄、何かないの? ほら早く。もしかしたら敵の巡回が来るかもしれないし、時間ないよ」
「うう……じゃあ狙撃で」
「だからそれじゃあ失敗するかもしれないんだって」
「やってみないとわかんねぇだろ。少なくとも何人かは無力化できるはずだし、これしかないって」
「もう、まどろっこしいなぁ。あの程度の数なら余裕っすよ」
言い合う陽菜美と俺の脇を抜け、レヴィが駆け抜ける。軍服ワンピースの背中の裂け目からコウモリのような翼を広げ、低空飛行する猛禽の如く敵兵に急接近。はっと息を呑む兵士たちの目の前まで行くとレヴィは彼らを殴り倒した。
人間離れの膂力と俊敏性。悪魔の尻尾を振り乱し、応戦してきた敵の剣を腕で弾き、八人いた兵士たちを次々と床に沈めていった。
俺はその間、
「陽菜美、援護するぞ。キャットウォークの奴を狙え」
「う、うん……! 命中……! 次……よし、仕留めたよ……!」
という感じで上から見張っていた奴らを陽菜美に狙撃させていた。
「続いて二階部分のコンソールにいる奴らだ。撃て、まだ敵の体勢は整ってない」
「了解」
陽菜美が素早く三度引き金を引き、スタン弾を発射した。こちらに反撃しようとして魔法銃をとった三人の身体に綺麗に着弾すると、彼らはどさっと倒れた。
圧倒的だ。ほんの一〇秒ほどで敵兵は全滅した。
俺はプラットフォームまで走ると、ぴんぴんしたレヴィに向かって呆れまじりに苦笑した。
「お前強すぎるだろ。つーか魔法とか全然使ってないし、レヴィって物理型の悪魔だったのか?」
「まぁ実は悪魔だけど、アタシって疑似的にドラゴンの血が入ってるんすよねぇ」
初耳なんですが……!?
びっくりして目を見張る俺をよそに、レヴィは微妙な表情で話しを続ける。
「うちのママってドッペルゲンガーで、よくパパにあの娘とヤりたいとか言われて変身するんすよ。で、ドラゴン娘に変身したママと悪魔のパパの間に生まれたのがアタシってわけっす」
「お前の親、やりたい放題だな……」
「お兄お兄、凄いよ! 変身できるってコスプレエッチの完全上位互換じゃん……! まさに神パートナー、どんなにヤりまくってもマンネリにならないよ!」
「俺の妹も、言いたい放題だな……」
興奮した陽菜美に呆れながらあらためてレヴィを見ると、尻尾は悪魔らしい黒く細長いものだが、角は言われてみればドラゴンっぽい。
ドラゴン悪魔娘か……なんか強そうだけど、それよりシアが心配だ。早く行かないと。
「とりあえず先を急ごう。クロコ、先導してくれ」
「ワン」
通路に入り、黒いモフモフボディがてちてちと進む方向に俺たちも足を向けた。
「面白かった!」
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