19p【最後のチャンス】
ある日、突然ペルシカにとって、チャンスが訪れた。
「お嬢様、私奴は、明日一日外出しなければなりません。」
「そう、お気をつけて。」
(やったわ!チャンスが来た!)
「はい、ですから、お嬢様には明日、一日眠ってもらいます。」
「そう、…は!?」
「何か?」
「何か?じゃないわよ!!どうして丸一日無駄にしないといけないわけ?」
「ですが、私奴の外出中に何かありますと不安で不安で、何も手につきませんので。」
「何もないから安心なさい。」
「そうで…ございますか?」
ヤードは不敵な笑みを浮かべ、ペルシカの全身を舐めるように見つめた。
その笑みは何か陰険であり、ペルシカを不安にさせるものだった。彼の視線は彼女の全身を通り抜け、その姿をじっと捉えていた。
「何よ。」
「運動もされていないはずですのに、随分と筋力をつけられましたね?」
そう言われて、ペルシカはドキリとして、冷や汗をかいた。彼女の背筋が凍りつき、肝が一瞬で冷えてしまった。
ヤードの言葉とその不気味な笑みに、彼女は恐怖に打ちのめされた。
「そうかしら。そんなに不安なら明日、お兄様にでもワタクシを預ければ良いでしょう?」
「お嬢様、私奴は何年お嬢様に仕えてるとお思いで?お嬢様の考えてる事など全てお見通しでございますよ?」
(流石ヤードだわ。仕方ないわ、今回は一旦諦めよう。)
「…わかったわよ。ヤードが眠らせたいのならそうすれば良いじゃない。」
ヤードが何かに気付いてドアの方へ向かうと、突然、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。ヤードがドアを開けると、そこには訪ねてきた者が立っていた。
ヤードの顔には驚きの表情が浮かび、彼は訪問者を迎え入れた。
「すまない、領の事でペルシカに相談があるんだ。」
兄のプルヌスが領のことで相談に訪れることはまずありえない。ペルシカはそう考え、彼の訪問には別の用事があると推測した。
「領の事でしたら私奴がお答え致します。」
「いや、これはペルシカに聞きたい事なんだ。」
「左様でございますか。」
「あぁ、すまないがヤードは席を外してくれ。」
「畏まりました。」
ヤードは礼をして部屋を出ていった。その後、ペルシカの兄であるプルヌスが部屋に入ると、彼はすぐに防音魔法をかけた。
部屋の内外からの音を遮断するため、プルヌスは力強く魔法の呪文を唱えた。その呪文が唱えられると、部屋の周囲には静寂が広がり、外部からの音が全く聞こえなくなった。
「ふぅ…。これで話ができる。」
「どうかされましたの?」
「うん?妹が病気だと聞いて、心配しない兄がいると思うかい?」
少なくとも、本来の兄であるプルヌスは絶対に心配することはないだろうと、ペルシカは確信を持って言えた。
「その顔は疑っているな?そうだな。もし、ペルシカを心配しない素振りを見せるとしたら…それは、そうする事でいざという時、ペルシカの命を守ろうとしている時だと思う。僕はペルシカが生まれたその日から愛しているからさ。」
プルヌスはペルシカに向けて、とても家族の愛とやらが込められた優しい笑みを浮かべた。彼女は兄の笑顔から、彼が彼女を大切に思っていることを感じ取った。
「お…兄様…。」
「なんて顔をしているんだい?小さな頃から僕に懐いてくれなかったのはそれが理由かい?」
「え?」
「ペルシカの発明するものだったり、行動を見ていて流石の僕でもわかってしまうよ。君は一度この時間を生きて回帰しているんだろう?」
「ん!?…近しいけれど違いますわ。予知を見て、両親とお兄様に酷い目にあっている予知ですわ。それと、全く別の世界の夢。」
「なるほど、良い線はいってたな。さて、僕はどうすれば困っている愛しの妹を助けられるかな?」
「それは…今すぐ、ワタクシを王城へワープさせて下さい。」
「詳しく理由を聞いても良いかな?」
「ヤードはこのハイドシュバルツ家にワタクシを軟禁しております。ですから、王城で保護してもらうのです。」
「なるほど、王城で保護されれば、ある程度の自由が得られると考えているのか。」
「はい、直接王に保護を願うのです。」
「ふむ。ペルシカ。残念だが、王城も安全とは言えない。」
「え!?」
「何故なら第一王子と…。」
