第37話 俺はこのアイテムで○○を支配する!
まだ仕事中だけど……我慢できねぇ。さっそく試そうっと。
レジを引き続きレヴィに任せ、俺は店内を物色中の若い女性悪魔に狙いを定め、近づく。
ターゲットは巻き角で黒髪ロングの悪魔。肉感的な身体をしたけしからん女だ。これは色々調べるしかないだろう。
そういうわけで、首を左右に高速で振ってみる。
するとなんということだろうか、本当に店内にいた客が全員ぴたりと止まった。
商品棚に手を伸ばしたまま固まる中年の男性悪魔。その手前で商品棚を見ている赤い肌の下級悪魔も足を止めた。ターゲットの巻き角黒髪ロング悪魔もインスタント食品のコーナーを見つめたまま動かない。
「ふふふ……来た。俺の時代が来たぞ……!」
こいつは本物だ。時を支配できるアイテムだ。
「………………ん?」
高速で首を振る視界の中、再び客たちが動きだす。おそらく時間経過で効果が切れたのだろう。五秒だけって書いていたし、ずっと首を振り続けても効果はないようだ。再発動不可時間があるのだろう。
そうやって時止めヘッドバンドの有効性を調べていると、うわ……なにこの人、とか、ヤバいぞコイツ……ずっと首振ってる、とか、異常者だ……離れた方がいいぞ、とシンプルに変質者扱いされた。失敬な奴らだ。今この時、歴史が動くような発明を体験しているというのに。
「じゃあ、ちょっと失礼して」
さっそく首を振りながら巻き角黒髪ロング悪魔のスカートに手をかけ、めくり上げた。
「くそぉぉぉぉ! 残像してよく見えねぇぇぇぇ……っ!」
色はわかる。黒いショーツだ。しかし残念なことに、首を高速で振ってるせいでお尻の輪郭すら残像して見えていて何がどうなってるかわからない。
これ、失敗作だぞ! 全然見えねぇし!
だが落胆している暇はない。すぐにはっとして「やべっ。そろそろ時間だ」と言いながら棚に向き直って商品を整理するフリをした。
「まだだ……見れないなら触ればいい……いざっ!」
気合いの声を上げながら首を高速で振り、巻き角黒髪ロング悪魔の胸めがけて腕をのばす。
だがその時、
「ワン!」
「え……?」
止まった世界の中で犬の声が聞こえた。
視線を下げると、クロコがぶんぶんと短い尻尾を振っていた。
「人は止まっても、犬は動くのか――って、それじゃ時間停止モノのA〇じゃねぇか!」
「うわ……なにこの人、急に叫んだりして」
「可哀想に……あの年で精神を病んで」
「やはり人間は脆い生き物よ……」
店内がざわざわし始める。振り向いてきた巻き角黒髪ロング悪魔は「うわぁ……」と不審者に向けるような目で俺を見ていた。他の客も痛い奴を見るような目だ。しかも、首を左右にブンブンと振りながら女性悪魔の胸を揉もうとしたところをクロコに見られた。完全に異常者だ。
すっと頭の中が冷める感覚。なんだか自分が情けない。すっかり萎えた俺は、時止めヘッドバンドを頭から外し、とぼとぼとした足取りでレジに戻った。
「……あ、先輩。お帰りなさい……」
俺に負けず劣らず暗い顔をしたレヴィが呟くように言った。
「どうした? 何かあったのか?」
「先輩には関係ないことっすよ……」
「何か問題があるなら早めに報告しろよ。俺もフォローするから」
「いえ、アタシの個人的な問題っすから……」
「もうじれったい奴だな。そんな暗い顔で接客するやつがあるか。命令だ、理由を話せ」
「いいっすよ……まだちょっと心配ってくらいなんで」
「あれー?」
店長権限が効かない。レヴィにあんなに辱めたこの命令権が……いや、そういえば制約があったな……一回の万引きに対して一度だけだったか? じゃあしょうがないな。こんな能力に頼らなくても悩みのひとつくらい解決してやる。
俺はそう思うと、優しく微笑んだ。
(次回に続く)2




