第41話 神聖ルプス帝国の暗躍
森の中をしばらく歩いていると、木々がまばらになって一気に視界が開けた。
斜面に岩肌が見え、その上にまた森が見える。どうやらここは起伏が激しいようで木々が少なく、車が通れるくらい開けている。
俺たちはひざ下ほどまで伸びた草を踏みしめ、半ば草に埋まってぴょこぴょこと跳ねているクロコを追いかけた。
それにしてもすごい。服とかのニオイを嗅ぎ分けて追跡するならわかるが、コン〇ームのニオイなんてするのか? いやそもそもいつのコン〇ームだ? フロントの話じゃ、三日前にシアが帰ってこないって言ってたけどさぁ……そんな前のニオイって残ってるものなのか?
木の根に鼻を擦り付け、クロコがコン〇ームをくわえて持ってくる。
「ワン!」
「お手柄だな。またあったぞ」
ひょっとして、こいつ、警察犬よりすごいんじゃね? 迷いなく進んでるし、確実にコン〇ームを見つけてるし。もう五個目になるよな。
だがそんなクロコはぴたりと立ち止まり、警戒するように唸りはじめた。
「グゥゥゥゥ……」
「どうした? 急に止まって……」
「お兄、誰かいる。向こうの崖下」
「あ、ホントっす。見張りみたいに二人立ってる……」
陽菜美とレヴィが岩陰に隠れて覗いている。
彼女たちの視線の先は崖下で、数メートルほど地面が沈んで窪地になった場所だ。その崖からは金属のような枠が飛び出し、巨大なコンテナが埋まっているような外観。その近くに白いローブのフードを目深にかぶり、見張りのように二人だけ立っている。
その二人は、何かを喋っているのか、ジェスチャーを交えて会話中だ。
「ここからじゃ何言ってるか分かんねぇな……」
「任せて。偵察ドローン《スポッター》、集音マイク、オン」
陽菜美が虚空に向かってそう言うと、空気が静電気のようにピリリと弾けた。
『今頃、側近連中は儀式の準備で大忙しだろうな』
『そうだな。くそっ、俺も淫魔降臨に立ち会いたかったな。見張りとかついてねぇぜ』
「おぉ……こんなに距離が離れてるのにハッキリ聞こえるなんて。陽菜美ちゃんも使えたんだ」
レヴィが驚いているが、俺も男たちの声にはっとした。
空中で光学カモフラージュを使って透明になってる偵察ドローンが集音マイクで音を集めてるってわかっていてもビックリする。機械が目に見えないから距離と音のバランスが狂ったみたいで、レヴィが「音を集める魔法っすね」とさえ言っている。
確かに魔法みたいだ。というか、ユリさんたち神々って神の奇跡よりこういったハイテクの塊みたいなものばかり出してくるな。まぁ、進みすぎた化学は魔法と区別がつかないっていうけど、この偵察ドローンの集音マイクがまさにそれだ。
『しかし、あんな小娘が生贄でどこまでの淫魔が召喚できるんだろうな』
『きっとすごいのが出てくるぞ。淫魔は美しい娘が好きらしいから』
『でもあれは、ちょっと幼いよな。まだ子供だった』
『子供でも悪魔だぞ。きっと魔力量も多いだろうし、淫魔も気に入ってくれるさ』
「決まりっすね。あいつらの所属がわかりました」
男たちの短い会話を聞いただけで、レヴィは訳知り顔で頷いてみせた。
「自信満々だな……それで、奴らは一体何者なんだ?」
「常夜の性域っす。悪魔の天敵である淫魔を召喚し、その力で悪魔を地上から駆逐しようとしている組織。まぁ早い話が、神聖ルプス帝国軍の特殊部隊っすね」
「帝国軍か……そういえばお前ら悪魔ってコンビニ横の街を侵略したらしいけど……」
俺がそう聞くと、レヴィは軽い調子で口を開いた。
「侵略しましたよ。城塞都市プローディオは、元々帝国軍の都市だったんすけど、うちのお姉ちゃんが攻め込んで占領して、今じゃ魔族の都市として統治してるんすよ」
「つまり敵じゃん……ヤバいよお兄、早くも戦闘開始の予感だよ」
「そうだな。ヤバいな……」
「ええ、ヤバいっすよ。なにせ、スケベで悪魔を倒そうって思想のヤバい集団っすから」
(次回に続く)1