一瞬だった。ペルシカが瞬きをしたその瞬間、兄であるプルヌスの首元にナイフがあてられていた。その姿に彼女は目を見開いた。
そのナイフを持っているのは、もちろんヤードだった。彼の顔には冷徹な表情が浮かび、彼の手は確かにナイフをプルヌスの首に押し当てていた。
「おっと…手厳しいね。二人とも、そろそろ正直になるべきだと思っていてね。」
「正直?何を仰っておられるのですか?お嬢様と私奴の距離は至って良好でございます。」
「そうか。なら、安心だ。もう何も言わないから離してくれ。」
手を上げるプルヌスに、ヤードはナイフを降ろした。その瞬間、「幸せになれ。ペルシカ。」と言って、プルヌスは素早くペルシカの手を握り、魔法で彼女を瞬間移動させた。
ペルシカはその瞬間、まるで空間が歪むような感覚に包まれた。彼女の周りに広がる景色が一瞬で変わり、次の瞬間には新たな場所に姿を現していた。
プルヌスの言葉と行動に、ペルシカは戸惑いながらも彼の思いやりと愛情を感じた。
当たりを見渡せば、豪華で広い部屋が広がっていた。その部屋の壁には、ペルシカと男性が二人寄り添う絵姿の絵が何枚も飾られていた。
彼女はその絵を見つめながら、その男性との関係について思いを巡らせた。彼らは一体誰なのか、そしてなぜ自分と一緒に写っているのか。
(何よ…この部屋。隣いる男は誰?どの絵の私も別々の男性と描かれてる。そもそも何か違和感があるわ。)
絵を見ていると、一番大きな絵が目に留まった。そこには自分とヤードに似た人物が描かれていた。男性はヤードに似ているが、微妙に違いがあり、何か異なる特徴があるように見えた。彼の表情は深い優しさと謎めいた雰囲気を持ち、ペルシカとの関係を暗示しているかのようだった。
「…とうとう、やってきてしまいましたね…。」
声がして振り返ると、そこにはヤードが立っていた。しかし、その姿が徐々に変わり始めた。ヤードの容貌が変わっていく光景に彼女は驚愕した。彼の黒髪が美しい金髪になり、瞳の色が赤から澄んだ青色に変わり、服装も一変し、豪華な正装に身を包んだ王子の姿に変わっていく様子はまるで魔法のようだった。
ペルシカはその姿を見つめ、混乱と驚きに心を揺さぶられながらも、彼が本当の姿を隠していたことに気づいた。
「ヤード…。やっぱりヤードは王子だったのね…。」
「違うよ。ペルシカ。私はプレイヤード・メリアライト。この国の第一王子でございます。もう何年もヤードに体を貸していたせいか…すっかり口調も彼に似てしまったようですね。」
王子はニコリと微笑んだ。言葉を発した後に必ずニコリと笑う癖はヤードとそっくりだった。しかし、やはり今目の前にいる王子はどうみてもクインシールと瓜二つだった。
「どういう事?」
王子は耳につけていた紫色の宝石のピアスを外し、それをペルシカに見せた。王子の手に握られたピアスは、光に照らされるたびにきらめき、まるで魔法のような輝きを放っていた。
「この紫色のピアスを着けると初代メリアライト王国の王、プレイヤードが憑依するのです。と、いっても魂は同じですけれどね。なんとも言い表しがたい現象です。」
王子は再びピアスを耳につけ、その美しい紫色の宝石が彼の耳元で輝き始めた。
「じゃあ、ヤードであってヤードではないのね?」
「はい、そういう事になります。今現在ヤードは心の檻の中で指を加えて、この現状を見ているといったところでしょうか。この部屋は特殊な部屋で代々プレイヤードと名付けられる王子にのみ与えられる魔法無効の部屋でございます。ですので、ヤードの状態を解除する事が可能なのです。」
ペルシカが王子に向かって言った。
「なら、最初から王子のままで良かったじゃない。」
王子は微笑みながら答えた。
「いえ、ヤードはこの世の理を超えた力を使う事ができます。とても便利なのですよ。」
ペルシカは考え込んだ表情で続けた。
「後、もう1つ聞いて良いかしら。」
王子は優しく頷いて言った。
「なんなりと。」
「この部屋一面に飾られている肖像画は何?」とペルシカが尋ねた。
王子は微笑みながら答えた。
「あぁ。これですか?前世の私とペルシカですよ。ほら、一番大きな肖像画の私はヤードとそっくりでしょう?」
ペルシカは困惑した表情で続けた。
「…どうして私だけ見た目が変わってないの?」
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