第11話 今明かされる異世界転移の経緯
あまりに非現実的で、最大限サポートするとか言っていたくせにユリさんはベランダに立った俺の隣で面倒そうに小さく首を横に振っている。シニヨンの髪を風に揺らしている狐耳の美女が、城壁が見える平原を眺めている。ヤバい。絵になる。これだけ見たら普通にファンタジーだ。信じそうになる。面倒そうで子馬鹿にされている感じでも思わず信じてしまう。
しかもユリさんはこう付け足した。
「ですが、納得できるだけの証拠はあります。勇夜さん、爆発のときに左目に痛みがあったでしょう?」
「ああ……激痛を感じて……それから視界が暗くなって……」
「でも今は見える。なぜだかわかりますか?」
「いや……」
「機械の義眼を埋め込んだからですよ。先に言っておきますが『熱探知』と心の中で思ってみてください。そうすればすぐに信じられますよ」
「え……? マジ?」
じゃあ言われた通りやってみるか……えーっと、熱探知、おぉ……!
心の中でそう言った瞬間、視界に映ったモノの色が変化し、ユリさんをオレンジと赤に染めた。サーモグラフィだ。でも俺が知ってるものと違う。フィルタリングされているのか、圧倒的に見やすい。サーモカメラだと冷たいものと熱いもので全部なにかしらの色に塗りつぶされているが、これは知りたい温度だけ見せてくれる感じだ。ユリさん以外は普通に見える。
それにしても……へー、ユリさんって体温高めなのか、普通の人なら微熱くらい? 獣人っぽい見た目だし、犬とかも体温高めだからそれと同じなのか?
ハグしたらぽかぽかそうなユリさんを見ていると、やがて綺麗な唇が開かれて重々しい声が漏れ出た。
「あの時……熱探知の目があれば、爆発を察しして逃げられたでしょうね」
「そ、そうだ……! 爆発だ!」
「あなたも不幸でしたね。ガスボンベを運んでいた男たちの部屋が陽菜美さん部屋のちょうど隣で、そこに置いてあったガスボンベに引火して爆発したんですから」
「え? 爆発の原因ってあいつらだったの……!?」
飲み会前にすれ違った大学生風の男たちだ。あいつらはガスボンベを運んでいた。まさかそれが原因になるなんて……不幸なミラクルが重なりまくってるな……。
でも、ガスボンベの爆発くらいで壁が吹っ飛ぶか? どんだけガスボンベ置いてるだよ。
そこまで考えると、俺は思わずはっと頭を揺らした。
「そんなことより、陽菜美だ……!」
リビングの隣にある部屋に飛び込む。
そこはやはり無傷で、爆発が起きたなんて悪い夢だと思えるほどいつも通りの妹の部屋。そしてベッドには、気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てている陽菜美の姿があった。
「よかった……ちゃんといる」
心底ほっとしながら布団をはがす。無傷だ。いつもの赤ジャージで火傷どころか、かすり傷すらない健康体。爆発に巻き込まれたのに奇跡的に助かったようだった。
安心して脱力したからか、今度はその反動で俺は陽菜美の肩をつかんでガシガシと揺すった。
「って、おい陽菜美! 寝てる場合か! 起きろ、緊急事態だぞ!」
「……んっ? あ、お兄……うるさいな……なに?」
「俺たち、異世界に来たみたいなんだ」
「はぁ、マジで気持ち悪い。やめてよね、どうせ異世界モノのアニメを深夜に一気見してアニメと現実が区別できなくなったパターンでしょ。私を巻き込まないでくれる?」
「違う! とりあえず来いよ、見ればわかるって」
陽菜美の手を引いて、この部屋の窓からベランダに出る。
そこでユリさんを見て「うあっ、すごい美女……!」と驚く陽菜美だったが、そんなものは序の口だ。一緒に首を回してファンタジーな景色を眺める。
「何これ絶景じゃん! 広い平原の先に山が見えるし、なんか城壁みたいなものもあるし、絶対日本の景色じゃないよ……!」
「だろ? 俺が言った通り、ここは異世界なんだよ」
目を丸くして馬鹿みたいに口を開いて驚く陽菜美に、俺は得意げに「ふふん」と鼻を鳴らした。
「それでは私から一つ助言をしてあげましょう」
すまし顔でそう言うと、ユリさんは透き通るような声を風に乗せる。
「環境に適応しなさい。そうすればどんなことがあっても乗り越えられます」
やけに心に響く言葉だ。それは異世界を生きていくための助言であり、俺たち兄妹の新しい日常への門出の言葉でもあった。
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