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ルーデンス・スカーレッドの日常:前編

 

 ソドムシティにある、ガーディアン本部。

 建物群の一つの中にあるビルこそ、秘密結社ガーディアンのアジトであった。


 その建物の一室。


 アンティークのオーダーメイドの肘掛け椅子に座っている少女こそ、ガーディアンのボスであった。

 尖った三角の耳に金髪、言葉を紡ぐたびに覗く八重歯の十代半ばほどの真紅の瞳の少女。

 イエローのバルーンスカートのドレスにデニムジャケットを羽織る、そのセンスが彼女という存在(・・)を飾り立てる。

 彼女こそ、リリアーヌ・ヴェルメリオ。

 ガーディアンのボスであり、実力者の最強の吸血鬼である。

 彼女の部屋は多くの品があるが、壁にかけられた極めて高い精度と画力で描かれた、リリアーヌの肖像画。

 その左端にある、サインはダイナーにあるユウセイの父、天晴のものと同様だった。


「ターミナルから?」


 リリアーヌに話を振られた、同じ真紅の瞳の青年。

 ワインレッドのシャツ、ブラックのサルエルパンツにブランド物のベルトを締め、さらに異界由来のドラゴン革の革靴の姿は彼の端正な顔立ちもあり、街を歩けば、ファッションモデルと見間違うほどであった。

 純粋な吸血鬼のリリアーヌと違い、半吸血鬼(ダンピール)である、ルーデンス・スカーレッドは貴族と言っても差し支えがない身分のリリアーヌの部屋にある漫画家の描いた肖像画をはじめ、奇妙な品の数々をルーデンスは視線だけで見渡す。

 何度、部屋に入ってきても、正確な品数は把握できそうにないのが面白かった。


「ええ、そうなのよ。

ターミナルから来る要人を貴方に護衛してほしいの、ルーデンス。

見ての通り、ほら、あの子はいまああでしょ?」


 リリアーヌの視線の先にはソファで報告書の作成にかかる、ユウセイの姿がある。

先日のほぼ独断専行の件、そして魔王でなくては使えない己の領域(テリトリー)を作り出す、幻界顕現の行使をしたことによる報告書の作成である。

 リリアーヌやその従者、ルヴィーはさほどユウセイには厳しくないものの、ルーデンスは甘くない。

 ユウセイの報告書作成はルーデンスの一声によるものだった。


「まぁ、アレは妥当でしょう。

勝手にスカウトして、勝手に首突っ込んで。

よくもまぁ、生きてこられたものだ」

「あの子もあの子で優しいのよ、ルーデンス。

ユウセイには少し優しくしてあげて?」


 リリアーヌはルーデンスの顰めっ面に優しく返すと、ルーデンスはため息をついた。


「わかりましたよ。

ユウセイ、書き上げたらターミナルのところに来い」

「要人護衛に俺ぇ?」


 ノートパソコンをブラインドタッチで入力する手を止め、ルーデンスの指名にユウセイは気が抜けた声で返した。


「そうだ。

あの(・・)ハリウッドに任せられると思うか?」

「無理だなぁ。アイツ、周り見ねえし」


 チームメンバーのうち、パワータイプのハリウッドを例えに出すルーデンスの顰めっ面にユウセイは困った顔で返す。

 ガーディアンが誇る、リリアーヌに並ぶパワータイプは周囲を顧みない。

 周囲にある、あらゆるものを目についたからとばかりに投げるような性格はもちろん、護衛には向いていない。


「先にターミナルに行く。

ボス、アンタも古い間柄でも関係はしっかりしておくべきだ」

「いってらっしゃい、ルーデンス。

大丈夫よ、ユウセイはきっとわかってるから。

ね、ユウセイ?」


 ルーデンスがポケットに左手を突っ込んで踵を返し、扉に歩き出してドアノブへと触れるとリリアーヌに返せば、彼女はユウセイに優しく語りかける。


「……たぶん、だいじょぶ」

「うんうん、いけるわね!!」


 ふるふる、と首を横に振るユウセイ。

 そんなユウセイにリリアーヌが嬉しそうに言うと、ルーデンスはため息を吐いた。


「……親バカ?」



 ソドムシティの中心にターミナルは存在する。

 外と行き来できる、唯一の場所であるのと同時に世界各国のさまざまな主要都市を特製の旅客機・メギドによって直通便が存在している。

 その機内は人目では人間のようにしか見えず、ある噂話によれば、宇宙からも来訪者がいると言う話もある。

 その来訪者を護衛するように、と言うのが今回の任務なのだが。

 一番から十二番と出口があるが、そこから降りてくる異界人たちは十人十色だ。

 そのうち、人間の数は少なくないものの、異形であることを隠すように擬態する異界人もいるため、全てが人間だとは分からない。


「こういう時じゃないと、ターミナルってなかなか来ないよな」

「それはある。お前はソドムの生まれだったか?」

「生まれも育ちもソドム。だから、あと使うのはシティ内のソドム鉄道くらいかな」


 ターミナルが外とシティを結びつけるものとするならば、ソドムシティに敷かれているソドム鉄道はシティ内を繋ぐ大事な交通手段であった。

 青地のボディに黒のラインが入った、ソドム鉄道は熱心なファンも多く、ブルースペーダーはソドム鉄道のシンボルで主に知られている。

 ソファにユウセイが座り、ポケットから定期が入ったパスケースを取り出し、ルーデンスに見せる。


「ボスが言ってた、要人ってどんな奴なんだろうな?」


 ユウセイがスマートフォンに入っている、メッセージの返信を行いながら、ルーデンスに尋ねる。


「宇宙人ってルーデンスは見たことある?」

「それはお前に応えてやる必要があるのか?」


 ユウセイの何気ない言葉にルーデンスは冷たく言い返した。


「素っ気ない!?」

「さて、一体、どんなのが……って、うん?」


 ルーデンスが辺りを見渡していると、二度三度と目を凝らす。

 ルーデンスの真紅の瞳が捉えたのは、スーツケースを引き、帽子を被った来訪者。


「お前らが嬢ちゃんのところの、手前様を迎えに来たガキか?」


 きりりとした表情を浮かべた、ハエのような羽根を生やしたあらいぐまだった。

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