ブルーのバトルスタイル
宇宙のさすらいの賞金稼ぎ、ブルー。
あらいぐまの姿を省エネモードとするなら、ハーネス付きの青タイツにマスクの恰好こそ、ブルーの戦闘モードと言える。
ターミナルの正面玄関へと風に乗って現れた、ブルーを囲むのは多種多様な異形の頭部をした異界人たち。
「いーち、にー、……ざっくり見ていっぱいいるな」
「ふざけるなよ、ゼブル。俺たちの顔、忘れたとは言わせねえぞ!」
適当に取り囲む人数を数えた後に早々に切り上げたブルー。
そんなブルーに怒りを見せた豚の頭部をした獣人、オークのボス格は懐から取り出した歪な形の棍棒をアスファルトの地面に叩きつける。
アスファルトは割れ、小規模とはいえ、周囲一帯を震わせた。
限定的とはいえ、地震のようなものが起こせる技術や魔法を持っているのだろうとブルーは推測する。
ターミナルの正面玄関はターミナルを終点とする、ソドムシティの市バスや車が出入りしている。
人の出入りが多いにも関わらず、視線を気にしないのは田舎者かとブルーは内心笑った。
「覚えてないな。……もしかして、晩飯になりに来てくれたのか?じゃあ、ありがとうと言わせてくれ。
ちょうど、腹拵えできそうだってな」
怒りで顔を赤くし、唾を吐きながら、オークのボス格は叫ぶ。
「誰が豚だァ!!!いいか、俺たちはなぁ、宇宙海賊なんだよ!ナメられたら終わりなんだよ!兄貴をてめえに牢屋にぶち込まれた礼、たっぷりしてやるからなぁ!」
「それはまぁ、兄弟想いな舎弟なことだ。あの豚も、ぶうぶう鳴くだけ鳴いてたからな」
ボス格は多勢に無勢の状況を恐れるどころか、あろうことか、家畜に例えるブルーについに堪忍袋の緒が切れた。
「兄貴の仇をとれ!!」
棍棒を持った腕を掲げ、舎弟たちに号令を発する。
ブルーという虫ケラを叩き潰せ、という号令。
もはや、どちらが悪なのかは分からなくなってきた喧嘩となってきたが、ブルーはリーフブレードを手にマスクの下でニヤリと笑う。
海賊オークの大ぶりな棍棒の扱いは隙が多く、躱すのは容易だった。
攻撃の合間を縫い、海賊オークをリーフブレードで切りつけ、数を減らす。
隙をみつけたボス格が自らの手下であるにもかかわらず、その身体の上を踏みつけてやってくる。
ボス格のそうした振る舞いから仲間意識など皆無、とブルーはボス格が棍棒を振るうたびに発生する衝撃波をリーフブレードで風を起こして相殺する。
相殺し損なったものはターミナルの敷地内にある標識やタクシーを切り刻み、辺り一体は騒然とした。
愉快犯的存在である魔王ルヴィムや己のエゴに従う異界人に慣れっこである、ソドムシティ住まいのソドムっ子達であっても、この程度の規模はまた別だ。
「宇宙海賊とタイツの奴が戦ってるぞ!」
「ワンダーコープの私設部隊はまだか!?誰か早くソドムシティ本社に連絡しろ!このままだと、ターミナルがめちゃくちゃだ!」
利用客たちは騒然とする。
異世界の技術や兵装の開発・売買を行っているワンダーコープにはウイングスという私設部隊を持っている。
その私設部隊は|特異生命体迎撃武装行使装甲服《SpecialAssaultSuit》、頭文字を取ってSAS。
異世界の技術を応用した、特殊なパワードスーツ部隊である。
人間が人間のまま、怪物たちに立ち向かえるようにという用途を目的に作られたそれらは先の魔王ルヴィムの悪戯に駆り出されたときはガーディアンに遅れを取ってしまったが、所属している構成員たちのレベルは高く、鳥類の名前を取った部隊の隊長たちの中でも特にバケモノと例えられる第一部隊「ファルコン」の隊長をはじめとするSAS乗りは凄まじいとされる。
「オラオラ!!劣勢になってきてるんじゃねえのか!?」
「それはお前の方もだろ?手前様だけじゃない。それにこの街にオモチャを着て遊ぶのが好きな地球人がいるってのは予習済みでな、豚とは頭のつくりが違うんだよ」
