ルーデンス・スカーレッドの日常:後編
「入星管理の連中にこうも手間取るとは思わなかった。この星は辺境にある癖にどうもチェックが厳しい。
手前様の生まれはベール星雲V55星、この星じゃあ、手前様たちはV55星人と呼ばれている。
手前様はベール・ゼブル。ブルーと呼んでくれ。リリィ嬢ちゃんとは旧知の仲でな」
あらいぐまの姿をしたような宇宙人、ブルーがルーデンスとユウセイに帽子を取り、頭を下げる。
可愛らしいあらいぐまがあまりに丁寧に頭を下げるものだから、ユウセイが呆気にとられると、ルーデンスはすぐに頭を下げる。
「俺はルーデンス、ルーデンス・スカーレッド。
こっちのヤツはユウセイ、共にボスの組織で構成員やってる」
「俺は俺で自己紹介させてくんねえのかよ!?」
ルーデンスにユウセイが食ってかかると、その様子にブルーはくつくつと笑った。
「なるほど、随分とリリィ嬢ちゃんはイキのいいのを見つけてきたんだな。
頼んだぜ、坊主たち」
ブルーが笑っていると、ユウセイとルーデンスは自然とブルーに視線を向けていた。
見てくれが可愛らしい、あらいぐまが自分たちを見上げて笑っているのが理由としてもあったが、そんな体躯では果たして戦えるのかという疑念があったのだ。
「ん?どうした、坊主たち」
「いや、あの……」
「ブルーってよ、どうやって戦うんだ?そんなちっこいカラダじゃ、動けねえだろ?」
ブルーがルーデンスとユウセイを見て可愛らしく首をかしげると、ルーデンスが言いづらそうな様子を見せれば、そこから続けるようにしてユウセイが言葉を繋ぐ。
「おい、ユウセイ。ボスのご友人だぞ、もう少し口を慎め」
ユウセイの言葉に言葉が過ぎるぞ、とルーデンスがユウセイの頭を叩くと、ユウセイはルーデンスを睨みつけ、ブルーは笑った。
「いや、気にするのはもっともだ。ユウセイ、その感性は大切にしろ。これから、一緒に戦う相手の戦力の把握はいつもしておくべきだろう」
ブルーが帽子から取り出した、何かに触れるとその姿は光に包まれる。
小さなシルエットは上に長く伸び、ぴっちりとボディラインが出ているようなブルーの全身タイツのようなボディスーツにハーネス、さらに隈取のようなラインのある蒼いマスクを被ったアメコミヒーロースタイル。
ユウセイはおろか、ルーデンス以上の長身であり、得意げに胸を張っている。
さながら、変身ヒーローの変身バンクのような衣装替えはどこかウルトラマンを思わせるようだった、とユウセイは思った。
「ベール星雲V55星人がいたぞ!」
「出たな、賞金稼ぎのブルー!!」
そんなブルーの姿を見つけた、怒号が聞こえる。
多くの異界人が出入りする、このターミナルには様々な人種が出入りしている。
ユウセイとルーデンスが所属する、ガーディアンには多くの事情を抱えた構成員が所属している。
そんな中、迎えに行くようにとボスのリリアーヌに言われたブルーもまた事情を抱えていないはずがなく。
「ブルー、つかぬ事を窺うが」
「どうした、ルディ坊主?」
ルディ坊主。
まるで子供を相手にするような呼び方だとブルーの返答にルーデンスは頭を抱える。
ルーデンスをルディ、なんて愛称で呼ぶのは任務外のリリアーヌだけである。
ブルーが数人の異界人に段々と囲まれていながらも、余裕な様子を見せているので、実力者なのだろうと推測するが、あのご挨拶はもしかして、といらぬ推測をしてしまう。
「彼らはもしかして、ご友人だったりはするのか?」
「ハッハッハッハ!面白いことを言ってくれるな!あんな恋人がいてたまるか、という話だ。
ルディ坊主、ユウセイ坊主!お前たち二人は先に車の準備でもしてもらえるか?」
「アンタはどうするんだ、ブルー」
