18p【乳白色の液体は禁止です。】
卒業式の日、ペルシカはヤードに介護されながら、誰とも喋ることもなく、その日を終えてしまった。
彼女は心の中で複雑な思いを抱えながらも、式典に参加し、卒業を迎えた。しかし、彼女の周りにはヤード以外誰もいなかった。友人や教師との交流もなく、卒業の喜びを分かち合うこともなかった。
彼女は彼の介護に頼りながらも、心の中で何かを失ったような気持ちに苛まれた。
卒業式の日は、彼女にとって特別な日でありながら、寂しさと無力感に包まれた日となった。
それから、ペルシカの病気を理由に結婚式の日が延期されているらしい。
ペルシカはその知らせを耳にして驚きを隠せなかった。彼女はヤードに介護されながらも、結婚式の準備が進んでいるのだと思っていた。
まったく、学生ライフを取り込んでおいて数日しか行けずに終わる物語があるだろうか?自分の人生が本にされていたら相当訳のわからない展開をしているだろうとペルシカは思っていた。
ペルシカの目標は王城で保護してもらうことに変わっていた。彼女はどれだけ王子が変態でも、うちのヤードよりマシだろうと思っていた。これまで離れて生活していたことで、彼女は王城での生活が自分にとっては多少の距離を保てるものだと考えていた。
しかし、彼女の選択肢は限られていた。もし王城での保護を受けることができなければ、彼女は自分の肉親を捨てて一人で国を去らなければならない可能性があった。
それからの日々は、ヤードの厳しい監視の目を欺き、体を鍛えることに集中するペルシカだった。
彼女は屋敷の庭や廊下で行う日常の活動の中で、こっそりと体力トレーニングを行った。ヤードの目をかいくぐり、彼女の筋力を取り戻すために、彼女は汗を流し、限界まで自分の体を鍛えた。
そして、彼女の努力は実を結んだ。徐々に彼女の筋力は回復し、元の力強さを取り戻していった。
夜が訪れると、必ずヤードがペルシカの部屋にやってきた。
ヤードは静かにドアを開け、ペルシカの部屋に入ると、彼女のベッドに近づいた。彼は丁寧に手を洗い、その後、ペルシカの全身をマッサージする準備を整えた。
ペルシカはベッドの上で横たわり、リラックスした姿勢で待っていた。
ヤードの手は力強くて、同時に優しく、彼女の筋肉をほぐしていく。彼の技術は素晴らしく、彼女はその快感に身を委ね、深いリラックス状態に入っていった。
彼らは静かな雰囲気の中で、時折耳に響くはっきりとしたマッサージの音だけが部屋に響いていた。
「お嬢様、少し…筋肉がつき過ぎているような気が致しますね。」
「そう?でも、食べてばかりだと太ってしまうから丁度良いんじゃなくて?」
(まずい、勘づかれた?)
