第23話 俺におりろ! ○○の神! いるか知らんけど!
当初、俺はあんな戦闘行為をしたんだからコンビニ経営どころか、魔王軍と神様陣営の戦争になるんじゃないかと思っていた。
――ピピピピ、ピ、ロン♪ ピピロピロ~ン♪
だが実際は違った。入店音に弾かれたように首を捻ると、自動ドアが開いていた。
「お、お客さんだ……」
俺が驚きに目を見開いていると、入店音に驚いてか入り口に立っている少女も目を見開いてきょろきょろとしていた。
その反応は可愛らしいが、頭に赤い角が二本生えていた。側頭部から頭頂部に沿って頭から突き出たその角は闘牛の角のように見える。間違いない、悪魔少女だ。彼女の出で立ちはシックなワンピースで赤と白を基調としていて、肩章には黄色い星が二つついている。どことなく軍服っぽいデザインのワンピースは可愛いながらもカッコよさがある印象だ。顔は化粧をしているのか華やかでギャルっぽい感じで、整った顔立ちをより引き立てている。警戒するように左右に首を振ると、肩をくすぐる金髪がその動きに合わせて揺れていた。
片側だけ結ってる髪型……サイドテールというやつだろうか? 髪に軽くウェーブがかかっていてオシャレだし、頭に金の髪飾りとかつけてるし、このギャル悪魔、もしかしていいとこのお嬢さんじゃね?
ならば接待しなくちゃ。このコンビニの未来のために。
しかし現在、店員は俺一人。陽菜美は裏で休憩中だし、ユリさんは昨日の戦闘の被害を調べるためにコンビニマンションを点検中だ。
そのため頼れるのは己のみ。俺は最高のスマイルを作ってお客さんに歩み寄った。
「いらっしゃいませ!」
「あ、どうもっす……あの、ここ本当にコンビニなんですか?」
どうもっす? この口調……それによく見ると顔もどこかで……。
既視感に首を捻っていると、ギャル悪魔が「あの……」と口を開く。俺は既視感を追い払うように小さく首を横に振ってから頷いた。
「ええ、もちろん。コンビニです」
「マジ? ウソ、この世界にあるなんて……あ、実はアタシ、ずっとコンビニに行ってみたかったんすよね。いや、コンビニにかぎらずゲームセンターとかファミレスとか、憧れで……」
ん? この異世界人。俺の世界にあるもの色々知りすぎじゃね?
「あのぉ、失礼ですが、なんで知ってるんですか? ゲーセンとかファミレスとか」
「アタシ悪魔っすよ? 使い魔の猫とかカラスの視界を借りていろいろ日本の様子を見たりできるんですよ。ああでも、日本がある地球じゃ神々が守ってるらしくて、うまく魔法が使えないから魔法陣で飛んでいけなくて実際には行ったことないんすけど……」
「そうですか……じゃあ、待望のコンビニデビューですね」
「は、はい……! 今日はよろしくお願いします」
入り口でぺこりと頭を下げるギャル悪魔。イージー目標だ。客はこいつただ一人。俺の全身全霊をぶつけて接客すれば、常連さんにすることもできるだろう。幸い、向こうはある程度コンビニのことを知っている。コンビニに憧れもある。なんだ、余裕じゃないか。
勝利を確信した笑みを浮かべると、俺はレジから出ていく。
「あのお客様、ただいま開店記念期間でコンビニ店員を指名して案内させるサービスがあるんですが、どうなさいますか?」
「え? いや、ここそんなに広くないっすからいいです」
「今だけ、限定ですよ?」
「ううっ、そう言われると……文字も読めるか不安だし……」
「商品パッケージは日本語ですが、棚のところにこの世界の言語で書かれてますよ。商品名と大まかな内容が。でもまぁ、詳しいところまではわかりませんが」
「じゃあ、お願いします」
「ご指名ありがとうございます、悪魔のお嬢さん。当店店長の勇夜です」
胸に手をあてて綺麗にお辞儀をする。気分は高級店のホストだ。格好は黒いスーツではなく黒いコンビニ制服だが、接客力が強いものといえばホストだ。
俺におりろ! ホストの神! いるか知らんけど!
「あぁ、店長さんだったんすか……えっと、今日はよろしくお願いします?」
おっと早速効果が出ているぞ。ホスト風の振る舞いと勢いで、ギャル悪魔が飲まれてるぞ。すでにペースはこっち側だ。
「本日は何になさいますか?」
「とりあえず飲み物が欲しいっす」
ではこちらに、と言いながら入り口横の買い物カゴを手に取り、奥の冷蔵庫へ案内する。ドリンクコーナーに立ったギャル悪魔は「うわー……多いっすね。飲み物にこんな種類があるなんて」と感激していたが、商品の数が多すぎて迷っているのか、冷蔵庫のドアをつかんだまま固まった。それから俺の方に振り向き、おずおずと聞いてくる。
「あの、おすすめは……?」
「そうですね……こちら、コーラ・ヴィンテージ六日ものはどうでしょう?」
「ヴィンテージ六日もの……なんだか高そうな響きっすね」
「いえ、それがたったの一六〇円、銅貨一枚で二本くらい買えます」
「え、すごくお得じゃないっすか! 買います!」
「はい、コーラ・ヴィンテージ一本入りまァーす!」
冷蔵庫から取り出したコーラのペットボトルを掲げ、俺はカゴに収めた。気分はシャンパンを頼まれたときのホストだ。実際はシャンパンじゃなくて、開店して冷蔵庫に六日間寝かせただけのただのコーラだが、こういうのは雰囲気が大事だ。ホストは女性をお姫様のような特別な気分にさせるもの。このギャル悪魔は俺にとってお姫様みたいに大切なお客様なんだ。
(次回に続く)