いーちにーごー、と向かってくる数人を人差し指で指して数えつつ、ルーデンスとユウセイに提案する。
采配や指揮が得意ではないユウセイも、ブルーが今から何をしようとしているのかはだいたいわかる。
賞金稼ぎのブルー、ベール・ゼブル。
豪放磊落で細かいことは気にしない、ガーディアンのボスであるリリアーヌ・ヴェルメリオの知人である彼。
そんな彼のリリアーヌとの共通点とは。
「ひと暴れしてくる」
「おい、俺たちはボスからブルーの護衛を頼まれてるんだが!?そんなの許可できるはずがないだろ!?」
ブルーが力を込めると、腕の部分から三本の葉が生える。
そのうちの一本を引き抜き、ひらりと送風するように動かすと、その形は葉のような形状の武器となる。
「五月蠅ェな、手前様がやるって言ってるんだから、いいじゃねえかよ。
とっとと、準備しに行け」
「!?」
ブルーの静かな怒声にユウセイとルーデンスの動きが止まる。
リリアーヌとブルーの共通点、それは、ブルーはリリアーヌと同じ、強者であった。
二人に一瞥もくれず、葉のような形状の武器、リーフブレードと名付けられたそれを振るう。
自動扉が開いた瞬間、ブルーは異界人の徒党を風を巻き起こし、外へと吹き飛ばした後、その風に乗ってブルーはまるで飛ぶようにして風に乗っていった。
「ユウセイ、行くぞ」
「いいのかよ、ルディ。ブルーの加勢に行かなくても」
「あのなぁ、さっきの気迫を見なかったのか?」
残されたユウセイとルーデンス。
ルーデンスに呼びかけられたユウセイはブルーが飛んで行った方向を示すが、ルーデンスは呆れたように肩を竦める。
「あれは、ボスと同じ人種だ。
逆に俺たちが行ったら、足手まといになるんだから。
……あとで、ボスには上手く言うしかねえけどな。あー、面倒くせぇ」
「そういうことなら、仕方ねえのか……?」
果たして上手くリリアーヌを納得させることができるだろうか、と考えるだけでルーデンスは頭が痛くなるほどの思いだった。
ルーデンスはそのまま、ブルーの指示に従うことにし、駐車場へと向かう。
あの気迫の出せる強者であれば、自分たちが準備を済ませた頃には正面玄関の方で合流し、車に乗せてガーディアンの本部に向かうことができるだろう。
道中に唐突なカーチェイスでも始まらなければ、きっと上手くいくはずだと信じて。
「とっとと行くぞ、あのタイプのヒトはわがままだからな。思うとおりに進まないと、あとで何言われるかわからねえからな」
そういうことであるならば、と歩き出したルーデンスの後をユウセイは慌てて追う。
わがまま、と聞いて無茶ぶり上等のボスが浮かんできたので、「わがままって、もしかしてボスの事?」とルーデンスに尋ねると、ルーデンスはユウセイの頭を叩いた。
上を見ても、隣を見ても、そして下を見ても問題児ばかり。
新しく入ってきた、あの宇宙人はあの態度を見るに自分と同じ役割を期待するのは難しそうだとみて間違いないだろう。
同じチームのハリウッド、ユウセイ、ボスのリリアーヌとともに周囲の人間を振り回すタイプの人種だと感じた。
ターミナルのある建物とは違う棟の駐車場に停めていた、ガーディアンのメカニックが改造を施したワインレッドのスーパーカー・ライガー三〇〇。
キーを挿し、エンジンを吹かせる。
ユウセイを助手席に乗せ、ライガー三〇〇でターミナルの正面玄関へと猛スピードで向かう。
駐車料金をクレジット払い承認操作をタッチパネルで手早く行い、片手で運転するのもリリアーヌの無茶ぶりに付き合ってきた今ではもう慣れっこだ。
「ウチにはこんなのしかいないのか」
そんな愚痴を吐くのも、ルーデンス・スカーレッドの日常なのである。