「私奴は別に太ってしまっても構いませんよ?どんなお嬢様でも心から愛しておりますので。」とヤードはニコリと笑った。
「でも、少しでも綺麗なドレスを綺麗に着こなせるような体でいたいわ。沢山ドレスを頂いているし、着れなくなるのは困るもの。」
「左様でございますか。では、いつもより入念にマッサージ致しますね。」
「えぇ、お願い。」
ヤードはペルシカの太ももにマッサージ用のアロマオイルを垂らした。
「ひゃっ!?何!?冷たっ!」
「申し訳ございません。アロマオイルでございます。」
ペルシカが振り返ってヤードが持つアロマオイルを見ると、その液体は乳白色で、何やらそれは危険なものに見えた。彼女の心臓はドキドキと高鳴り、不安と恐怖が彼女の体を支配した。
彼女はゾワリとした感覚と共に鳥肌が立ち、身の毛がよだつような不吉な予感が彼女の心を襲った。アロマオイルが何か危険な物質である可能性を考えると、彼女の体が緊張と恐怖で震えた。
「ヤード、次から絶対に透明なアロマオイルにして!!その色は嫌よ!!」
「承知致しました。しかし、此方はとてもお肌に良いオイルですのに、いったい何が御不満で?」
「何が御不満かと言えば、そのオイルが乳白色であることよ。普通のマッサージオイルは透明または薄い色でしょ?なぜそれが乳白色なのよ。」
「おっしゃる通り、このオイルは特殊なものです。それはあなたの肌に栄養を与え、美しく保つためのものなのです。私が用意したものですから、心配いりません。」
「無理!!やっぱり無理!!今すぐ透明なの使って!?」
「お嬢様、何を脅えて‥‥あぁ、もしかして、アレが混入しているとお思いなのですか?確かに、丁度このような色をしていますが、流石の私奴も、この量は流石に出せませんのでご安心ください。」
「ヤードの事だから分からないじゃない!!やりかねないって言ってるの!!」
「心外ですね。ですが、この先の参考にさせて頂きます。私奴のアレがねぇ。なかなかそそられますね。」
「もし、本当にやったら一生口聞かないし、一生触れる事も禁止、いや解雇よ!!」
「かしこまりました。次回からは必ず、透明なものをご用意致しますね。しかし、お嬢様。私奴はお嬢様に、そのような尾篭な話をお教えした覚えがないのですが、いったいどこで学ばれたのでしょうか?」
「前世よ!!前世!!経験はないけど、知ってるの!!」
「なるほど、仕方ありませんね。とりあえず、オイルを別のものに取り替えさせていただきます。」
「そうしてちょうだい。」
ヤードはアロマオイルを取り換えるために一度部屋から出て行った。ペルシカはその間、不安と疑念に満ちた心で彼の行動をじっと待ち続けた。そして、彼が部屋に戻ってくると、彼は手に透明で少し色のついたオイルを持っていた。
「お嬢様、ご安心下さい。透明でございますよ。」
「はいはい。私に乳白色は禁止よ!化粧水もよ!!乳液は許すわ。」
「そんなに警戒なさらなくても、そんな量はでませんしアレは保存も難しいのですよ?」
「どうだか。」
「しかし、お嬢様は想像豊でございますね。私奴が考えつかないような事を思いつかれます。」
「それはお互い様じゃない。」
彼は丁寧にペルシカの太ももにオイルを垂らし、彼女の肌に滑らかに広げていった。そのオイルの香りは穏やかで、彼女の心を和ませるものだった。彼の手は優しく、力を込めずに彼女の筋肉をマッサージした。
「ふっ…んっ…あっ。」
「お嬢様、ここがよろしいのですか?」
「ちがっ…う。そこっ、いたいっ。」
「では、もう少し此方を入念にマッサージさせていただきますね。」
「な、なんか今日のマッサージ変よ…。」
「特にいつもと変わりありませんが?」
「いや、なんか…男の人の手って感じがして…その…。」
ペルシカの肌が少しあかみがかり、それを見たヤードは嬉しくなってしまった。彼は自分がペルシカにとって男性として認識されたことに気づき、その事実に喜びを感じた。しかし、それはしばらく気付いてほしくない事でもあった。
「お嬢様、気のせいでございますよ。今はただ、ゆっくりと寛いでください。」と、ヤードは丁寧な言葉で語りかけた。
彼の声は穏やかで、ペルシカに安心感を与えるものだった。
彼女の心はヤードの優しい手技と、透明なオイルの心地よい香りに包まれ、疲れや不安が次第に消え去っていった。彼女の身体はリラックスし、眠りにつくための準備が整った。
ヤードは彼女が眠りに落ちたことに気付き、静かに彼女をベッドに横たえ、彼女の寝顔を見つめた。彼は彼女の安らかな姿を見ながら、深い満足感を感じた。
「お嬢様、私奴を男として意識して下さって、ありがとうございます。とても…嬉しかったのでございますよ。」
ヤードは静かに部屋を出て行き、ドアをそっと閉めた。彼はペルシカが安らかに眠り、心地よい夢を見ることを願いながら、彼女の安全を守るための見張りを続けた。
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