第34話 最近、バイトの様子がおかしいんだが……
やはり逸材だ。レヴィの奴、たった数日でここまで成長するなんて。
客入りも落ち着き、店内の客もほとんどいなくなったところで、商品の補充をしていた俺はレヴィに歩み寄った。
「休憩、いいぞ」
「はい。お先です、先輩」
「その先輩って呼び方やめろよ。これでも店長だぞ」
「店長って店で一番偉い人のことでしょ。そんな人に見えないから先輩は先輩くらいがちょうどいいんすよ」
子馬鹿にするように微笑んだレヴィは、休憩入りまーす、と言いながら手をひらひらと振ってスタッフルームに引っ込んだ。
レヴィの休憩がそろそろ終わる頃、レジを交代してもらおうとスタッフルームを覗いたが、そこにレヴィの姿はなかった。
「あいつ、どこいった? まさか帰ったとか……おいおい、俺、休憩って言ったよな?」
探しに行きたいが、レジを無人にするわけにもいかない。陽菜美は朝から働いていたから二一時前のこの時間はシフトに入っていない。だから俺とレヴィで何とかしないといけないのにあいつときたら……これから客が増える時間帯なんだぞ。早く連れ戻さないと。
というわけで、俺はレジ横の監視カメラに向かって口を開いた。
「ユリさん! ピンチです、助っ人お願いします!」
しばらくして、イートインスペースの方から狐耳の美女が出てきた。どうやら空間門を開いて神界から転移してくれたようだ。
「なんのご用ですか?」
「レジお願いします、ユリさん。すぐ戻ってくるんで」
「なにを言い出すかと思えばレジって、そのくらい自分でやりなさい」
「それじゃ!」
「ああ、ちょっと……!」
ユリさんの制止を振り切り、スタッフルームに入った。
やはりいない。テーブルに空っぽのパンの包装と飲みかけの牛乳パックがあるだけでレヴィの姿はない。
「パンは食べたみたいだな……じゃあ戻ってこいよって話だけど……トイレに行ったなら俺の目につくはずだし……一体どこだ?」
出入口は二つしかない。正面出入口とコンビニ裏に出るための従業員用の出入り口だ。
もしかして、外でゴミ出しをしてくれてるだけとか?
このコンビニは、裏手のゴミ収集場にゴミを置くといつの間にか回収されるシステムがあるから、裏手の出入り口から出てゴミ箱を片付けてくれているのかも。
そういえばあいつ、最近ゴミ出しとか率先してやってくれるし……。
『先輩、アタシ、ゴミ出し行ってくるっす。いいからいいから、任せてくださいよ』
『外のペットボトルと空き缶のゴミ箱もアタシが片付けておくっすね』
『ちょっと先輩……! 待って、ゴミ出しはアタシの担当っすから勝手にやらないでくださいよ……!』
記憶にある最近のレヴィの様子はこんなものだった。
ゴミ出し好きすぎるだろ。今思えば……怪しいぞ。なんでそんなにゴミ出しにこだわるんだ?
不自然に思った俺は裏口を出てコンビニの裏手に来た。
するとゴミ収集場の大きなコンテナボックスの方から、
「遅くなってごめんね。今ミルクあげるっすから」
レヴィの声が聞こえた。
ドアを開けたまま横に数歩歩くと、壁面の照明に照らされたコンテナボックスの影にレヴィがしゃがみ込んでいた。ご機嫌な調子で悪魔の尻尾を振っている。
「あ、飲んでる飲んでる。ふふっ、そんなにちゃぷちゃぷさせて……よっぽど喉乾いてたんすね。よしよーし――」
「かぷっ」
「あだだ……っ! なんで噛みつくの……!? アタシの手なんか食べても美味しくないっすよ? っていうかヒドくない? こんなに可愛がってるんすからそろそろ懐いてくれても」
そこにいる何かに向かってレヴィがそっと手を近づける。
「グゥゥゥゥゥ」
「なんで威嚇するの!? ご飯あげてるんだからもうちょっと心を許しても……」
「かぷかぷかぷ」
「また噛まれたっす……!? あ、でも今度は痛くない、けど。うげー唾でべとべとするぅ」
「ぷっ」
あ、まずい……。
「ん? あ、ああ……! 先輩……っ!?」
ぷっ、と思わず噴いた俺の笑い声に気づいてレヴィが振り返ると、赤い目を丸くした。
(次回に続く)2