とんとん、と自分のこめかみを叩くと、ボス格は怒りで血が上って顔が真っ赤になったかと思えば、その身体の体色が一気に赤く染めあがる。
オーク種の宇宙人の特徴の一つである、激昂は怒りを覚えれば覚えるほどにパワーアップするというもの。
ブルーのリーフブレードと棍棒で撃ち合っていたが、パワーアップすることでブルーの手からリーフブレードが離れると、木の葉のような刀剣の武器はブルーの力の影響下を抜け出したことで普通の木の葉に戻ってしまった。
「もう、これ以上、オマエに勝機はなイ!!大人しくミンチになっチまえ!!!」
「おいおい、片言でしか話せないようになってしまってるのか?まださっきのほうが知性を感じるくらいだぜ?」
ブルーは肩で呼吸するまでになった、ボス格の様子に距離を取りながらも、気を張って周囲の様子を窺う。
ブルーのモットーは武器となるものは現地調達、多くの賞金首を相手にするにあたり、ブルーは現地から武器になりそうなものを調達し、賞金と交換できる状態までに大人しくさせてきた。
ぐるりと見まわした後、ブルーはお目当ての長物を発見し、そちらへと跳んでいく。
約二メートル近い、百九十センチ近い全身タイツのマスクをすっぽり被った怪人が飛んできたとあれば、距離を取るものも多くなく。
地面に突き刺さった交通標識を引き抜き、それを棒術を披露するようにぐるぐると回す。
先端が丸くなっているが、長さとしても申し分なく、困ったときは投擲武器としても使えるとブルーはわずかな間にその特徴を掴みつつあった。
ボス格は激昂状態にあることで単調な攻撃を繰り返すことしかできなかったが、周囲を棍棒で叩くたびに小規模の揺れを起こし、それが先ほどまでとは威力が段違いになってきていれば、ソドムシティの警察のロゴの入ったSASが出動し、やがて二人の周囲を取り囲む。
『そこの不審者とオークの異界人!!武器を捨てて、降伏しなさい!!』
「俺に命令シていいのは、兄貴だケなんだァァァァ!!毛無しのサルが、命令するなァァァァ!!」
SASの拡声器から聞こえてくる、勧告に対してボス格はずかずかと歩いていくと、その瞬間に一斉射撃が始まる。
牽制射撃とは言えない、もはや射殺する気概さえも感じられるほどに彼らは本気だったが、激昂して怒りを感じないでいるボス格にそれは意味がなく、その装甲を破壊するようにボス格は力任せに彼らを掴んで首を捻ると、トマトジュースが溢れ出すように血が噴き出す。
その様子に恐怖を感じた、他の隊員たちが射撃を怯まずに行うが、ボス格も一見すると味方のように見えるブルーも、彼らからすれば怪物に等しい。
ボス格は警察隊員の身体から搾った、血液をトマトジュースのように味わうと、力が沸き上がるのを感じ、弾丸を防弾チョッキのように通さない肌で跳ね返しつつ、ブルーと再度戦い始めようとするが、大ぶりの一撃が振るわれようとした瞬間、隙を逃さないとばかりにブルーはボス格の脳天めがけて数十メートル先から投擲する。
ブルーはソドムシティ警察のSAS部隊に加勢したわけではなかった。
自分の方に向けられる銃口から楽しげに逃げ回り、ボス格にとどめを刺す瞬間を今か今かと狙っていたのである。
ブルーの手から放たれた、標識は音を切る矢のようにビュンと唸り声をあげ、ボス格の脳天を貫いて動きを止めた。
「豚の串刺しの完成というわけか」
「ブルー!乗れ!」
「遅かったぞ、坊主ども」
機を見て到着した、ユウセイを助手席に乗せたルーデンスの車にマスクの下でブルーはニヤリと笑うと、突っ込んできたライガー三〇〇にブルーは飛び乗り、三人は「そこのライガー三〇〇!!直ちに止まりなさい!!」という声がだんだんと聞こえなくなるまで、車を転がした。




